その女スパイはな、顔がないらしいんだ──。 本庄 照
――歴史に残らず、時代を変えろ。
昭和十八年、ビルマが英国から独立した。帝国主義を打ち砕く歴史的快挙の裏では、日本の帝国海軍特務機関「中谷商船工業」の暗躍があった。その機関の構成員は、一人の女スパイと二人の海軍将校。
全ての人間を虜にする不思議な顔を持つ小娘・静子、その能力が唯一通用しない型破りな問題児・秋山郁生、そして秋山を唯一御することのできる冷静な秀才・尾瀬恭二郎。
スパイ追放、情報収集、暗号解読と、ビルマ独立の邪魔となる障壁を次々に排除した優秀な特務機関は、終戦時に全ての資料が焼かれ、存在すらも永遠に秘匿されている。
歴史に名が残らなければ不名誉か?
否。
歴史に名さえ残さなければ、何をやってもいいということ!
三人の自由人は、ビルマ独立の裏で暗躍する。燃え盛るビルマの戦火の中で。
※この小説は完全なるフィクションです。実在するいかなるものとも関係ありません。特に強い歴史的思想・政治的思想を物語の主題とすることはなく、作者は平和を探求して本作を執筆しています。…続きを読む
目次
完結済 全56話
更新
- 第一任務:荒れよ、海軍 【海軍で騒ぎを起こし、英国に偽情報を流せ】
- 案ずるより捜査するが易し
- 第一話 愛しき人に似た娘
- 第二話 覚悟の酒と折れぬ意地
- 第三話 噂の尾ひれと天保銭
- 第四話 不意の誤算と聡き者
- 第五話 解読できたら旗上げて
- 問題児の魂は百まで
- 第六話 騒ぎの海軍、罪の味
- 第七話 目立つ輩の隠れ方
- 第八話 権力だけには逆らえず
- 第九話 ビルマに旅立つ愛娘
- 第二任務:ビルマの海風 【陸軍に接触し、ビルマの情報を渡せ】
- 全ての道はビルマに通ず
- 第十話 初対面でも率直に
- 第十一話 打ち解け方を知る男
- 第十二話 南国の味と逢引と
- 第十三話 火のないところに立つ煙
- 第十四話 江戸川乱歩の流行る夏
- 一難去ってまた任務
- 第十五話 自称モテない色男
- 第十六話 どこにいるやら犯人は
- 第十七話 修羅場に眠る名探偵
- 第十八話 彼女が彼女に成り代わり
- 第十九話 陸から海への大仕事
- 第三任務:虎視眈々 【陸軍特務機関を援助し、敵国工作員を潰せ】
- 能あるスパイは爪を隠す
- 第二十話 陸軍第七営業部
- 第二一話 赤い色した工作員
- 第二二話 射程範囲が広すぎる
- 第二三話 俳優並の演技力
- 第二四話 裏切者を呼び立てて
- 死中に活は求められるか
- 第二五話 ダブル・エージェント
- 第二六話 差し出した頬は殴られると痛い
- 第二七話 燃え盛る炎、焼け落ちる価値
- 第二八話 行き止まりだけの迷路を前に
- 第二九話 高峰誉は諦めない
- 第三十話 半歩抜け駆け、紙一重
- 第四任務:女心と春の空 【船上の青年団を護衛し、奇妙な通信を消せ】
- 旅は暗号と道連れ
- 第三一話 故郷に焦がれて二千海里
- 第三二話 古びた葉書には暗号が似合う
- 第三三話 アラン・チューリングは未だ現れず
- 第三四話 ただいま東京、愛しき家族
- 好いた水仙好かれた柳
- 第三五話 静子が父と慕う人
- 第三六話 人は人生で二つの家族を作る
- 第三七話 解かれる為に作られたもの
- 第三八話 春先の横須賀港
- 第五任務:旅立ちのロングサイン 【大本営と対立し、政治犯を堕とせ】
- 疾風に暗躍を知る
- 第三九話 この街もきっといつかは戦場に
- 第四十話 任務の為に費やせるもの
- 第四一話 勝算なくして価値はなし
- 第四二話 秋山は先ず馬を射る事に熱中する
- 第四三話 人の心も爆発する事がある
- 第四四話 時計仕掛けの爆発物
- 深い川は静かに流れる
- 第四五話 奮い立ち、自由を掲げよ、日本人
- 第四六話 石橋を叩いて壊す男かな
- 第四七話 開幕せしは誉劇場
- 第四八話 天枢機関は潰れない
- 第四九話 生物兵器の墓標
- 第五十話 ラングーンの海は全てを受け入れる
- 立つ諜報員は跡を濁さず
- 第五一話 悪足掻きは悪か否か
- 第五二話 異なる道を生きた同類
- 第五三話 集団の中で感じる孤独
- 第五四話 裏切りに必要な覚悟
- 第五五話 海軍に襟を付けられた少女
- 第五六話 海軍に染められた青年たち
おすすめレビュー
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★★★ Excellent!!!
歴史を変えるスパイたちの、重厚でスリリングなミステリー 一初ゆずこ
舞台は昭和、ビルマが英国から独立を果たし、帝国主義を打ち砕いた頃。日本の帝国海軍特務機関である「中谷商船工業」の構成員が、歴史を変えるべく秘密裏に動いていた。
「見る者にとって、愛する者の顔に見える」という特殊な顔を持つ少女・静子。そんな静子の顔に唯一惑わされない問題児・秋山。型破りな秋山と親交が深く、冷静な常識人・尾瀬。
ひょんなことからチームで諜報活動をすることになった三人は、ビルマ独立の障壁となる問題を、人知れず鮮やかに取り払っていく。
読みやすい文章に豊富な知識が織り込まれていて、登場人物たちの軽やかでキレがある会話や、任務を遂行するなかで失われていった命の重み、時が流れた分だけ移り変わっていく人間関係と心情など、重厚でスリリングな物語の中に、キラキラしたものがたくさん瞬いています。
表舞台では決して見つけられない輝きを、静子たちの共犯者になったような気持ちで、ご覧になってはいかがでしょうか。骨太で読み応えのある物語でした。
★★★ Excellent!!!
第二次世界大戦下、暗躍していたスパイたちの日常ミステリー! 祥之るう子
突然恥ずかしい告白をしますが、私は歴史、世界史、地理、小学生の科目で言うと「社会」に入るであろうジャンルの知識が、残念の極みである人間です。
加えて、戦争描写が苦手です。
戦時中の描写って、どんなに「日常を描きました」ってうたってても、空襲警報、防空壕、飢える子供、怖い憲兵…なんかが出てきてストレスフルじゃないですか〜。
でも、こちらの作品にはその辺、ほぼほぼ出てきません!
とにかく登場するメインのキャラたちは、軍人なのに、らしくなかったり、人間味たっぷりだったり、生きている時代も置かれている環境も、私たちとは全然違っているのに、感情移入できるところがそれぞれにちゃんとありますし、全員濃厚で面白いキャラばかりです。
重い時代背景に、スパイと聞くと、なかなかヘヴィに聞こえますが、実態は驚きの愉快痛快っぷりです。
第二次世界大戦に関わる重いテーマを、見事にライトなキャラ文芸に落とし込んだ、素晴らしい作品だと思います!
日本から出たくない派の私が、ラングーンで甘味を食べたくなるような、楽しい作品です。
そして、軽妙で、痛快な物語であるのに、日本と世界の歴史を学校で教わってきた我々は、彼等がいずれ巻き込まれる戦禍を知っている…この一抹の切なさも、作品を楽しむスパイスとなっているように感じます。
私のような歴史と世界情勢の知識マイナス値な人間も、得意だよ!と言う方も、それぞれに楽しめ…
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★★★ Excellent!!!
持たざる者たちがビルマの明日を切り拓く、諜報活劇エンターテインメント! 陽澄すずめ
太平洋戦争前夜のビルマを舞台に、海軍出身の諜報員の暗躍を描く、WEB小説では珍しい題材を扱った本作。
しかし取っ付きづらさは一切ありません。
危険でスリリングな作戦の顛末が軽妙洒脱な文章で綴られ、エンタメ性の高いストーリーに仕上げられています。
何といっても、登場人物がみんな大変魅力的です。
生真面目な尾瀬、破天荒な秋山、そして生粋の女スパイ・静子というメインの3人ほか、脇を固める人々も一人残らずクセモノだらけ。
とりわけヒロイン静子の、「見る人にとって最も愛する女の顔に見える」という特殊な相貌の設定が秀逸です。
数々の作戦の要所要所で彼女の「顔」がキーとなる展開は、毎回舌を巻きます。
ミステリの得意な作者様らしく、謎を解きつつ状況をひっくり返す、一つ一つの作戦のストーリーが非常に面白い。
当時の軍の慣例事項やビルマの風土もよく練り込まれており、とても読み応えがあります。
顔を持たない静子。
帰る場所を持たない秋山。
そして信念を持たない尾瀬。
各々に欠けたところのある彼らが、それを補い合うように能力を発揮し鮮やかに立ち回る。
読めば読むほど彼らが好きになり、無限に作戦やっててほしくなってきます。
如何にして彼らがビルマ独立の影の立役者となったのか。
ぜひあなたの目でお確かめください!