第44話 菊池義武を支援して島津は日向で大友と闘うことに決めたぞ

 相良晴広と菊池義武と俺の会談は続く。


「さて菊池義武殿、我々島津はあなた方菊池と古来より主従関係になく、むしろ長年敵対関係にあったものです。

 故に俺には相良晴広殿とは異なり、あなたを助けて肥後の守護としなければならない義理はない」


「……たしかにそうですな。

 しかし、島津は先々代の菊池武経こと阿蘇惟長に力を貸しておりましょう」


 俺は頷く。


「うむ、たしかにそうだ。

 だがゆえに我々があなたに協力するとしても、島津に相応の見返りがなければ我が島津の家臣が納得しない」


 菊池義武は頷く。


「それはそうでございましょうな」


 俺は指を三本立ててみせる。


「で、あればあなたの取る道は3つある。

 一つは薩摩で静かに余生を過ごすこと。

 もう一つは我々の神輿となって島津の手で肥後を取り戻し、島津の傀儡として肥後の名目だけの守護に甘んじること。

 最後は我々の軍事的支援を受けた上であなたも阿蘇や名和といった、南朝勢力であったものをまとめ上げて自分自身の力で大友と戦うことです。

 無論その場合でもその後我々の戦には従ってもらうことになりますが」


 実際のところ大隅の肝付兼続や南肥後の相良晴広に対してそのまま領地を安堵し統治を続けさせるように、菊池が独力である程度肥後を制圧した上での統治や大友との戦を行ってくれた方がむしろ俺としては助かるのだ。


 なにせ日向の伊東の統治下に有った土地はこれから薩摩や大隅の部屋住みの武士などを村に派遣して寄親寄子の組織を再編成しなければならない。


 戦は程々に勝って相手を降伏させ謀反を起こさせない程度に支配するのが、本当は良いのだがそれも時と場合と相手によるからな。


「であれば当然選ぶべきは最後の手段となるでしょう。

 私は相良殿と共に名和や阿蘇、それに私の家臣であった、鹿子木や田島をなんとか説得してみようと思います」


 俺はその言葉に頷いた。


「うむ、ならば俺は菊池義武殿を支援するとしよう。

 我々は日向北部に軍を進めつつ肥後の平定にも一部軍を派遣しましょう」


 菊池義武はホッとした表情をみせ相良晴広も同じように表情を緩めた。


 しかし、話はそう簡単ではない。


 大友が支配する豊後は40万の石高を誇る豊かな土地でさらに筑後が30万、肥後北部で20万、日向北部で15万石ほどだからあわせて105万石にも達する。


 単純計算で2万から2万5千は動員できる計算だ、


 それに対してこちらは薩摩30万石、大隅18万国、日向南部23万国、肥後南部で25万石程度の96万石、とは言え肥後南部は計算外だし日向南部の動員能力もおぼつかない。


 なので日向に展開できる兵力は1万くらいだろう。


 無論大友のほうも肥後北部の国人まで日向に投入する訳にはいかないだろうし、全兵力を日向に向けるわけにも行かないだろうが。


 しかも大内義隆が陶隆房の謀反により自害すると、大友義鎮は陶隆房の申し出を受けて弟の大友晴英を大内氏の新当主・大内義長(彼の生母は大内義興の娘で大内義隆の甥にあたる)として送り込んだ。


 これにより大友は大内と対立せずにすむようになり、豊前や筑前は大友の後を継いだ陶晴賢の支配下であることには変わらなかったが、事実上は北九州における大内氏に服属していた国人は同時に大友家にも服属することになり、大友は博多を得たのだ。


 とは言え元々少弐家や大内家とは仲が悪かった大友家に従うのを良しとしない国人も多い。


 元は少弐家に従いその後は大内に従っていた「秋月家」などがそうだ。


 この頃の筑後や肥前は少弐とその家臣であった龍造寺の他に大村・有馬・千葉などの国人が群雄割拠しているからそちら方面はあまり心配しなくてもいいはずだが楽観は禁物だな。


  ちなみに島津と大友は特に明確に同盟などは結んでいないがその関係は良好であった。


 しかし、それは日向の伊東や南肥後の相良がお互いの緩衝地帯となっていたからでそれにより島津は薩摩・大隅・日向の統一に専念できたし、大友も大内との戦いの最中に伊東に背後を突かれること無く戦えたことにあった。


 すなわち日向を俺が制圧してしまったことにくわえ、伊東家の旧臣は島津に降伏したものの内心では俺達のことをよく思っていないのは明白で大友に内通しているものも少なくなかったのだ。


 もっとも大友の側も二階崩れの変からさほど経っておらず、大友義鎮は気に入らないと家臣をあっさり手打ちにしたり、菊池義武のその妻を奪って側室にしたりもしている。


 義理の叔母を無理やり側室にしたということで、これは家臣から非難されたがかれはそもそも家督を次ぐ前より「酒宴乱舞、淫蕩無頼」と太守の息子であることをいいことに、金にあかして全国から美女たちを集めて酒宴に明け暮れる手のつけられない放蕩息子であって、父である大友義鑑やその寵臣である入田親誠たちが妾腹でありながらも塩市丸を後継者にしたいと考えたのもおかしくはない。


「日向で戦うとなれば土持親成(つちもちちかしげ)を管轄している吉岡長増(よしおかながます)

 と戦うことになるか……」


 吉岡長増は大友三老の一人で戦上手な男であり彼と戦をするとなれば事前準備も必要だ。


 ただし、大友がキリスト教に入信したことによる南蛮貿易で利益を得たり大砲や鉄砲、黒色火薬などをえられているわけではないのでその点は有利になるが、家臣に対してもキリスト教に改宗をさせたり寺社を破壊するということを行っていない分だけ家臣はまとまっている可能性も高い。


「では、菊池殿には島津陽久並びに菱刈の兵を預けましょう」


「ありがとうございます」


 こうして俺は日向の完全な制圧を目指して大友と争うことに決めた。


 そして自害した出水の島津実久の息子である島津陽久は俺に降伏したものの完全に従っているとも言えない。


 日向に俺たちが出征する間に謀叛でも起こされても困るから肥後の制圧に動いてもらうとしよう。


 菱刈は相良と共に動いていたし彼等なら連携も取れるであろう。


 最低限肥後の大友に臣従している国人たちを切り崩してくれることを願うぜ。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る