第49話 薩州法度の制定と発布

 さて、上洛する前に本格的に法度すなわち法律を定めておかなければなるまい。


 しかし相良氏法度は小領主層の連合体が当主である相良氏を制約するためのものでもあるからそのまま使うわけにも行かない。


 やはり今川仮名目録や甲州諸法度のようなものも加えたほうが良いかな。


 法律と行っても21世紀では刑法や民法など色々あるがそんなに細かく取り決めても処理できないし必要なことを大雑把に決めることしかできないが、まずは大雑把に決めていこう。

 ・・・

 以下の法度は薩摩・大隅・日向・肥後の地においての平時にて適用されるものとする。


 問注所を薩摩清水城下に作り訴訟事案は問注所にて受付裁判を行うものとする。


(問注所は21世紀の裁判所のようなもの)


 侍所を薩摩清水城下に作りその権限において非違巡検を行うものとし村に駐在所を設けるものとする。


(侍所は21世紀の警察機構に近いもの。

 非違とは不法行為、違法行為。そういった行為が行われていないか巡回調査するということ。

 簡単に言えばおまわりさんによるパトロールをするよということ)


 火消所を清水城下に作り火消し衆は火消しの方法を各村々に伝えて回るものとする。

 各村において火消し桶を用意すること。

 各家において火消しの水と砂を桶一杯ずつ用意すること。


(火消所は21世紀の消防団のようなもの)


 施薬院と療病院を清水城下に作り病人を診察するものとする。

 施薬院及び療病院の利用にはそれ相応の対価を必要とする。

 施薬院及び療病院の利用者で銭などの対価が払えぬものは労役を対価としても良い。


(施薬院は薬草、漢方薬などによる治療を行う場所、療病院は温泉を用いた湯治入院施設)


 悲田院を清水城下に作り貧しい人や孤児を養育するものとする。

 10歳を過ぎたたものは小者として島津家にて働くべし。


(悲田院は孤児院)


 国人、地頭同士の私的な争いでお互いに兵を出した場合は両成敗としその権利を両者ともに剥奪する


 守護である島津家の指示無く国人や地頭が他の国人や地頭の領地を武力でうばいそこから年貢や財産をとることを固く禁ずる。

 そのような訴えが有った場合奪ったものは奪われたものに全て返納し、行った者の財産を全て没収する。


 もともとは耕作地であった土地が耕作放棄されて荒れ地になっている場合、その土地を元の持ち主が再度開拓を望む場合に、旧名主同志でその填界の争いが生じた場合、その土地が年月を経てもとの境界が判定し難くなっているときは、双方が主張する境界の中間を新規の境界と定める。


 ただし島津がすでにそういった場所に対して地頭を派遣している土地に関しての元の持ち主の土地の権利に関しての不服は認めぬ。


 また境界に対して双方が承知できぬ場合は、双方の権利を没収する。


 守護たる島津家より恩賞として与えられた土地を島津家に相談無く他のものに売ることを禁ずる。


 何らかのやむを得ざる理由がある場合は、その子細を報告すべし。


 国人、地頭が島津家に対して相談無く、他国より嫁や婿を取り、あるいは他国に嫁や婿に出すことは禁止とする。.


 そのような行為が発覚した場合一族を誅殺する。


 家中における重要な情報を持っていると思われる譜代の家臣を他のものが島津家および元の主人に断わらずに勝手に召し抱えることを禁ずる。


 そのような行為が発覚した場合召し抱えたものと召し抱えられたものの双方を誅殺する。


 薩摩・大隅・日向・肥後の海岸に流れついた難破船は持ち主に返還せよ。


 持ち主が不明の場合は、島津家に預けるようにせよ。


 河川海岸の流木は流れついた土地の者の所有とする。


 流れ着いた死体は流れ着いた土地にて埋葬せよ。


 他人の屋敷の敷地内に断りもなく中に入り中の様子を伺っているなどの輩は、屋敷の住人の知人でもなく、かねての約束による来訪でもないならば、取り押さえそれを報告し島津家へ突き出すべし。


 取り押さえようとした時に抵抗を受けてはからずも殺害したとしても、そのものには間諜の疑いがあるゆえ屋敷の主人の咎にはならない。


 また、他人の屋敷の下女と婚姻したという下人が、下女の主人に届け出せず、また同僚にも知らせずに、下女のもとに夜中に通ってくる場合、屋敷の者が逮捕あるいは殺害におよんでも咎にはならない。


 屋敷のものに断り無く下女の元に通うものがいた場合その下女は間諜の疑いありとして殺すべし。


 国人地頭が他国の商人僧侶などを島津家に断り無く被官人として召し抱えることを禁止する。


 薩摩・大隅・日向・肥後においては一向宗、日蓮宗、天台宗、キリスト教の布教並びに信教を禁ずる。


 それらの布教を辻角で勝手に行ったものは即刻殺害して構わない。


 それらのものが他国からの関を通ろうとした場合追い返すようにせよ。


 また、諸宗派間での宗教に関しての論争及び武力闘争を禁じる。


 上記宗派以外の僧侶、神主、修験者、山伏以外の者が祈念祈祷をすることを禁止する。


 石高の確認のための指出検地は5年に一度とする。


 検地を行った直後に隠田が見つかった場合には、再度の調査を行う。


 その際訂正した上での申告が有れば新田として徴税を行うことになる、申告が無ければ没収とする。


 謀反を起こしその後捕らえられたものは一族すべて石打にて死罪とする。


 賊行為、強盗、計画的に家屋や田畑に火付けを行い捕らえられたものは一族すべて石打にて死罪とする。


 意図的に領内に賊行為、強盗、火付けを行ったものを庇い立て滞在させたものは場合は同罪とする。


 地位や財産を奪うために親族を殺害した場合そのものと加担したものを斬首とする。


 酒の席もしくは口論が発展してのち相手を殺害した場合などはその者を斬首とする。


 15歳未満の子供の喧嘩については特に処罰の対象にはしない。


 しかしながら両方の親が制止すべきところ、喧嘩をけしかけたのならば親子ともに処刑すべき。


 年貢を納めず私腹を肥やすために横領した場合そのものは斬首とする。


 ただし、天災飢饉などで年貢を規定の数量収められない正当な理由がある場合は年貢を減免するので予めその旨訴えるべし。


 国人地頭の任命した代官が罪を犯した場合、任命した者も同罪とする。


 公の場で暴力をふるい他人へ傷害を負わせ訴えられた者は財産を没収する。


 財産がない場合は額に”傷害”の文字の刺青を入れたうえで剃髪とする。


 文書・花押・印などを偽造したものは額に”偽造”の刺青を入れたうえで剃髪とする。

 他人に頼まれて作った者も同罪とする。


 嘘の訴えをおこしそれによって田畑を得たものはその者の田畑を全て没収する。


 道路上で女子供を拉致したものは額に”拉致”と刺青を入れたうえで剃髪とする。


 道路上で女を犯したものは額に”女犯”と刺青を入れたうえで剃髪とする。


 道路上で男を犯したものは額に”男犯”と刺青を入れたうえで剃髪とする。


 道路上で元服、裳着に至らぬ男女を犯したものは額に”子犯”と刺青を入れたうえで剃髪とする。


 裁判時において暴言、暴力行為に及んだものは敗訴とする


 裁判に負けたものが不正判決と不服を訴えることを禁ずる。


 ただし、賄賂などで実際に偏った判決を行っていた場合裁判官は斬首とする。


 ・・・

 まあこんなところか。


 とりあえず出来上がったものをお祖父様と相良晴広に見せてみるとしよう。


 二人を呼ぶとまずはお祖父様がやってきた。


「うむ、又三郎よ、今日はどうしたのだ?」


「はい、私なりに考えて相良家などが定めたような薩摩・大隅・日向・肥後における法度を定めてまいりました。

 お祖父様にも意見を賜りたく見ていただこうかと」


 お祖父様は俺は書き上げた紙を手に取ると取ると内容を読んで行く。


「ふむふむ……」


「いかがでしょうか?」


「うむ、これで良いと思うぞ」


「ありがとうございます」


 そして肥後から戻った相良晴広がやってきた。


「本日は如何様な御用でございましょう?」


「うむ、俺なりに法度をまとめてみたのでみてもらおうと思ったのだ。

 その上で問題があれば意見が聞きたい」


「なるほど、では拝見させていただきましょう。

 ふむふむ、なるほど中々に細かくありますがよろしいのではないかと」


「そうか、ではさっそく法度を木版で印刷し領主国人豪族地頭へ回すように指示しようか」


「それで良いかと」


 俺は早速必要な施設用の建物を城下に建築するように指示を出すとともに、法度を木版で印刷し各村々へ回すように指示した。


 薩摩や大隅ではシラス低地で区切られてるので境界に関しての問題はあんまり起きなかったような気もするが、結局分国法を定めない限りは力の強い国人がどんどん領地を切り取っていきかねない。


 そういうのではなく戦功での報奨を獲れば良いようにさせ無ければいつまでもヒャッハー、力こそ全て、な状態から抜け出せぬであろう。


 ま、一番ヒャッハーなのは俺たち島津の兄弟なのだがな。

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