5
+++
あの地下の広い空間へいくにはいくつもの道がある。天人達四人は榊家の邸宅から地下へ続く階段を使って広場へ向かったのだが、場所はそこだけでなく、例えば山奥から行けたりする。そんな道を通って地下へ行き広場へ行かずに違う道を進むと、世にいう牢屋が並んでいる。此処には違法契約者や尋問にあたるべき人物が拘束されており頑丈にできた鉄の檻は簡単には解けない。更に妖力抑制の呪符が貼ってある為、陰気くさい雰囲気にもなっていた。
「おーい、誰かー。誰かいねぇーのかよー。おーいってばぁー」
薄暗い空間へ果てもなく吸い込まれていく己の声。やまびこみたいに返ってこないし、誰かの声が返ってくるわけでも無い。源郎はちえっと舌打ちをして膝を抱え込んだ。
「うさぎは寂しいと死んじまうんだぜ……」
「なるほど。じゃあやはりお前は人間じゃ無いんだな」
「……ぴょん」
源郎は声の下へ顔を上げた。さっきまで誰もいなかったはずのそこには征爾がこちらを見下ろすように観ていた。
「何しにきたんだよ、英国の飼い犬ちゃんよぉ」
「お前が呼ぶから来てやったのにそんな態度はないだろう」
「ケッ。どうせならてめえなんかの顔じゃなくてどこぞのゲス野郎の顔を拝みたかったぜ」
源郎は抱えていた腕を解くと冷たい地面へと寝そべった。ぽちゃんぽちゃんと水滴の音がする。暫く征爾は黙って源郎を観察した。やがて重々しく口を開く。
「お前の処分が近々決まる」
「おお、そりゃそうかい。ご丁寧に教えてくれてどうも有難う」
源郎は片手でヒラヒラと手を振る。
「どーせ、俺様は死刑なんだろう。あーあ、短い人生だったぜ」
「そう思うならなぜ争わない?」
…何故って……――。そりゃぁ……。
「………もうやり直さないって約束したんだ……」
源郎の小さくつぶやいた声に征爾は首を捻った。
「つーかそれよりも、てめえこそ、これからあいつらをどーするつもりなんだよ」
源郎は起き上がり鉄の檻に近づいた。両手で鉄の棒を掴み、目と鼻の先に征爾の姿が映る。
「英国にチクったのも全部情報を流していたのもてめえなんだろ、ワンちゃん」
「……………」
押し黙る征爾をみて、源郎は檻の隙間から白くて細長い腕を伸ばした。その手でガシッと征爾の後頭部を掴む。苦痛の顔を浮かべた征爾の髪の毛を強引に引っ張って自分の顔へと近づけた。
「てめえらが何を計画してよぉが、もう俺様にはかんけーねー。でもなぁ、忘れるなよ。てめえは英国の奴らに利用されているだけだ。決して自分が奴らと同じ立ち位置にいると思うなよ、飼い犬めが」
「………」
「つーかこの俺様が今この世界で起きている現状に気がつかないとでも思ったか?」
「何言って…――」
源郎はわざとらしくため息を漏らす。
「誤魔化すなよ、そういうのめんどいから。あれだろ? もう始まってるんだろ?」
――世界の破壊が―――
征爾の喉仏がゴクンと動いた。そして勢いよく額を源郎へぶつけた。あまりの痛さに源郎は掴んでいた手を離す。
「いってぇ! 何すんだよっ!」
「ふん、これくらいの礼は有難く受け取ってほしいね」
「はぁ⁇」
「非力に成り下がったお前なんか…――」
「んだと。こっちは人生の先輩として教えてやってるのにそれはないだろ」
征爾は無言で源郎を一瞥すると背中を向けて暗闇へと消えて行った。去り際に自分の額もさすりながら。源郎は大きく舌打ちすると自分の額から少し血が出ていることに気がついた。
全く、あいつ全力でぶつけやがって……こりゃたんこぶになるな………。
「おーいだれかー。俺様の怪我を治してくれる奴いねぇーかー」
源郎は再び、吸い込まれていくこの空間へ向かって声を出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます