第42話 南日向と大隅を制圧したぞ、そして菊池義武が薩摩に逃げ込んできたがどうしたものか、そして大寧寺の変も起こったか
さて、清水城についた俺は、先ずは日吉の家族や一緒についてきた木下の一族には空いている家をあてがった。
だが、雑賀の鈴木一族を中心にした傭兵の男たち1000人をいっぺんに入れられる家はないので、城の守りに残っている雑兵に日銭を払って家を建てさせることにした。
そして俺が連れてきた伊右衛門が清水城を見て目を丸くしている。
「え、ここって……城?」
俺は頷く。
「おお、そうだとも、俺はここの城の主なんだぞ」
「え?本当に?」
そこに鈴木重意が笑いながら言う。
「そうだ、俺達にとっては大事な取引先の大殿様だぜ。
そうは見えないかもしれないけどな」
俺も頷く。
「おお、お前さんに俺が嘘をつく意味があるか?」
伊右衛門は首を左右に振った。
「いや、ないですけど……なるほどそれで金持ちだったりしたわけですね」
俺は笑いながら言う。
「おお、だが銭勘定や商売が得意なやつは薩摩には少ないからお前達兄弟には期待しておるぞ」
伊右衛門は頷いた。
「はい、頑張ります」
そして俺は二人を率いて城主の部屋に戻る。
「ふむ、ここに戻るのは久しぶりであるな。
お祖父様と伊集院右衛門大夫忠蒼、樺山善久、比志島義基を呼んでくれ」
控えていた小姓に
「は、かしこまりました」
やがてお祖父様と伊作島津一門で現在の老中である伊集院忠蒼、奉行で内政担当の樺山善久、島津水軍の武将である比志島義基が部屋に入ってきた。
「お祖父様、伊集院忠蒼、樺山善久、比志島義基。
いま京より戻りましたぞ。
そして俺がいない間に起こったことを詳しく説明していただけますか。
それと樺山善久、こいつを小者として雇ったのでビシバシしごいてやってくれ」
樺山善久がうなずき伊右衛門が頭を下げる。
「わかりましたぞ若」
「よ、よろしくお願いします」
これで伊右衛門に関しては大丈夫であろう。
そしてお祖父様が頷く。
「うむ、ある程度は聞いておるとは思うが……」
お祖父様と伊集院忠蒼から現状の薩摩と大隅、南日向、南肥後の状況を説明してもらう。
「なるほど、それでは現状の南日向の伊東はすでに我々との
戦闘の継続は不可能でしょうな」
お祖父様は頷く。
「うむ、それどころか地侍が多く死んだ以上は村の管理すら危ういかもしれぬな」
地侍は村の管理者であるからな。
そんな状態で村同士の土地争いや水争いが起これば収拾もつかなくなるだろう。
「では、さっそく南日向の伊東を攻略するために雑賀衆に動いてもらうか。
比志島義基は雑賀衆の鈴木重意と協力して日向灘を北上し、一ツ瀬川河口付近から
その前に我が弟には高原城、小林城、須木城、岩牟礼城などに攻撃をかけさせ、伊東が南に攻めてきたら挟撃できるようにしようとは思う。
北部の土持宗家は大友氏に臣従しておるゆえ手出しは厳禁だ。
戻ってきた頃には皆が住める長屋も完成しておるはずだ」
「分かりました」
「では、道案内を頼むぞ」
「うむ、任せておけ」
比志島義基と鈴木重意は頷いた。
そしてその後にお祖父様が言う。
「大隅と南肥後についてはどうするのだ?」
「俺は朝廷と幕府より正式に大隅守と大隅守護を任官されました。
そして今上陛下により日向や肥後の賊徒の追討の権限も頂いております。
ゆえに薩摩大隅の島津庶流や国人も俺を正式に守護として認め、それを書類にて盟約してもらいましょう。
無論同心せぬのならば朝敵として根切あるのみですが、島津に逆らうとどうなるかというのは伊東がどうなるかをもって周りには見せるとしましょう」
「ふむ、伊東は見せしめとなるわけか」
「ええ、それを持って島津の権威と武威の復活といたしましょう」
お祖父様は頷く。
「うむ、それでよかろう」
すでに薩摩は俺の初陣で蒲生茂清、入来院重朝を降伏させ、その後の統一過程で蒲生範清、菱刈隆秋、東郷重治などの有力な国人は降伏させ、島津実久を自刃に追い込んでその子の島津義虎を降伏させてはある。
そして各地に使者を送り島津の庶流の家々や菱刈氏、蒲生氏、渋谷市などの国人に薩摩守護として正式に俺を認めさせ臣従させた。
そして日向の南西部から島津又四郎忠平が、東部から比志島義基を案内役とした雑賀衆の鈴木重意が侵攻を開始するとまず高原城は陥落し、その様子を見て伊東本家を見限った「惣四十八城」とよばれる伊東方の支城の主は次々と降伏し伊東から離反した。
伊東義祐は豊後国の大友宗麟を頼って亡命しようとしたが、雑賀衆の攻撃によって討ち死にすることになり、捕らえた伊東一族は女子供に至るまで後の禍根を残さぬために全て処刑した。
それにより伊東は滅んで応永四年(1397)から長く続いた、伊東と島津との長い抗争の歴史は幕を閉じた。
「長い長い争いでしたなぁ」
そして木崎原の島津の一方的大勝とその後の日向の惨状に加えての朝廷よりの官位と綸旨が合わさった効果は大きく、肝付本家の
大隅は南日向の伊東の多大な犠牲を見せつけつつ島津の正式な大隅守の任官という権威を合わせることで平和的に統一を完了したのだ。
「北日向は大友に従ってるから今のところほおっておこうか」
お祖父様は俺に問う。
「では、その後はどうするのだ」
「しばらく薩摩、大隅、南日向は治安回復などに勤め、その間に西四国を制圧します」
お祖父様は頷いた。
「ふむ、四国西部には大きな勢力はないからそれが良いかもしれぬな」
「はい、四国へ渡るための水軍も雑賀衆の力を借りれば十分でしょう」
一方で南肥後の相良には使者を送って降伏を勧告したがまだ返事は来ていない。
どうも大友や大内と色々やり取りもしているようだ。
そして季節が秋になろうという頃、大内の領内で
「ふむ、大内が陶によって滅ぼされたか」
このあたりは予定通りである。
そしてその頃に又六郎歳久が兵を率いて戻ってきた。
「兄上、肥後の相良晴広と菊池義武が我ら島津に服するそうです」
「なんだって?菊池義武が?」
菊池氏は南朝側の有力な名門武士であり肥後の守護でも有った。
しかし、現状は大友による策略により滅亡寸前なのだ。
「はい」
うむむ、菊池義武は大友重治でもあり、甥に当たる大友義鎮とは仲が悪いのだがどうしたものか。
「分かった、謁見を許そう」
「では両名をお連れします」
菊池義武を支援すれば大友とは敵対することになるだろう。
しかし菊池義武を見捨てれば島津はいざという時に頼りにならぬといわれるかも知れない。
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