第34話 家督を継ぐとなれば当然跡継ぎが必要だから結婚するわけだ

 さて、天文19年(1550年)に俺たち島津宗家が薩摩を軍事的に統一したことで、父上は隠居し俺が島津宗家の当主となることが決定し、色々やるべきことも増えた。


「さて、俺が島津の当主となるとしたら今までのように高山国に私自ら行って田畑を開拓し

 港を発展させるというのは難しくなりますな」


 俺がそういうと父上がニヤリと笑った。


「ふむ、ならばそれに関しては私が引き継ごう、

 弟の忠将や尚久とともにな」


 俺は祖父をみて聞いた。


「お祖父様としてはいかがでございましょう」


 俺の問にお祖父様は頷いてから言う。


「うむ、アユヤタの米を引き続き手配し薩摩へ持ち帰らせ南蛮との交易を活性化させるためにも

 高山国の港や米は重要であろう。

 ならば又三郎のあとを貴久が引き継ぐのは良いことであろう」


 お祖父様がそういうのであれば俺も反対意見はない。


 下手なやつに任せて乗っ取られても困るしな。


「では父上どうぞよろしくお願いいたします」


 父上はニヤッと笑っていった。


 うむ、叔父上そっくりだな。


 やはり似たもの兄弟であるらしい。


「うむ、任せておけ。

 高砂人と話をつけるために新納忠元はこちらについてきてもらいたいがよいな」


 新納忠元は頷いた。


「かしこまりました、引き続き高山国にて働かせていただきます」


 俺は父上や新納忠元に向けて言う。


「父上、こちらの戦で捕らえたり降伏したものはなるべく高山国に送るようにします。

 現地人は田畑の開墾に対してはあまり使えませぬゆえ、彼等との付き合いは飲料水や肉や毛皮の交換などにとどめおいたほうがよろしいかと。

 また漢人は不潔ゆえなるべく入れぬにこしたことはありませぬ。

 高山の山間部には金がありますゆえ掘り出せばかなりの金を得られるはずです。

 そのあたりも交渉してみるとよいかと思います」


 父上は頷いてくれた。


「ふむ、わかった。

 後は現地の様子を見て俺が判断するが良いな」


「はい、最終的には父上の判断でよろしいかと」


 とりあえず高山国の農地や金山の開発については父上や叔父上たちに任せて大丈夫であろう。


 高山国こと台湾島は明や琉球、東南アジア方面との交易にも重要な位置にあることは父上たちも理解していることだし田んぼを開拓できる平地がたくさんあるのは良いことだ。


 さてこのころ北九州では豊後国大友氏の家中で二階崩れの変がおきており、信濃国の砥石城で甲斐国の武田と信濃の村上との間で合戦があったが武田方が大敗する砥石崩れが起きている。


 なんで俺がこういったことを知ることが出来るのかと言えば、主に山くぐり衆の中の修験者の横の繋がりによるものだ。


 無論堺の商人のルートもあるぞ。


 俺が薩摩に引きこもっていても情報を入手できるのは修験者や交易商人、旅芸人などの全国を歩き回る者たちを召し抱えているから出来ることだ。


 で、京の都では細川晴元や足利義晴・義藤ら現職の将軍、管領が京の都から追放され三好長慶と細川氏綱が上洛し実質的には三好長慶が幕府と京都の実権を握っている。


 実質的に室町幕府は将軍も管領も名ばかりで実権を失ってしまったわけだな。


「お祖父様ここは以前にお世話になった町資将殿に朝廷及び幕府への仲介をお願いするべきでしょうか?」


 お祖父様は頷く。


「うむ、そうだな。

 薩摩宗家に代々与えられている修理大夫と薩摩大隅守を実際に朝廷より拝命し薩摩大隅守護として幕府から命じられておくのは必要なことであろう。

 それと妻帯も当然必要だ」


 俺は頷く。


「はい、私の妻はどなたとのお考えでしょうか」


「うむ、我が娘のお平をお前に嫁がせようと考えておる」


 お平は祖父の末っ子の女性でのちの花舜夫人。


 その上の叔父上である島津尚久は俺と2歳差だし年下の叔父叔母がいることも珍しくはない時代だが年齢は俺と同じ17だな。


 この時代では嫁入りが17歳だと遅いほうともいえる。


「分かりました、どうぞよろしくお願いいたします」


 そしてこの時代の武家の男女には自由に相手を決める権利はなく、同盟などのために婚儀を結ぶのが普通だし分家同士での婚姻関係を結ぶのも珍しくない。


 ではなぜ、俺の嫁を俺の叔母に当たる人にしたのかだが、父貴久は島津勝久の養子となって島津宗家の家督の後継者となったことで、伊作家の継承権はなくなったから伊作家と宗家を結びつけるために必要なことなのだろう。


 ただお平はその娘のお平を天文二年(1551)に産んだ後に永禄二年(1559)に若くして早逝しているのでなんとか長生きできるようにしたいものではあるな。


 そして叔母であるお平と俺は同じ城に住んでいるのだが、実は顔を合わせたことはない。


 基本的に守護クラスの娘の女性が自分の部屋を出たりすることはほとんどないしそこに遊びに行ったりすることもない時代だからな。


 そういうこともあり婚姻前に祖父によって引き合わされたのだ。


「同じ城の住人でありながらお互いの顔も知らぬものが婚儀を結び夫婦となるというのも不思議な事ですな」


 お祖父様は末娘を大事に大事に育てたらしく対面したお平はおっとりとした上品な感じのする女性であった。


「はい、これからよろしくお願いいたします」


「うむ、こちらこそよろしく頼むな」


 名目上は伊作家の娘が宗家の当主に嫁ぐということで、実質的にはすでに薩摩守護の実権を握っていた伊作家が名実ともに薩摩島津の宗家になったわけだ。


「そして婚姻そうそうで悪いが俺は上洛しないとならん。

 朝廷や幕府へのご機嫌伺いも必要だしな」


「はい、わかっております。

 行ってらっしゃいませ。

 ご無事をお祈りいたします。」


 現状では俺たちはまだ力で薩摩や西大隅を制圧したに過ぎない。


 面倒だが朝廷や幕府の公認というのは民に対しての権威付けのためにも必要なのだ。


 権威があれば人がひれ伏すわけではないのは現在の朝廷や幕府を見れば明らかだが、権威と権力があわされば皆ひれ伏すようになるのだから不思議なものだ。


 幸い島津は鎌倉よりの守護の家系であるからそういう点では権威付けは容易いのは救いだがな。


 しかし、九州では少弐や菊池と言った名門の武家も凋落・滅亡しているし島津の立て直しもギリギリのタイミングであったと言うべきではあるだろう。

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