第90話 それ、ヤバいヤツだから
「起きたみてえだなガズリー、俺を追いかけてきたんだろ?」
寝転がったままだが、股間に手をやり、声をかけた俺に気が付いたのか、脂汗をかきながら睨んできた。
「ぐあぁ、ケントてめえ、すぐにやっつけてやるからな、くっ、こっちには王子様がいるんだ、くうっ――お、お前は手も足も出せないで俺にヤられて、アシア達を渡すことになるんだよ」
「ならねえぞ、負けねえし、渡さねえからな。それよりお前……知らねえぞ、それヤバいんだからな」
ってかよ、王子様……身分を既に使ってるじゃねえかよ……こりゃ、聞いてる人数が多いから今さら口止めも厳しいぞ。
(面白そうだから、王子と従者に
そういや妹に第一継承権を移してるんだったか? まあどっちでも良いがよ、この王子様より絶対国や国民の事を知ってるだろうし、知ってるからどうやれば良いんか決められるってもんだ。
(だよね~、だから王女は冒険者なんてものをしてるって言ってたしね~)
「ヤ、ヤバいのはケント、お前の方だ、うぐぁ、痛――な、なんだこれは……血?」
ガズリーは痛みのため股間を押さえていた手を見たようだ。
おろ? 漏らしただけかと思ったが、ヤッパ怪我してたみてえだな、しゃーねーな、怪我くらい治して――。
(今は治さない方が良いかもね~、治せばまた突っかかってくるだろうし、って、ほら、まわりの人達が王子と分かり始めたわよ♪)
『そのようですね、騎士団として、多少は顔も知られているでしょうし』
ガズリーもなんか言ってるけどよ、このままじゃまわりの人達みんなが知っちまうぞ……。
聞き耳を立てると『俺、式典でこの顔見たことあるぞ』『俺も見た、騎士団の採用試験で挨拶していた』『マジかよ、なら助けた俺達って褒美を――』なんて仰向けで気絶している王子様の顔を覗き込んで口々にだ。
こりゃ顔を知らなくても、まわりがこんだけ王子様だと言ってたら、完全に王子様って思い込んでしまうだろうな。
まわりの声を聞いたからなのか、ガズリーは自分が王子様の仲間としてここまで来てんだ、自分に有利な形になったと思えば痛みも我慢できるのか、また俺を睨み付けてくる。
「ははっ、もう逃げ道はっつぅ、無いぞケント、さっさと負けを認めろ、僕は王子様とお前をこらしめっ、うがっ、るために来た、抵抗は不敬罪だからな、あははっ痛ぅぅ」
「やっぱり王子様なのかよ! こんな地面に寝かせてたら俺達も不敬罪になってしまうぞ!」
「ど、どうすりゃ良い、まだ死にたくない」
どんどん起きてる者達の中でって、うちのアシア達と、ここに出てきている冒険者や、護衛達にはもう王子様ってことになってしまっている。
残りの者も、今は寝ていてるが、交代の時に広まるだろうし、朝にはここの夜営地で王子様を知らない者はいなくなるだろうな。
あちゃー、こりゃもう誤魔化せないぞ、これでもう王様にはなれないって事かよ、ガズリー……お前、頑張れよ。
「はぁ、しゃーねーな、敷物だけでも出しておくか、プリム手伝ってくれ」
「は、はい……可哀想な王っ……あ、危ないです、私も言っちゃうところでした」
ん~、グールの毛皮をいっぱい出して、何枚も重ねれば……。
プリムと一緒に広げながら寝台の高さくらいまで積み重ねて、畏れ多いと触れたがらないから仕方なくプリムと二人でグールの毛皮に王子様を寝かせておく。
従者は一枚だけ敷いて寝かせておいたんだが、ガズリー達はどうするか。
「どうするです……あの方達」
「そうだな、おいガズリー、お前ら冒険者なんだ、夜営の道具くらい持ってるだろ? 馬車に乗ってきたくらいだからよ」
まだ、地面に寝そべったままだけどよ、そっちのジャレコとダムドは普通に動けるはずだ。
「当たり前だろ! おいガズリー待ってろよ、俺がテントを張ってやっからよ、ダムド、手伝え」
「う、うん、ガズリーおら達が準備するまで待ってて」
ジャレコとダムドがハマって動かない馬車に、夜営の道具を取りに行こうとした時、思い出したから言っておく。
「おい、馬の世話も忘れんな、走ってきて繋いだままだろ、ちゃんとしとかねえと可哀想だかんな」
走り出しかけてるところに声をかけたから、こっちを向いたジャレコが、つまずき転けかけたところにダムドが突っ込み、見事に転げてしまった……。
その後も悪態を付きながらも立ち上がってテントを馬車から取り出して、ジャレコがテントをガズリーの近くに張る間にダムドが馬の世話に。
テントが張り終わった時、ダムドも馬の世話が終わったようで、ガズリーの事を二人がかりでテントに移してしまった。
(ねえ、ガズリーってお漏らししてたよね? あのままテントに入れちゃったらさ絶対臭いと思うんだ)
アンラの言う通りだな……よし、アンラ、面倒にならないよう
(そだね~、
ドサドサと、二人がテントの中で倒れた音が小さく聞こえた。
さぁ、後すこしだが夜警しながら修行すっか。
真夜中の交代時間まで修行していたところ、ここから見えるところに王子様達がいて、それを囲うように他の夜警している者達が、入れ替わり立ち替わり様子を見に来ている。
交代時にエリスに説明して、テルルも呆れた顔になったが、眠いから後を頼んで寝ることにした。
翌朝、また騒ぎになって起こされるまで、何事も無かった事は良かったんだが……。
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