第54話、魔技研発の改装案
軍令部内の定例会議。セレター軍港から奪取した英国艦艇の運用、改装について、第五部長の土岐が、軍令部内の案として資料を提出した。
それを受け取りつつ、第二部長の鈴木少将は苦笑した。
「これはまた、艦政本部が文句を言ってくるんじゃないか?」
日本海軍における軍艦の計画や設計、構成する装備の開発などに深く関わっている官庁である。海軍大臣の下にある組織で、海軍省の外局、つまり天皇直属の軍令部とは組織が異なる。
トラック沖海戦以後、魔技研が放出した艦が連合艦隊に配備されたことに加え、魔法式装備の登場で、艦政本部や航空本部は大騒動になっていたりする。
「なに、連中は新型艦の設計と、新装備の開発設計に忙しくて、イギリスさんの艦艇の改造案なんて考える余裕はないだろうよ」
土岐は素知らぬ顔を決め込む。そもそも、軍令部の組織だと明らかになるまで、謎のオカルト集団と見られていた魔技研である。艦政本部なども、それまではまともに取り合わなかったのだった。
なお、土岐は黙っているが、神明大佐は、艦政本部や航空本部その他組織で、新艦の設計の完成や、新型装備が完成すると、ひょっこり現地に現れて、それをパクり――九頭島でこっそり装備を量産していたりする。
その結果、魔技研再生艦は、戦艦『土佐』や『天城』、雲仙型大型巡洋艦なども、近代化改装され、比較的新しい機関や装備を搭載した状態で、連合艦隊に引き渡されていた。
閑話休題。
魔技研提出の英国艦艇改装案について、部長たちは目を通す。
※ネルソン級戦艦改装案
甲、合体・合成戦艦:ネルソン、ロドネーを合成し、1隻の大戦艦とす。
・基準排水量5万6000トンから6万トン。
・40.6センチ三連装砲四基十二門、乃至46センチ連装砲四基八門
・機関16万馬力。速力27~28ノット。
乙、資材を増量し、4万5000トン級戦艦への改修。2隻(ネルソン、ロドネー)
・基準排水量4万5000トン。
・40.6センチ三連装砲三基九門。
・機関16万馬力。速力29ノット~31ノット
「……土岐よ、この合体・合成とは何だ?」
福留の問いに、土岐は答える。
「文字通り、2隻を1隻に合成する。魔核と魔力があれば実行可能だ。連合艦隊に編入された再生艦の中には、そうして完成したものもある」
「『薩摩』と『安芸』を合わせて、超弩級戦艦にしたんだったな」
鈴木が言った。
「しかし、2隻を合わせて1隻とするのもな。40.6センチ砲を四基十二門は、この大きさだと少々もったいない気がする。そもそもネルソン級は1隻三連装砲三基で、これだと二基減ってしまう」
「それに、46センチ連装砲は新設計の砲になるだろう? 完成まで時間が掛かるのではないか?」
福留は首を傾げた。
「さらに言えば、1隻になってしまうのもよろしくない。軍艦は戦隊行動が肝だ」
ワシントン海軍軍縮条約の際、日本の長門型戦艦『陸奥』が、条約対象として廃艦を迫られた際、完成したものとして、その保有を頑として譲らなかったのも、その辺りも関係する。
「それなら、砲の数も変わらない乙案がよいのではないかと思う」
それに30ノット前後の速度に強化するなら、現在の連合艦隊の主力戦艦に劣るところもないだろう。
他の部長たちも同意するように頷いた。
「では次――」
いわゆるR級戦艦。型が古い上に、最大速力22ノット前後と、正直、今だと使用がかなり限定されそうな型だ。速度でいえばネルソン級もどっこいだが、あちらは強力な16インチ砲があるだけマシというところである。
正直、R級の脚ならば、米海軍に供与してもよいと思える代物である。米戦艦もまた、低速艦が多いから、R級なら、彼らの戦艦と足並みが揃うのも利点かもしれない。
それが魔技研の手にかかると――
※リヴェンジ級戦艦改装案
・近代化改装案
基準排水量3万5000トン
42口径38.1センチ連装砲(改)四基八門。
機関15万2000馬力。速力29ノット~30ノット
「これも高速化か」
「主砲が38センチ砲だから、『常陸』『磐城』と戦隊が組めるな」
福留がニヤリとした。ドイツのバイエルン級戦艦を改装した2隻も38センチ砲を搭載しているから、性能的にもちょうどよくなる。砲火力のアップした金剛型といった使い方もできる。
なお、現状のR級の主砲は改装されていない旧式砲なので、射程も短く使い勝手が悪いので、改装必須である。
「装甲も例の魔法防御装甲を追加するだろうし、そうなると手放すのが惜しくなるな」
「だとしても、魔技研にこれらを改造する余裕があるかも問題だぞ」
鈴木の指摘に、土岐は首を傾けた。
「なに、うちは魔核と魔力があれば、何とかできる。鋼材については拾いモノもあるしな。九頭島ドックに回した『大和』や『伊勢』も、改造修理するから、そっちも楽しみにしておいてくれ」
「どう改造するつもりなんだ?」
「後で改造案を提出するよ。……あー、そうそう『伊勢』だが、主砲を新しく41センチ砲に換装しても問題ないよな?」
「41センチ砲に?」
福留は目を回した。
「そりゃあ35.6センチ砲は、異世界帝国の戦艦相手には些か威力に不安がある。換えられるものならいいとは思うが。……これは、どんな改造案になるか楽しみではあるな」
一同は、資料の続きに目をやる。
※空母インドミタブル:魔技研再生のデアフリンガーなどの改装空母と性能が近いため、艤装を日本海軍のものと共通化する以外、大改装の必要なし。魔式レールカタパルトなど魔法装備を搭載。
※重巡洋艦エクセター:青葉型に近しい性能。改装は大破修理待ちの『青葉』と共通とし、同戦隊を組めるようにするのがよいと思われる。
甲、軽巡洋艦化:重巡洋艦としては性能が低いため、主砲を15.5センチ砲の自動砲に換装し、対駆逐、対軽巡砲戦に特化する。
・60口径15.5センチ三連装砲三基九門、他高角砲。
乙、防空艦化:高角砲を多数搭載して、防空巡洋艦とする。
一案・12.7センチ連装高角砲四基八門、長8センチ連装高角砲四基八門。
二案・長10センチ連装高角砲八基十六門。
「軽巡洋艦か、防空艦の二択か」
伊藤次長が唸れば、福留は小さく首肯した。
「エクセターは青葉型同様、重巡としては下のほうですからね。下手に重巡とするより、軽巡として運用したほうがいいかもしれません。現状、我が海軍の軽巡戦力は、少々心許ないですし」
「確か、⑤計画で軽巡洋艦の新造が上がってましたよね?」
金子第四部長が言う。福留は唇の端を曲げた。
「改阿賀野型とかいうやつだろう? あれを新造するより、このエクセターを軽巡化したほうがいいんじゃないか?」
そういえば、その阿賀野型だが――軍令部部長たちの会議は長く続くのだった。
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