第6話 Bパート~最後のチャンス~

「……まさかイザベラがやられてしまうとはな」

「ああ。敵の実力を見誤っていたようだ」

 メイスの言葉に、ローラは返す。その口調には、強い懸念が込められていた。

「シンクロ率……か。まさか、あそこまでの力を発揮するとはな。これは私たちの認識を変えなければならないようだ」

「……そのことだが、次は私たちで出るぞ」

 ローラのその言葉に、メイスは眼を見開く。

「それはつまり二対一、ということか?」

「あぁ、そうだ」

 そこまで聞いて、メイスはしばらく黙考する。

「何故だ、どうしてそこまで焦る?」

「……議長が、この星に来るらしい」

「ッ!!!」

 議長が来る。ローラのその言葉にメイスは身体を震わせた。

「わかるだろう? もう時間がないんだ……皇帝陛下もお怒りのご様子らしい」

 その言葉に口を小さく開いたメイスは、しばらく沈黙した後言葉を繋ぐ。

「……あいわかった。それでは準備しよう」

「いいのか? 君にも騎士のプライドというものがあるだろう?」

 そのローラの言葉に……メイスは口角を吊り上げた。

「笑止。主人に傅くのが騎士だ。ならば主人の命令を守らずに貫き通す騎士道など、どこにあろうか?」

「……なるほど、君も相当歪んでるな」

 ローラが皮肉を返すと共に……二人は会議室を一緒に出て行った。


 ……


「……はぁ」

 真夏の太陽と青空の下、僕はパラソルの日陰にいた。

 この程度でダウンするなんて、我ながら情けなさ過ぎる……。

「どうダーリン、気分よくなった?」

 ボインッ。

「ッ!」

 そう言って揺れる胸と共に現れたのは、リアナさん。

 フリル水着を纏う彼女の胸がプルンと揺れる。その柔らかそうで瑞々しい肌に、僕はまた鼻血が出そうになる。

「ん? ……全く、ダーリンも男の子だよねぇ」

「す、すいません……」

「謝らなくていいわよ。エロに興味あるのは、全星の牡共通だもの」

 そうか……そうなのか?

「よっと……そう、どんな生物だって本能には抗えないものよ。私だって、自分の星に生まれた本能には勝てない。だからこうしてダーリンと一緒にいるんだから」

「あ……そ、その、ごめん」

「謝らないで。私も色々吹っ切れてすっきりしてるから」

「……そう、だね」

 リアナさんの星も守ると約束したあの日から、リアナさんはどこか表情が柔らかくなった。

 本人が言うように、本当に吹っ切れたのかもしれない。

「ま、でもそれはあの子も同じよね」

 その時、リアナさんは話の方向を変え、ハツネさんの方を見る。ハツネさんは今、一人でスイカ割りをやっている。

「もう滅んだ自分の星の仇討ちをしようなんて、無理な話よね……」

「え?」

「ダーリンは知らないだろうけど、彼女の母星であるセレーラ星は本当に強いわ……兵力もさることながら、武器の生産能力がかなり発達してる……きっと今頃、『鋼衣』の量産体制も、完成しているところよ」

「ッ!」

 その言葉に、僕は衝撃を受ける。そしてリアナさんは言葉を続ける。

「一人一人の武力は『鋼衣』のない私にも敵わないかもしれない。でも、『鋼衣』を装備するとなると話は変わる。しかも、集団で戦う以上さらに苦戦するはずよ……そんな厳しい戦いで星まで取り戻すなんて、本当に勝ち目はあるのかしら?」

 リアナさんのその言葉に、僕は沈黙する。

 彼女の言う通りだ。今は一対一で戦えてるけど、これが集団となるとまた難しくなるかもしれない……それも兵士、つまり軍隊と戦うとなると。

「勿論、ダーリンやGVがそのために努力してることは承知してるし、応援もするわ……でも、それが本当にあの子のためになるのかな、って時々思うの」

 そのリアナさんの言葉に顔を上げる。

「こうして戦いに身を投じている分、友達と遊ぶ時間も少なくなる。学校で過ごす時間も短くなる。普通の人が体験する思い出が、彼女から奪われてしまう」

 そして、彼女はため息を零すように言う。

「楽しいことも、今しか出来ないことも、全部犠牲にして戦いに身を投じている……それって本当に幸せなのかしら」

「……」

 ハツネさんは今、スイカ割りに夢中になっている。スイカを割ろうと彷徨って、その少し横で棒を振り下ろす。スイカから外れたことを知ると地団太を踏んで悔しがり、また自分で目隠しをしてスイカを探し始める。

 そんなハツネさんは楽しそうだ。もし自分の星を救うという使命がなければ、あんな女の子に育っていたのだろうか。

 そう思うと……少し、胸が苦しくなる。

「……ねぇ。ダーリンはハツネが好きなの?」

「え、えぇっ!?」

 最初は驚いたが、僕はすぐに自分に問い掛けることになる。

 僕は……ハツネさんが好き、なのか……?

 ハツネさんと……恋人になりたいと、思っているのか?

「……ごめん。わからない」

「あら、そうなの?」

「うん……だって最近まで友達もいたことないし、ましてや恋人なんて全然わからないから……」

 あぁそうなのね、そう相槌を返すリアナさんを後目に、僕は少し考えて小さくつぶやく。

「でも……僕は、ハツネさんを守るよ。何があっても、絶対に」

 その言葉を聞いた瞬間……リアナさんは複雑そうな顔をした。

「……私は愛人でも構わないわよ」

「……えぇ!?」

 そしてまた彼女の言葉に素っ頓狂な声を上げてしまう。

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