第16話 私の水着、どうかな? 興奮しちゃう?

 休日が開け、月曜日となった。

 そして、月日も変わったのである。

 今日から、七月なのだ。


 空気が暑くなり始めている時期。

 大半の人らは、クールビス系の服装に着替え終えていた。

 そんな涼しい恰好で通学通勤している人ばかりが、今、浩紀の視界に映る。


 春風浩紀はるかぜ/ひろきは先ほど、妹の友奈とは別々に自宅を後に、通学路を歩き。そして、同じ学校の制服を着用した人らの中に紛れるように、校門を通り過ぎたところであった。






 授業中、昼休み。それから、時間が淡々と過ぎ、放課後を迎えた。


 休日の時に約束した通りに、浩紀は通学用のリュックに必要最低限のモノを詰め込み、プールがある場所へと向かう。


 プールは学校の敷地内にあり、本校舎から少し離れた場所に位置している。 

 そこに到着した頃には、プールの入口が開いていた。

 誰かがすでに来ているのだろう。


 気が早いなと思いつつ、入り口を通り過ぎ、プールサイドへと移動した。

 すると、ブラシでコンクリートを擦る音が聞こえてきたのである。


 浩紀がプールサイドにパッと顔を出すと、プールの床に立ち、ジャージ姿でブラシを持ち、掃除に取り掛かっている橋本美玖はしもと/みく先生の姿があった。


「ふうぅ……掃除するだけでも、結構な運動になってるかも」


 今、美玖先生は独り言を呟きながら、真剣に掃除と向き合っていた。


「んッ、あれ? 浩紀君、もう来たの?」

「はい」

「でも、大体の掃除は終わらせておいたから。あっちの部分をブラシ掃除して。あとは水で泡をサッと流すだけよ」

「仕事が早いですね」


 浩紀は先生の熱心さを感じた後、プール全体を見渡した。


 やはり、先輩の姿が見当たらない。

 約束していたはずなのに、どうして、ここにいないのだろうか?


「もしかして、夏芽さんを探してる?」

「は、はい。そうです。どこにいるんですかね?」

「確か。さっき、来てたけど。もしかしたら、プール近くの更衣室にいるかも」

「更衣室ですか?」


 更衣室というセリフに、浩紀はドキッとした。

 童貞らしく、卑猥な妄想が浩紀の脳内を飛び回る。


「でも、覗きは絶対にダメだからね」

「そ、それはわかってますから」


 浩紀は慌てた感じに、誤解される前に急いで返答した。


「まあ、いいわ。それより、浩紀君も手伝って」


 泡まみれのプールの床に立つ美玖先生から、そういった指示を出された。


「わかりました。今からブラシをもって、そちらの方に行きます」


 浩紀は簡易的に反応を返し、制服のズボンと袖を捲り上げ、プール掃除できる恰好になる。


 近くにあったブラシを手に、プールの床へと向かい、先生と共に掃除を始めるのだった。




「浩紀君って、夏芽さんと一緒に水着を買いに行ったんでしょ?」

「はい……というか、先生、なんで知ってるんですか?」

「なんでって、あの子が私にそう言っていたからよ」

「……夏芽先輩、色々と口が軽いですね」

「そうかもね」


 美玖先生は、軽く愛想笑いを浮かべていた。


「でも、生徒とのコミュニケーションは大事だからね。色々と会話しないと。学校のこととか。進路だったり」


 美玖先生は口を動かしながら、浩紀に対して語り始めた。


 先生も大変である。

 授業だけではなく、生徒とも真摯に向き合わなければならない。

 先生自身も辛いことがあるのに、よく頑張っている方だと思う。


 そんなことを考え、浩紀はブラシを手に再び手を動かす。






 刹那――


「浩紀ッ」

「うわッ、な、なに⁉」


 急に背後からの誘惑があった。

 それは夏芽雫なつめ/しずく先輩から抱き付かれたことを意味している。


 それと同時。ぬくもりのような心地よさが背を襲う。

 先輩から抱き付かれているということは、必然的に、おっぱいと接触を果たすこと。


 や、やばい……な、夏芽先輩のお、おっぱいが……。


 豊満な胸の膨らみが、じわじわと浩紀の背を全体的を侵略するかのようだ。


「な、夏芽先輩……?」

「よく私だって、すぐに気づいたね」

「だって、こういう事するの先輩しかいないじゃないですか」


 そもそも、水泳部に関係しているのは、浩紀と美玖先生。そして、夏芽雫先輩の計三人しかない。

 その上、殺意力高めの爆乳を所有している美少女は、学校内、どこを探しても、先輩しかいないだろう。


 浩紀はおっぱいを背に感じ、嬉しいような気まずいような顔を浮かべ、溜息交じりに返答していた。




「でも、嬉しかったでしょ?」

「ま、まあ……嫌では、ないですけど」


 内心、フワッと嬉しい感情に心が包み込まれていた。

 が、そんなこと。夏芽先輩に言ってしまったら、色々な意味合いで負けだと感じ、そういったことは口にしなかったのである。


「ねえ、浩紀。私の水着どうかな?」


 先輩は背後から甘い口調で語りかけてくるのだ。


「いや、この前の休日に何度もみましたから」


 二日前。街中のデパート内にある水着専門店で、目に焼き付くほど、先輩から水着姿を見せられたのである。


 もう十分なほどに、浩紀の目や脳内を満たしていた。

 これ以上、視界に入れてしまったら、どうなってしまうことやら……。


「ね、こっち見てよ。ねえぇ、浩紀ー」


 夏芽先輩は少々意味深な口調でかつ、男心を擽るかのように、誘惑染みた言い方をしてくる。

 浩紀は頑なに、振り返ることはしなかった。


 ここは真面目に、掃除するに限る。

 そう自身の心に念じ、クソ真面目な態度で、ブラシを使って掃除を続けた。




「じゃ、これなんかどう?」


 夏芽先輩の気配が背後から消えた。

 そんな気がする。

 床を見ながら掃除をしていたことで、周辺で何が起きているか不明だが、何となく、先輩がどこかへ移動したような感じがしたのだ。


「これなら、ちゃんと見える感じ?」


 先輩の気配を前から感じた。

 嫌な予感がするが、掃除を続けるために、一度正面を見やると、そこには水着姿の先輩がいたのだ。


 この前の休日見た紐付きの水着……ではなかったのである。


 それはマイクロビキニと呼ばれるもので、ほぼ全裸に近いスタイル。

 大事な部分だけは、ギリギリ見えない感じではあるが、まじまじと見たら、見えてしまうかもしれないレベルだ。


 夏芽先輩のスタイルの良さが際立ち、グラビア顔負けの美少女が、そこに佇んでいるかのよう。


「――ッ⁉」


 浩紀は絶句した。

 あまりの衝撃的なスタイルに声を失ったのである。


 まさか、この前の紐付き水着だと思っていたからこそ、その衝撃具合が半端なものではなかった。


 やはり、夏芽先輩のおっぱいは凄い。

 それしか考えられなかった。


 浩紀は気まずくなり。そして、俯き、頬を紅潮させるのである。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る