第5.1話 自分の行先 Aパート~取引~
「……はぁ」
GV基地、宿舎の暗い一室でリアナは一人晩御飯を食べていた。
現在基地はイザベラを倒したことでお祭り騒ぎ状態となり、なんとなく騒ぐ気分でなかったリアナはテイクアウトのご飯を注文し、一人自室で食事を取っていのだ。
「まさか、勝っちゃうなんてね……」
そう。勝利したのだ。大幹部の一人・イザベラに。
自分も大幹部だったと言われればそれまでだが、新参者で地球での任務が初のリアナと他のいくつもの星を落としてきた幹部では天と地、とまではいかないが大きな実力差がある。
それを、テラレグルス……つまり浅谷 勇とハツネは打ち破ったのだ。
「ありえないけど……これが現実」
リアナはそう呟きながら晩御飯のビーフステーキを噛む。行儀が悪いと思いつつも、やはり自分は肉食が合うのだろう、噛めば噛むほど湧き出る肉の味を、リアナは堪能していた。
しかし、その厚切り肉を味わいながらも、リアナの思考はこの大勝利のことについてへと飛んでいたのだった。
「……」
そして、浮かぶ思考はとある過去の話。どうしようもなかったと自分を言い聞かせて納得させた、ある事実。
「……間違って、たのかな」
そう呟きながら、一人ステーキを貪るリアナ。今日は入院してる勇と彼の病室に泊まると声を弾ませたハツネがいない部屋で、リアナの小さな咀嚼音だけが静かに響くのだった。
……
「……ふぅ」
翌日。リアナはGV基地を出て、一人ショッピングに来ていた。
一日経っても気分が上がらないので試しに申請をしてみたら、あっけなく通ってしまったのだ。
仮にも捕虜に対してこの寛容さはあまりにも無警戒ではないかとリアナは思わなくもなかったが、せっかくなので久しぶりに捕まる前に来ていたショップへと脚を運んでいた。
「あ、りなちー……久しぶり……」
「やほー、小雪たん、今日もテンション低いねー」
「うん……ちょっと薬の効きが悪いんだ……ほら見てリ〇カ痕……先生から駄目だって言われちゃったけどまたしちゃったんだ……」
そう言って小雪と呼ばれた少女は手首を見せてくる。そこには自分で付けたであろう自傷痕が残っていた。
地球人は珍しい入れ墨をするよね……そう思いながらリアナはショップの中を見て回ることにした。
店内に置かれた服は、所謂地雷系……最近は量産型女子とも呼ばれるファッションの服がずらりと並んでいた。
目を引くピンク色に、フリルが全体にあしらわれた服。レースを纏った黒いスカート。そしてそれを彩るゴシックパンク系のアクセサリや有名キャラをあしらった小物たち。
リアナは、この地雷系ファッションが好きだった。少女の可愛さと強さ、その両面をしっかり表現できる服や小物が、しかも安価で大量生産されている。初めて地球に来た時その事実にリアナはひどく感動したことを思い出した。
「……だから、この星側に着いたのかも……なーんて」
そんな苦笑いを零しながら服を物色していた、その時だった。
「だとしたらいい発見だな。この服なんぞに、そんな求心的価値があるとは」
瞬間、リアナのしなやかな背中に冷や汗が走った。
まさか。そんな。
そんな思いが過ったがすぐに切り替えた。何故なら彼女が背中にいるならば、それは既に間合いの距離だ。下手に動けば今すぐに始末される。
そう……この背にいるのが大幹部の一人、ローラならば。
「そんな構えなくていいだろう。元同僚なのだから」
「……もし今が敵同士でなければそうしてたところだけどね」
既にGV側についてることはバレているだろうとリアナはわかっていた。『鋼衣』の整備性が上がったことは向こうにも知られてるだろうし、グローリーシップの技術にリアナの『鋼衣』のブースター技術が使われていることを科学者であるローラがわからないはずがない。
つまり、今背中にいるのは敵。そう考えるのが妥当な要素しか、リアナには見つけられなかった。
「力を抜け、リアナ……今回は取引をお願いしたいと思ってね」
「……取引?」
その言葉を効いた瞬間、リアナはローラから殺気を感じないことに気づく。
……どうやらここでことを構えるつもりはない。そう理解したリアナは、とりあえず会話に応じることにした。
「……内容は?」
「あの少年を、こちらに引き渡して欲しい」
その言葉を聞いた瞬間、リアナの身体は硬直した。
「私たちはあの少年の実力を高く評価していてね。この度我らが星に迎え入れられないか検討しているところなんだ……君が我らに下った時のように」
嘘だ。彼女ら、ひいては皇帝がここまで明確に反逆した者を受け入れるはずがない。
そう考えるリアナを後目に、ローラは話を続ける。
「皇帝陛下は平らかなる世を願っている。それを達成するためならばその少年を厚遇することは吝かではない。勿論、それが達成されなかった時この星がどうなるかはまだわからないが……」
リアナはこれが明白な脅迫であることがわかっていた。
要は変身のキーである勇を捕縛し、この星唯一の戦力を奪う。それが達成されない場合は、命の保証はできない……彼女はそう言ってるのだ。
リアナは歯噛みした。かといって勇を引き渡すわけにもいかない。勇は、皇帝にとって戦略的な意味でなくとも明確な『脅威』なのだ。勇がいる限り皇帝の目的は達成されない……そう考えるならば、皇帝に忠誠を誓う大幹部たちが勇を確保したまま放っておくわけがないことは明らかだった。
「あぁ、忘れていたよ。君も勿論大幹部に返り咲きだ。皇帝陛下も、更なる厚遇を約束している。もし君の地位が約束されているなら、おそらく懸念しているであろう少年の無事も担保できると思うがね」
勇のことは自分で守れ……そうリアナはローラの言葉を解釈した。何ということはない。これはただの向こうに有利な条件を突きつけたに過ぎないということをリアナは理解した。
その上でリアナは迷っていた。彼女の話を全部鵜呑みにできるわけがない。しかし、かといってこのままラスタ・レルラと戦争を続けることについてもリアナは賛成できていなかった。
地球側の戦力は現在あまりにもハツネ……テラレグルスに頼り過ぎている。今は来ている部隊の数の関係で一対一を保っているが、もし集団で攻め込まれればすぐに防衛線が崩れることは容易に想像できる。何より、ラスタ・レルラの強さは一番リアナが理解していた。強軍事星として生まれ変わった高度に発達した文明星の地力は、例え大幹部を倒すテラレグルスであっても最終的に敗北する可能性は高い。
そして、そうなればダーリンの命は……
「……ほかの条件は?」
考えをまとめきれなかったリアナは、とりあえずローラの話を聞いてみることとした。
すると背後でローラがニタリ、と笑顔を浮かべたのをリアナは感じた。
「何、簡単な話さ……これを仕掛けて欲しいんだ。君が今いる組織の中枢に、ね」
そう言って背中越しに手渡されたのは……小型の小さな玉だった。
「ッ! これ、爆弾じゃない……ッ!」
リアナは戦慄した。今この手に握る爆弾は、見た目は小さくとも地球上の通常爆弾の数百倍の威力を持つ代物だ。つまりローラが出した条件とは、基地の破壊工作を実行すること。GVを裏切ろ、ということだったのだ。
「人聞きの悪いことを言わないでくれたまえ。これはあくまで準備なのだ。事故により窮地に陥った敵組織へ、我々による慈悲の手を差し伸べるためのな……それから友好協定を結んでも遅くはあるまい?」
そうあっさりと言い除けるローラに戦慄する。そして同時に、この女はこのような卑怯な手を簡単にやってのけると確信した。
「君にとっても悪くない話だと思うがね。我らがセレーラ星にこれ以上反抗するのは悪手だということは君もよくわかってるだろう? これ以上無駄な闘いに身を投じるよりも、今より良い条件で落し所を付ける方が懸命だと私は考えている」
それはあまりにも恥知らずな言い分だった。だがそれに一理あることを、リアナはセレーラ星に大幹部として在籍していた以上知っていた。
「一応言っておくが、全ては君の態度次第だ。それで君の愛する者が救われるかもしれないし、もしかしたら悲しい最期を迎えるかもしれない……そのことを肝に銘じておいてくれ」
そして念を押した後……ローラはまた何かを手渡してきた。
「っ!」
それは、巨大化用の薬剤だった。
「これは前金だ……もしかしたら使う時もあるだろう。ぜひ私からの友好の証として受け取ってくれ」
そう言って一方的にローラは去っていく。リアナはその後を追おうとしない。ただ、手渡された爆弾の重みを、しっかりと味わうことしか出来なかった……。
……
ショップを出て、一人路地裏を歩くローラ。その奥にまで言った時、彼女は小さく呟いた。
「キリサジ、君の出番だ」
すると暗闇の影から突如人型の異星人が現れた。
ローラの部下、諜報担当のキリサジだ。
「リアナが爆破スイッチを押した瞬間、奴を始末しろ」
「よろしいのですか? 仮にも元幹部ですが」
「何を言ってる。奴は既に我らを裏切った。もはや害悪にしかならない存在だろう」
そう言ってローラは身を翻す。
「なら、始末するのは合理的じゃないか」
そして裏路地から去っていくローラの背を見ながらキリサジは呟く。
「御意に」
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