1-7. 櫻子との春休み
38. 終業式と、宿題おうちデート
今日は終業式。たっぷり出された各教科(もちろん現代文と古文も含む)の春休みの宿題が私のテンションを落としにかかる。1週間ちょいしか休み無いのに多すぎません……?
春休みも部活はある。遊びにも行きたいし宿題やる時間って本当に無い!
春休みに櫻子の家で宿題出来ないかなと思いながら私は部活に向かう。
光北高校吹奏楽部は、今は来年度5月の大型連休に開催される定期演奏会に向けて動いている。
夏のコンクールの時期ほど毎日練習!とはなっていないので比較的のんびりとしているが、演奏する曲が出揃いつつあるので譜読みは結構忙しい。
今回はのんびりと日々喜ちゃんを育てつつ楽しむ余裕がある。何故ならユーフォニアムのソロを日々喜ちゃんに交代したからだ。
私は次の夏のコンクールが終わったら引退して日々喜ちゃんに全て任せて受験勉強を始めるつもり。 未だにどこの大学へ進学すべきか決めきれていないけれど……。
好きなもの。吹奏楽を除けばもう国語と本かなあ。この前聞いた、櫻子がどうして先生になったのかの話を思い出し、私はぼんやりと“もしも、自分も先生になったら”と思い始める。櫻子への気持ちは、今となっては“恋愛”だけれど、“憧れ”ももちろんある。……私が、櫻子みたいな先生になりたい、って言ったら櫻子はどう思うんだろう。……応援、してくれるのかな。春休み中に、櫻子のお家で2人で過ごせるなら、そう話してみよう。
そう考えながら私はロングトーンとタンギングの基礎練習をこなして、定期演奏会の楽譜の譜読みを始めた。
夕方、部活が終わって私は図書室へ向かう。櫻子がまだいるかもしれないから。
図書室の扉には珍しく“閉館中”の札がかかっている。でも、中は明かりがついていて、櫻子が動き回っている。これはむしろチャンスでは……?
「入りますよ。」
そっと扉を開けて、私は図書室に入る。櫻子は忙しいのか、こちらに気がつく様子は無い。
念のため、他の人がいないかをチェックする。……いないみたい。なら良いか。
櫻子が一息ついたところを見計らって、抱きしめたくなるような細くて綺麗な身体に後ろから抱きつく。
(本当はほっぺにキスしたかったけど、背伸びしても届かなさそうで諦めた。悲しい。)
ひゃあっ!! と可愛い悲鳴が図書室にこだました。
「こんなことするのは琴葉よね。」
「櫻子の声、可愛かったです。」
「今日は閉館中よ。まあ、もう貴女は分かっててやってるとして。」
「何してるんですか?」
「蔵書点検……の準備ね。毎年春休みにやってるの。私はここでやるのは初めてだけど。要するに、図書室の本が全部あるかの確認作業ね。貸出も止めて、図書室の本を全部チェックするの。」
「……櫻子が1人でやるんですか。」
「まさか。本のチェックは、バーコードを読ませてやるんだけど、流石にこの量を1人では春休みが終わっちゃうから、赤染先生に応援を頼んであるの。あの人には頭が上がらないわ……。」
「……それ、私もやっていいですか。」
「貴女の部活と被らなければ、あと赤染先生にも念のため相談してからね。まあ、本人もいるし許可はいただけると思う。2人でも大変だから、貴女がいてくれるともっと早く終われるかもしれない!」
「櫻子の役に立てるよう頑張りますね!」
「蔵書点検は明日だから、私が一段落ついたら、一緒に職員室に行って赤染先生に話を通してきましょう。」
「明日……だと15時くらいまで部活ですね。」
「流石にそんな時間には蔵書点検終わらないでしょうから貴女は部活が終わり次第来てくれればいいわ。」
「分かりました。ありがとうございます。……櫻子は今何してたんですか?」
「その蔵書点検の準備よ。今ある資料が正しい書架に収まってるか目で見て確認して、違う位置にある資料は正しい位置に戻しておくの。そうすれば、明日の蔵書点検であちこち動き回らなくて済むでしょう? もしちょっと見落としてたとしても、やらないよりはるかにスムーズに進むわ。何事も準備が大事、よ。」
「そうなのですね。じゃあ、今から私もやります! そしたら、櫻子の仕事も早く終わりますし! 書架に書いてある番号と、背表紙のラベルが合ってればいいんですよね。」
「ええ。じゃあ、その6類……600番台の書架を一つお願いするわ。そこは数が少ないからやりやすいと思う。書架の左から右に向かって背表紙の数が大きい並びになっていればOKで、ずれていたら直してね。」
「わかりました。」
6類の棚……「書架」と言うらしい、の前に立ち、本……図書館では「資料」と呼ぶらしい、の並びをチェックする。ズレていれば、直す。6類の棚はあまりズレていなかった。
「終わりました。あまりズレてませんでした
。」
「ありがとう。やはり利用が少ないからかしら。よく利用のある9類は結構乱れてたり、全然違う分類の資料が入り込んでたりするわ。そうね、この書架の確認が終わったら、職員室の赤染先生にお話しに行きましょうか。」
「はい。」
櫻子の作業が終わるのを待って、私と櫻子は職員室へ向かう。
赤染先生は何やら仕事をしていた。
「失礼します。赤染先生。……清永さんのことで1つお話がございます。」
今、間があったのはきっと「琴葉」と呼びそうになったのをこらえたんだろう。
「うちの清永さんね。」
「はい。先ほど、清永さんから、図書室の蔵書点検作業を手伝いたいと申し出がありまして。せっかくの申し出ですし、やらせてあげようと思うのですが、赤染先生、構いませんか?」
「あら。図書室に興味があるのねぇ。いいでしょう。清永さん、積極的なのは良いことですよ。藤枝先生の指示をよく聞いて、頑張ってくださいね。」
「ありがとうございます! 頑張りますね!」
「清永さん、藤枝先生が関わることには積極的なのですよ。ほほほほほ。よろしく頼みますねぇ、藤枝先生。」
「わかりました。ご快諾、ありがとうございます。」
「いえいえ。」
朗らかに笑う赤染先生と別れて、私と櫻子は図書室へ戻る。図書室へ戻ってきて、私は櫻子に切り出す。
「春休み中に、櫻子の家に、宿題をしに行っていいですか? 今は櫻子の家でやるのが一番捗ると思うので!」
「春休みは、最初のほうは会議とかあるけれど、後のほうになってくるとちょっと落ち着くわよ。」
「じゃあ、24日の12時くらいに行っていいですか? ちょっとした材料を買ってきて、お昼作りますので! 櫻子とお昼食べてから宿題、どうです?」
「琴葉の手料理? 楽しみだわ。でも、貴女は宿題をしに来るわけだし。お昼ご飯は私が作るわよ?」
「櫻子の家を使わせていただくので、せめてお昼くらいはご馳走しようかなと思ったんです。櫻子の手料理も、食べてみたいですけど……!」
「じゃあ、2人で簡単なものを作りましょうか。パスタとかスープとか。それならいいでしょう?」
「甘えちゃっていいんですか?」
「せっかくお家に来てくれるのですもの。学校だと他の子と平等にしなきゃいけないけれど、私の家だから存分に貴女を甘やかしたいわ。琴葉は私の恋人なんだから。」
櫻子が私を抱き寄せてくる。ちょっと! 閉館してるからって大胆過ぎ!
「甘やかす、って……!!」
抱き寄せながら甘やかしたいなんて言われたら私どうすればいいんですかー!!
「誰よりも大好きな女の子を甘やかすことはおかしなことかしら……?」
「そんなことは……無いですけど……!」
「じゃあ、なんの問題もないわね。」
櫻子が、どんどん積極的になってきてる。私、これからずっとドキドキしちゃうのかな。
ああ、このドキドキに飲み込まれる前に言わなきゃ。
「じゃあ、また櫻子のお家で合流して、スーパーでお買い物してお昼作って食べて、私は宿題するってことで。いいですか?」
「ええ、待ってるわ。琴葉にはお引越しの箱開けも手伝ってもらったし。」
「じゃあ、そういうことで。」
櫻子に抱き寄せられながら春休みのおうちデートの約束をまとめていく。
閉館中だけど、もしかしたら誰か来るかもしれないちょっとスリリングな図書室でのひとときを過ごして、私は夕方に帰宅した。
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