第5.1話 Eパート~協力~
冷たい空気を感じる。
夜が深まった空に星が輝く。その煌めきの近さに、リアナはまたも豹型のラスタ・レルラへ変身したことを理解した。他の人間より少しだけ近くなった星の輝きに、リアナは無意識に手を伸ばそうとする。
だが、その手が月を掴もうとした瞬間、大きく地面が沈む音が聞こえる。
キサラジも巨大化したのだ。
「ふん、我らに逆らうなぞ愚かな……」
「ま、そう思われても仕方ないわよね。でも何故かしら。今、結構すっきりした気分なのよね」
そう言って、リアナはGV基地の真上……海岸沿いの廃工場で構えを取る。それに合わせ、キサラジもクナイを構える。
「まさか、ローラ様が何も考えなしにその薬剤を渡したと思っているわけではあるまいな」
「あら、違うのかしら?」
「ローラ様がそれを渡した理由は一つ……例えその薬剤を使っても、某には勝てぬからだッ!」
そして、キサラジは地面を蹴り、前に出た。
まるで疾風のように駆けだしたキサラジ。だが次の瞬間、彼の姿がリアナの視界から消えるッ!
「ッ!」
リアナは瞠目し、だがすぐに切り替えた。
そして思考する。今キサラジが狙うとしたら……そう考え、咄嗟に後方からの蹴りに対応するガードを繰り出すッ!
ガァアアアンッ!
瞬間、防御で固めた腕に、蹴りの衝撃が走るッ!
「ほう、読んだか……しかし、ここからが本番だ!」
そうキサラジが宣った瞬間、キサラジは再び闇に消える。同時に、多方向からの嵐のごとき攻撃が、リアナを襲うッ!
ダダダダダダダダダダッ!
「く……っ!」
堪らずリアナはガードを取る。まるで亀のように身を縮こませるリアナだったが、この状態でいつまでも耐久できる気はしなかった。
「さぁ、どうする裏切り者! 今なら手心を加えてやってもいいぞ! お前がこのまま基地を破壊すれば、またセレーラ星の部隊に戻れるよう取り計らってやる! どうだ、悪くない提案だろうッ!」
止まらぬ連撃の中、キサラジはそう叫ぶ。地面を脚で蹴り飛ばしながら殴打と蹴脚の嵐を降り注がせるラスタ・レルラを前に……
「甘いこと言わないでよ……そんな気なんて、ない癖に」
だが、リアナは冷静だった。
「あんたたちにとってゾルレナス星は資源採掘星の一つでしかない。そこ出身の姫が活躍をしたところで……その立場は変わらない。結局資源を全部あんたらに持ってかれて、最後は軍事基地置かれるのが関の山よ」
「それでも我々に従うと決めたのはお前だろうッ! もしかしたら皇帝陛下がご慈悲を与えて下さるかもしれないのに、そのチャンスすら捨てるとは、愚かにも程があるわッ!」
「その『もしかしたら』のために堪えなきゃいけない人生なんてもうゴメンよッ!」
その言葉と同時にリアナは空から降る蹴撃をガードで受け止め、そしてその構えから弾くようにキサラジの身体を吹き飛ばすッ!
堪らずキサラジは身体を宙で反転させ、なんとか地面へ着地をする。
「……ずっと、諦めてた。セレーラ星の奴らに勝てないと思ってて、だから嫌なことでも辛いことでも、ずっと堪えてきた」
「けど……それが結局故郷のためにならないなら……誰も故郷のことを考えてないなら、あたしはもう誰にも従わないッ!」
「あたしは、あたしの手で、あたしの故郷を救ってみせるッ!」
そして、リアナは地面を蹴った。
鍛えられた脚力を活かした加速は、キサラジにも負けない速度だ。そして迎撃する敵を左右へのフェイントで惑わした後、身を屈め相手の横脇腹へ回り込み……
「……はぁあああッ!」
そのままキサラジへ向かって、渾身の中段回転蹴りを食らわせるッ!
ドガァアアアアアンッ!!!
……
「なんだ、この程度か」
「ッ!」
しかし……リアナの攻撃は、あっさりキサラジに止められてしまった。
「『鋼衣』がなければこの程度か。やはり貴様には利用価値がないようだ……貴様の故郷にある、資源以外の価値はなッ!」
そして大振りの攻撃をした隙へ……キサラジの攻撃が迫るッ!
「くっ、駄目……なのッ!」
そうリアナが言葉を漏らした……その瞬間だった。
ドガァアアアアアアアアアッ!!!
ッ、ダァアアアアアンッ!!!
「え……ッ!」
「ぬッ!?」
二人の視界の外から、何かがキサラジへ体当たりしてきた。
目にも止まらぬ加速から繰り出されるその圧力に、キサラジの体勢が大きく崩れるッ!
「今です、リアナッ!」
「ッ!」
そして突如聞こえたその声と同時に……
「はぁああッ!」
リアナは地面に手をつき両足を広げながらそのまま一回転、それで体勢を翻し、駒のように回転しながら相手の反対側の脇腹へ向かってもう一撃を加えたッ!
ドガァアアアアアンッ!
「ぬぅ……ッ!」
今度は、ガードされてない位置への攻撃。
完全に想定外の部位へ攻撃を受けたキサラジは、呻き声を上げてさらに体勢を崩す。リアナは、確かな手応えを感じたッ!
「やるじゃないですか、褒めてあげますよ、リアナ!」
瞬間、ドラブートへ乗って出撃していたハツネがリアナへ向かって叫ぶッ!
「ッ、ハツネ……あんた、どうして……ッ!」
「言っておきますが、これは勇のためですッ! 勇が助けて欲しいとお願いしたから助けてあげただけです! それ以外の意味はありませんッ!」
リアナは、その言葉に嘘がないことがわかった。
澱みない言葉。どこまで透き通ったその声は、ハツネの愚直さを表すものだからだ。
故に……リアナは、今その声を聞けた事実を嬉しく感じた。
「なら、手助けして……ッ! 勇はまだ怪我で変身できないんでしょうッ! ならここで……あたしたち二人でケリを付けるわよッ!」
「言われなくともッ!」
そう言ってハツネは再びラスタ・レルラへ向かって突進する。流星のようにブースターの光が尾を引く突進に、キサラジの目が大きく見開くッ!
「くっ、舐めるなぁ……ッ!」
しかし、よろけていたキサラジは間一髪のところで避ける。
だが、その隙に再びリアナは敵の頭上へ飛び……まるでギロチンがごとく、右足を地面と平行に構えたッ!
「ハツネ、来なさいッ! 一気に終わらせるわよッ!」
「えぇ、了解ですッ! 仕方ないから付き合ってあげますよッ!」
それに合わせハツネは……リアナの脚先にドラブートを近づけるッ!
「そんなの、全部終わってから言いなさいッ!」
そしてリアナは……細くしなやかに伸びた脚を、キサラジの頭へ向かって一気に振り下ろしたッ!
「はぁああああああああああッ!」
「ふんッ、さっき効かなかった一撃に何が……」
「先ほどとは違いますよッ!」
「むッ!?」
そうハツネが叫ぶと同時に、リアナの脚へ……ハツネが駆るドラブートが乗せられるッ!
ガァ……ッ!
それによりリアナの蹴りは……ドラブートの速度を得て、さらなる加速を見せるッ!
ガァァアアアアアッ!
「はぁああ……喰らいなさあああぁぁぁぁぁいッ!!!」
「ぬぅぅぅぅぅッ!」
ッ……
ガァアアアアアアアアアアアッ!!!
瞬間、すさまじい衝撃が廃工場周辺に広がるッ!
錆びた鉄塊を揺らがす衝撃に、だがキサラジはそれを何とか受け止めるッ!
「ぐぅううう……舐めるなぁ……ッ! このローラ隊序列2位キサラジ……こんなところで果てるわけにはいかぬぅ……むぅうううううッ!」
十字に構えたガードで、何とか押し切ろうとするキサラジ。だが……リアナの目は諦めていなかったッ!
「負けない……負けて堪るか……これ以上、振り回されて堪るか……ッ!」
言葉の語気が強まる。
「決めた……あたしはもう、誰かに頼らない……あたしは自分でチャンスを掴んでみせる……」
それに合わせ脚にさらなる力を込める。
「あたし自身の力で……ゾルレナス星を、救ってみせるんだぁああああああああああッ!!!」
そしてその思いに応えるように、ドラブートがさらなる加速火を立てる。
ゴォオオオオオオオッ!
それにより……リアナの蹴脚の圧力が、さらに高まったッ!
グゥウウウウウウウッ!
「む……むぅうううううッ!?」
刹那……ついにガードで堪え切れなくなったキサラジの腕が、軋み上げ始めるッ!
「ぐっ、ぐぁあああ……ッ! ろ、ローラ様……申し訳、ございませぇぇぇんッ!!!」
「はぁあああああああああああああッ!!!」
リアナがさらに脚へ力を込めたそのとき、ついに……ローラの蹴りが、キサラジの身体へと疾ったのだったッ!
シュゥゥ……シュッバァアアアアアアアアアンッ!!!
瞬間、キサラジの身体が肩から二つに裂け……コアがリアナの脚によって破壊されるッ!
バリィイイイイイインッ!!!!
そしてコアを破壊されたキサラジの身体は……そのまま光となって、消えていったのだった。
……
「……」
リアナは、基地が修復される様子をじっと眺めていた。
巨大化の影響で壊された天井を直しその上をコンクリートで補修する光景を眺める、その背後に……勇とハツネが迫る。
「リアナ、さん……」
「……ゾルレナス星を、救いたかった」
勇が静かに話しかけると、リアナは静かに語り始めた。
「私の故郷ゾルレナス星は、実質的に資源採掘星になって自由がない。だから、あたしが成り上がって、星の地位を上げようとした……でも、結局何も変わらなかった。どれだけ頑張っても、セレーラ星の連中はあたしの母星を資源星として利用しただけだった」
そう淡々と語るリアナは、ぐっと手で拳を作り、握りしめる。
「このままじゃあたしの星は使い潰されるだけ……そんなの、堪えられない」
そして、勇たちの方へと振り返った。
「だからお願い……セレーラ星の連中を倒して。あたしの故郷を蹂躙するあの糞野郎どもを倒して……あたしの星も平和にして欲しいの……」
リアナは目に涙を溜めながら、頭を下げる。
「わかった、助けるよ」
そして、勇は即答した。
「一緒に救おう……セレーラ星も、ゾルレナス星も」
そのまっすぐ過ぎる言葉と共に差し出された手を、リアナは見つめる。
……また、利用されるだけだろうか。セレーラ星の連中と一緒で、実験台にするだけだろうか。
「リアナさんッ!」
「リアナ君、大丈夫かい!?」
その時だった。修復現場の向こう側から、梶野と小川が走ってくる、
そして……リアナの手を握りしめたのだった。
「身体は無事か!? どこか、怪我はないか!?」
二人が握りしめるその手の温かさに……リアナはかぶりを振って先程の考えを否定する。
こいつらは……地球の人たちは、違う気がする。少なくとも、このGVの人たちは信用できる……リアナは、そう直感した。
「ええ、大丈夫よ。ありがとう、梶野さん、小川さん」
そう二人に礼を言って、リアナは勇たちへと向き直る。
「ありがとう、ダーリン……なら、ついでにこの星も救いましょう。どうせまずはこの星で戦わなくちゃならないし……それに、私この星のファッション、好きだから」
そうリアナは笑って、勇の手を握る。
その手の力の強さに……勇も、笑顔で応えるのだった。
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