クラウドファンディング

「だがなあ、多田。お前の言うことにも一理あるのだろうが、それじゃ収まりがつかんだろう?」


 犯罪グループの裏金を盗む。そんなことができたとして、お前はそれで生きていけるのか?


「お前自身の納税義務とか、どうする気だ? 脱税する気か?」

「納税しますよ、もちろん? クラウドファンディングを利用するつもりです」

「クラウドファンディング?」

「はい。たとえば、養護施設に車椅子を寄付するという目的のプロジェクトを立ち上げます。そこに寄付してもらうんです」


 いったい何の話だ? 裏金を盗むという話のはずだが。


「犯罪グループの隠し金口座から寄付してもらうんですよ」

「そんなことするわけが……」


 多田はにやりと笑った。


「だから、セキュリティがざるだと言ったでしょう? ネットバンキングで操作するくらい、軽いもんです」

「泥棒じゃないか?」

「見解の相違です。それは持ち主がいない資源です。無主物は発見者、発掘者の所有物となります」


 無茶を言いやがる。ヤクザがそれで黙っているわけがないだろう。


「送金先をたどられたら、おしまいじゃないか」

「やつらのレベルじゃ無理ですね。隠し口座からクラウドファンディングの入金先までの間に、いくつかダミーの口座を挟みますから」


 警察ならともかく、民間人に対して銀行は顧客情報を明かしたりしない。確かに普通のやり方では追跡できないだろう。


「もちろん社会奉仕はきちんとして、僕は真っ当な報酬を『業務委託料』としてNPOから頂きます」


 それなら成り立ってしまうのか? これ以上のことは、一介の教員に過ぎないわたしには判断できない。

 しかし、それでも……。


「それでもだ。もし、やつらが金の流れを追ってお前までたどり着いたら、そのときはどうする?」


 多田は、ごしごしと両手で顔をこすった。


「僕、海外に住むつもりなんで」

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