第12話 魔法が使えたぞ

 なあクロセル、こんなに地面がへこむほど重くなったんだよな? 加重ってやつで、それなのに俺は軽く持てたぞ?


『はい。それはですね、持ち主――』


 クロセルの説明の途中から司教のおっさんがおろおろしながら話しかけてきた。


「ケ、ケント君! その者の奴隷の枷を外して下さい! その者は教会の護衛なのです! わ、分かりました、剣は諦めますからお願いします」


 ペコペコと頭を下げながらそう言ってきたが、残りの護衛は腰の剣に手を添えて俺を睨み付けてくるだけだ。


「司教のおっさん、コイツは俺の剣を無理矢理奪おうとしたんだぞ?」


 俺はあきれながらそう言って、ぽんぽんと背中のクロセルを叩く。そして睨み付けてくるから睨み返してやる


「それは強盗って言うんだ。そんな事をやったコイツは盗賊だぜ。このままこの村に常駐の兵士に引き渡すのが普通じゃねえのか? それとも司教のおっさんも、その後ろで俺を睨み付けて剣に手を添えて、いつでも抜けるように身構えてる残りの護衛も盗賊の仲間って事で良いのか?」


 残りの護衛に向かって指差してやると、足元からうめくように足の潰れた兄ちゃんが喋り始めた。


「くぅ、し、司教様、その剣は絶対に教会に持ち帰らなければなりません、明らかに普通の剣では無いのですから! レイスを浄化できる事も確認できました。ですから退魔武器として、私達のような退魔師が持たなければ! ただでさえ私達には武器が足りないのですから!」


 拘束され体を丸めたまま下から忌々しそうに見上げてくる盗賊やろう。


「ふん、それなら俺が持ったままレイスってのをやっつければ良いんじゃないのか? まあ俺は冒険者になるつもりだからそのついでになるけどな」


「それはそうですが、持ち主から無理矢理奪うのは違いますよ。すいませんケント君、今回は上手くレイスを退しりぞけられたのかも知りませんが、その······『努力』では······」


 目を伏せてギリッと歯をならす盗賊にかわり司教のおっさんがそう言う······スキルか。


 ······まあ『努力』だもんな。だが契約しなきゃただの丈夫な剣なんだろ?


(そうだね~。それにもう渡しても相当力がなきゃ振ることもできないんじゃないかな? そうでしょ神剣クロセル )


『アンラの言う通りです。先ほどまではケントが貸した状態でしたので、持てるようにはしましたが、この者達にはもう持ち上げることすらできませんね、それにケント以外では私でレイスを浄化する事はできませんよ』


 ふ~ん。ならそれで良いか。


「その通りです司教様! ケント! その剣は教会に渡すべきだ! 授かった『努力』とか役立たずのスキル持ちが持つべき武器ではないです! 早く拘束を解き、大人しく渡せ!」


 すげえ剣幕だな。剣に添えてた手も、今はもう完全に握ってるしよ、そうだ、うるせえからその持てねえってのを分かってもらうか。


 俺は無造作に護衛達に近付く。


 さらに腰を落として、いつでも俺に切りかかれるように身構えてやがる。


「あのさ、ちょっとくらいなら貸してやっても良いけどよ、もうお前達には持てねえぞ? ほら持ってみろよ。怪我するかも知れねえがな」


 俺は睨み返しながら護衛に近付き片手で鞘付きのまま護衛の一人に差し出してやった。


「ふん! それからその者に嵌めてしまった魔道具を外せ! まったく手間をかけさせやがってぇぇぇぇー!」


 ガシャンとまた地面に落とされたクロセル。


 護衛の爪先ギリギリに落ちたから、ズザザと後ずさり、取り落としてしまった手を見詰めている。


「おい。剣は貸してやったんだからちゃんと持ってろよ、それからコイツは盗賊だから解放はしねえ。剣を見たいならさっさと拾え」


「い、言われなくとも! ――ぬっ! な、何! ふん! ぐがががが! び、びくとも動かないだと······おい! どうなっているのだ!」


 落ちたクロセルの元に後ずさった分数歩進み、片ひざをついて手に取ろうとするが、動きもしない。


 クロセルのまわりを掘り起こして下に指を入れても、剣をテコにしてコジても動かなかった。


「俺は絨毯を掃除すっからよ、その間見てても良いぞ」


「おい、ちょっと待て!」


 俺は止める声を無視してその場を離れ、心配そうに見ていたアシア達のところに戻って掃除を始めた。


 途中、二人に『可哀想だから捕まえるのはやめてあげて』と泣きそうな顔で言われたから、仕方無く魔道具を外してやり、掃除を終わらせて後は乾くのを待つだけだ。


「なあ司教のおっさん、この剣は俺しか使えねえようだぜ? 諦めろよ。そいつも拘束を外してやったろ?」


 まだ剣を持ち上げようと頑張ってる護衛の横にいて、足が潰れたヤツの回復をしてた司教に話しかける。


「そのようですね」


 そっちに集中してたが、返事はしてくれた。


 そこで良いことを思い付いたから聞いてみることに。


「そうだ、回復魔法見せてくれよ。司教のおっさんなら教えられるんじゃないのか?」


 そうなんだよ、回復魔法だ。

 掃除してっ時にも、司教と助祭のおっさんが何やらやってるのをチラッと見たんだが、俺の『努力』なら覚えられるんじゃないかと思ってたらアンラも『覚えられるんじゃない?』と言ってたしな。


『良いと思います。私には持ち主であるケントの治癒しか補助できませんからね。』


「そ、その様ですね。この者の怪我は先ほど一回目の回復魔法を使いましたが、骨折ですから何度か治療をせねば治りません。洗礼の儀で使った魔力がもう少ししないと回復しませんから」


「そうなんか? それなら後で見せてくれよ。んじゃ剣は返してもらうな」


 色々と待ちあげようとしてる護衛達の間にすべりこみ、ひょいっと俺は剣を拾い上げ、背中に背負うと驚いた顔をしてやがった。


 おっと、それより雨が降ってきそうな雲行きになってきたし、さっさと絨毯を放り込んでおかなきゃなんねえな。


 空を見上げると、いつの間にか真っ黒な雲が押し寄せてあんなに快晴で明るかったのによ、薄暗くなりやがってまったく。


 俺はまだ湿っている絨毯を巻き取り、礼拝所に引きずり入れて、元通りに敷いてしまう。

 後は机、椅子を戻した後、教会の外で司教のおっさんに魔法を見せてもらう事にした。


「馬車の用意を待っている間にやってしまいましょう」


 そう言って怪我をしで座り込んでる護衛の足に手をかざして、小さな声でぶつぶつ言ってから――!


回復ハイヒール!」


 そう力強く言った途端、手から二十センチほどの光の玉が出てきたと思ったら、スーッと足の怪我したところに吸い込まれて消えていった。


「ふう。このように最後の言葉『回復ハイヒール』という言葉に魔力を乗せれば良いのです。これでよろしいか?」


 まだ複雑そうな顔でそう言ってくるが、正直ちと感動している。


「おおー。すげえな、でもよ、ハイヒールの前には何て言ってるんだ? 専用の呪文みたいなもんがあるんじゃねえのか?」


 それがなきゃ唱えても発動しないとかだよな?


「いえいえ。あれは私独自の物で、集中するために言ってるだけです。ですから魔力の操作をできるようにまずはならないといけませんね」


(まあ、それは中々難しいとは思いますけどね。私でさえ数年の修行の末、やっとの事で覚えたのですから、それより時間はかかるでしょうね、回復ヒール系の魔法は強弱で名前も変わりますし、そこまで教えることはないでしょう『努力』ですからね)


「ではこれで。私達は、街に戻りますので失礼しますね」


 そう言って怪我をした護衛に肩を貸してさっさと馬車に向かっていってしまった。


 準備が終われば次の村か街に行くんだろうな。


 アシア達も雨が降りそうだと帰っていったから、礼拝所は一気に静かになった······。


「よし! やること終わったしよ、やってみるか! ん~! 回復ハイヒール!」


 気合いを手のひらに集めるようにして握りしめ、ちょうど前にいるアンラに向けて、手を開くと同時に突き出した。


「うわっ! なんで私に向けて回復ハイヒールするのよ! ビックリするじゃない! って······小さいけど出てるわね、そんな簡単に出きるはず無いんだけど······」


 マジでなんか小さいが、光の玉が出たみたいだ。

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