第97話 盗賊団と黒幕
ギイン!
兄ちゃんが大男を斬り付けたからクロセルを抜いて防いでおく。
「か、頭、何するんだ!」
頭? この兄ちゃんは大男の知り合いってかよ、頭ってことは仲間なんかよ。
「チッ! 余計なことを! それを聞いた小僧も残念だがここで死んでもらう!」
受け止められた剣を引き、後ろに飛び退き着地した瞬間に、今度は踏み込んで来る。
その勢いのまま、振り上げた剣はブオンと唸りをあげて頭を狙い打ち下ろしてきた。
引くことはせず、半身に体をひねって懐に飛び込み、クロセルの柄頭をみぞおちに叩き込んだ後、勢いを殺さず横をすり抜け背後に回る。
ガスッと地面に叩き付けられた剣をあげられる前にくるぶしを狙い足払い。
「なにっ! ぐぼっ! がっ!」
足を払われ崩れた体勢のまま、剣を片手に持ち変え、見えていないはずの後ろにいる俺に向かってデタラメだが牽制目的で振ってきた。
「くっ!」
体には当たらなかったが服の腹のところが切り裂かれた。兄ちゃんはただでさえ体勢が崩れていたところなのに無理矢理剣を振ったため、体勢を戻すことができずに倒れこんだ。
「しっ!」
その隙を逃さず起き上がられる前に剣を持つ手を蹴り、手放させて俺を見上げてきた顔を、頭を掴み地面に叩き付けてやった。
首を足で押さえて素早く手を取り縛り上げていると、背後からアンラの声が聞こえてくる。
「
「ありがとうな、ってかよ、驚いてるもう一組以外が全員盗賊とは結構デカい盗賊団みたいだな」
『その男に喋らせるのは後にして、あの者達を縛り上げておきましょう。話はそれからです』
『アンラ、ケント様が眠らせた者達を処理するまでこの二人を逃げぬよう見張っておくのだぞ』
結局、最初の十八人と、後の十二人あわせて三十人の盗賊団だと分かった。
もちろんアンラの
「盗賊団の小型馬車が十台、何台か置いていくしかなさそうだね」
「もったいねえがしかたないよな」
『ケント、私かアンラの収納なら問題なく回収できますよ。馬は無理ですが』
そういやそうだな、それは解決で良いが、馬車狙いの盗賊団に貴族が絡んでるとはな。
それも今回魔物の討伐を依頼した貴族だ。
この峠の向こう側で略奪を繰り返し、馬車とその積荷に違法奴隷の売買用の人攫いまでやっていたらしい。
それに、それをやっていた奴らはこれだけじゃなく、同じ人数の団があるらしい。
こりゃ一度リチウムに帰った方が良いかもな。
その貴族ってのが峠を越えたランタン伯爵その人なんだから、越えた側に連れていっても、内々でまた盗賊団として釈放されるだけだろうし……。
「なあ、おっちゃんらは峠越えするんだろ?」
「いや、リチウムに向かう途中だがそれがどうした?」
「マジか! それならよ、コイツらはリチウムに連れてかねえと駄目だから頼めねえかと思ってな」
「そのつもりだぞ、どちらにしてもコイツらを連れて峠越えはしたくないってのもあるし、峠の向こうはコイツらの親玉ランタンだからな」
俺と同じことを考えてたんだな。
なんてこと無いような顔で、握りこぶしで親指だけを立て、俺に向かって突き出してきた。
「任せてくれ。だが馬車は何台か置いていくしかないだろう」
コイツらが乗って来ていた馬車十台を見ながら『良い馬車ばかりだしもったいないな』『あの三台目、二頭引きもできる奴だろ?』『コイツらをまとめて乗せるのは――』なんて言ってる。
「いや、残る馬車なら俺がなんとかするからよ。すまねえがリチウムに帰れんのは魔物討伐依頼を終わらせた後になっちまうけど、ソイツらのこと頼む」
「ああ、三十人だろ、詰めれば十人ずつ行けるだろ、ここからならリチウムまで下りだから馬にも負担は少ないだろう」
話がまとまったところで、盗賊どもは三台の馬車に詰め込み、余った七台の馬車をクロセルに収納してもらった時、みんな唖然とした後『おまっ! それ、商人が一番欲しいスキルじゃねえか!』と一人の兄ちゃんが叫んだが、その場は解散となった。
「ケント~、見張りしておくからさ~、ちょ~っとお酒飲んでも良い? ダーインスレイブもいるしさぁ~」
「おう、飲みすぎんなよ。それからここでも魔物が出っかも知れねえから、近付いたと分かったらすぐ起こせよな」
酒樽を頭の上に掲げて、くねくねしながらねだってきやがる。
まあ、ダーインスレイブもいるしいいだろ。
「やたー! ケント任せておいて、どーんと寝てて良いからね~」
「んじゃ、流石に眠いしな、寝させてもらうぜ」
馬車の御者台に上り、荷台にもぐり込んで……なんだこれ……なんで荷台に寝台が積まれてんだ……。
目を疑う状況だが、狭い荷台がほぼ寝台になってる。
いつの間に俺の部屋にあった
『うふふ。そう言えば村を出発前に、ほんの少しアンラが消えた時がありました。その時にケントの部屋から持ち出したのでしょうね』
「はぁ、慣れた寝台で寝れるって思えば感謝しかねえな」
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