第5話 竜王の噂と勇者の決意

 カルゴの話を聞いたコウスケは、驚きで目を見開いていた。


「竜王……!?そんな存在が……!?」


「あぁ……。見た奴の話によれば、その身体は真っ黒なうろこに覆われていて、長い尾を持っているらしい……。上空を飛んでいる姿を何人も目撃しているから、間違いないと思うぞ」


「そ、そうなんですか……」


 コウスケは呆然ぼうぜんとした様子で答えた。


(まさか、こんな話を聞けるとは……。でも、もし本当だとしたら……かなり危険な存在かもしれない……)


 考え込む彼の横で、カルゴはさらにこう続けた。


「誰かが、城の調査にでも入ってくれりゃあ、話は早いんだけどな……」


 その言葉を聞いて、コウスケはふと思った。


(調査か……。俺でも入れるだろうか?)


 チラッとカルゴを見ると、彼は不思議そうな表情で首を傾げた。


「どうかしたのか?」


「いえ……ちょっと、考えていまして……」


「何をだい?」


「いや、もしその竜王という方が悪い人だったら、放っておくわけにもいかないじゃないですか。それなら、俺が行って確かめてくるべきかなって思ったんです」


 コウスケの答えに、カルゴはポカンとした様子で固まってしまった。

 しばらくして、ようやく我に返った様子で口を開く。


「お、おい……兄ちゃん……!あんた、自分が言ってることの意味をわかってるのか!?」


 その言葉を聞いても、コウスケの表情に変化はなかった。むしろ、真剣そのものといった様子だった。


「もちろんですよ」


「い、いやいや!危険すぎる!命を捨てに行くようなもんじゃねぇか!」


 慌てて止めようとするカルゴだったが、コウスケの意志が変わることはなかった。



◆◆◆



 酒場を出て、宿屋に向かったコウスケは、そこで一晩を過ごすことにした。

 ベッドの上で仰向けになると、天井を見つめながらつぶやく。


「さて……どうしたものかな……」


 コウスケの頭の中には、先ほどの会話が浮かんできた。

 そして、その記憶を頼りに、自分の持っている知識で考察を始めた。


(まず、考えられるのは二種類だな……。一つは、本当に竜王なんてものがいる場合……。もう一つは、単なる噂の場合だ。前者の場合は、実際に確認する必要があるな。もしも本当に存在するのであれば、放ってはおけない。だが、後者である場合は……ただの噂であってほしいな……)


 そこまで考えたところで、コウスケは小さくため息をついた。


「まぁ、今悩んでいても仕方ないか……。明日に備えて寝よう……」


 そう呟くと、彼はゆっくりと眠りについた。



◆◆◆



 翌朝、コウスケは宿を出ると、昨日の酒場へ向かった。

 カルゴから、「明日またここに来てくれ」と頼まれていたからだ。


 扉を開けると、すぐにカルゴの姿を見つけることができた。

 彼は、コウスケが入ってきたことに気づくと、手招きして呼び寄せた。


「よぉ、待ってたぜ!約束通り来たな」


「はい。それで、話というのは……」


「おう。……コウスケ。お前の意志は変わらねえんだな?」


 そう尋ねると、コウスケは無言で頷いた。

 それを見たカルゴは、静かに微笑むとコウスケの肩に手を置いた。


「そうか……。よし、分かった!それじゃ、ついてきな!」


「えっ?」


「実はな、コウスケが竜王の城に行こうとしてることを、俺の仲間たちに話したんだ。そうしたら、みんな賛成してくれたんだよ。俺たちはこの国の兵士をしていてな。だから、一緒に行けば心強いだろ?」


「ほ、本当ですか……!?」


「ああ!それに、兄ちゃん一人に任せるのは心配だしな!」


 そう言うと、カルゴはニッと笑みを浮かべた。


「ありがとうございます!よろしくお願いします!」


 こうして、コウスケはカルゴたちと共に竜王の城へ向かうことになった。

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