18話 キックオフの笛が鳴る


 天皇杯3回戦の会場は、東京フロンティアのホームスタジアム。


 試合前練習のために選手たちがピッチに足を踏み入れる。


 俺も先輩たちの後からピッチに入ったが、入った瞬間、一気にテンションが上がった。


 ここに来るのは前に絢音とスタジアムデートをして以来だが、ピッチに立つのは、東京フロンティアJr.ユースの時以来かもしれない。Jr.ユースの時も試合でこのピッチに立ったのは、プロの前座試合の数回だけだったと思うし、負けたら終わりのバチバチの試合は初めてだ。


 少し湿り気の帯びたピッチの上から、観客席をグルッと見渡す。


 東京フロンティアサポーターのチャント(応援)がピッチに注がれており、負けじと高東の応援も聴こえてくる。

 アウェイゴール裏席には、藍原と並んで座る絢音の姿もあった。


 俺は、一人ではここまで来れなかった。

 あの合コンで佐々木絢音と出会って、一緒に遊んだり、お泊まり会(?)をしたり、サッカー観たり、パンケーキ食べたり、パンケーキ食べたり、水族館行ったり、パンケーキ食べたり、パンケーキ食べたりしていたら、いつしか絢音が、俺のモチベーションになっていた。


 勘違いだったとはいえ、絢音のために金川流心と戦ったあの日が今の俺に繋がってる。

 今こうして、恩師でありラスボスとも言える岸原さんと戦う夢が叶った。


 俺は敵のベンチ前に佇む、ジャージ姿の岸原さんの方を見つめる。


 監督になってからは髭を剃り、いつもの(汚い)コートも着ていないみたいだ。


 不意に、俺と岸原さんの目が合う。


「「…………」」


 岸原さんとこうして戦えるのも、絢音のおかげだ。


 全部絢音が俺にくれた。

 だから絢音のために、俺は結果を残し続ける。

 国宝級の彼女の隣に立つ、相応しい俺になる為に。


「槇島、テンション上がってるか?」


 俺の背後から、すっかり坊主頭が定着した阿崎が声をかけて来る。


「一緒にスタメンで試合に出る。それがこの大舞台で叶うなんて嬉しいぜぇ、相棒」

「あぁ。俺も同じだ阿崎」


 そう、ついに俺たちはスタートから一緒に戦える。


 ✳︎✳︎


 フォーメーションは4231。

 祐太郎は頂点の1ワントップ……かな。

 最近、ちょっとずつサッカーの事が分かってきた。

 まあ、まだ浅知恵なんだけどね。


「絢音ちゃん、ついに始まるね」

「そう、だね」


 隣に座るゆずちゃんは、東フロを応援したい気持ちを無理矢理押し殺して、このアウェイ側の席に座ってるみたい。

「無理しなくてもいいんじゃ」とあたしが言うと、「今日だけは高東のサポだから!」と言って私の隣に座ってくれた。


「今朝、槇島くんどうだった? やっぱ緊張してた?」


 ゆずちゃんからそう聞かれて、家を出る前の祐太郎を思い出す。

 何か急にキスしたがってたし、あんまり緊張はしてなかったと思うけど。


「い、一応、リラックスしてた、かな?」

「へえ、槇島くん流石だね」

「う、うん」


 行く前に、祐太郎は言っていた。

 あたしの主人公になってくれる……と。


 あたしは祈るように両手を重ねた。


「祐太郎が、勝てますように……」


 キックオフの笛と共に、高東ボールで試合が始まった。


——————————


《あとがき》

 この試合がこの作品の最後の試合になるとは思うけど、結果はどうあれその後(未来の話)もしっかり書くつもり。

 この【付き合ってから編】は、あくまで作者のセルフ同人(2次創作)なので、書籍版はどうなるか、分かんないけど一つのルートとして楽しんでいただけたら幸いです。

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