緑の精霊神
episode64 : 探し者
「はい。ありがとうございました」
葵の進路に関して危惧していた俺だったが、先生との面談は特に何事もなく普通に終わった。
成績は少し悪いものの、前回のテストではそれなりに努力していたことを褒められたし、学校生活も楽しそうに過ごしているらしい。
友達も多く、先輩同級生に関わらず評判もいいとか。
評判がいい……とは、また変わった表現をする。この場合、仲が良いとかではないのか?
「そうでした、葵さん。校内で噂になっていますが、次のライ……」
「わーーーーー!!!!先生ダメです!!」
面談が終わり、教室を出ようとした時。
先生がふと思い出したように告げた言葉を遮るように葵が叫んだ。
「ん?どうした葵」
「なんでもない、なんでもない!!先生も、また明日!!お兄ちゃん帰るよっ!!」
そのまま葵に背中を押されその教室を後にした。
「いやー、面談何も無くて良かったよ。進級スレスレだったらどうしようかと」
「お兄ちゃん、私のことなんだと思ってるの?」
「日頃の行いのせいだ。せめて、成績結果くらい見せてくれ」
「…………善処します」
葵と話しながらも、校内を懐かしさ半分物珍しさ半分で見渡してみる。
放課後のはずだが、思っている以上に生徒が残っている。教室の窓から見えた校庭でも、外部活の学生が一生懸命頑張る姿もあった。
「……そういや、葵は部活入ってるのか?」
「えっ?!い、一応……入ってるけど」
何故そんなに驚く?
ただ部活してるかを聞いただけなのに。
「葵のしたいことに文句を言うつもりはないぞ。ただ気になっただけというか、部費はないのか?」
「あ、あったよ」
「……俺、渡してないよな」
「お小遣いで……なんとか。あんまりお兄ちゃんに迷惑かけたくなくて」
あぁ、なんて優しい妹。
「今度からは必要なお金は出すから、言ってくれな?」
「ごめんなさい」
「部活について言いたくないなら、せめて金額だけでも良いからさ。もう少し兄ちゃんを頼って――」
声が小さくなる葵の頭を撫で、いい感じの雰囲気になりかけたところをメッセージの着信音に邪魔される。
片手でスマホを取りだし内容を確認すると、赤崎さんから司寺麻の顔写真が送られてきていた。
「……あー、こんなやつだったな」
今更ながら、記憶のモヤ着いた部分がはっきりしてスッキリする。
あとはどうやって探すかだが、セブンレータワー周辺を歩いてれば、そのうち見つかるだろ。
「お兄ちゃん、何見てるの?…………あれ、この人さっき見た人だ」
「この写真は俺が探して――はいぃ?!
この学校の生徒……ってわけないだろうし、見間違い?
「昇降口にお兄ちゃん迎えに行く時、校庭の方に歩いて行くの見たんだよ。生徒以外の人がいるの珍しいし、誰かの保護者かなって思ったんだけど……知り合い?」
知り合い……なのか?知ってはいるけど。
「って違う!!そいつ、校庭に向かって行ったんだな?」
「うん。そのはずだけど……」
怪しいヤツが校内にいるとか、危険すぎるっ。
偶然かは分からんが今すぐ探し出さないと。
「悪い葵!ちょっと探してくる!」
「えっ?!良いけど……、私この後部活あるから、先帰っていいよー!……行っちゃった」
俺は葵の情報を聞き、直ぐに外へと駆け出した。
敵かもしれない奴を、葵の近くにのさばらせてはおけない。
「いや、葵を一人にするのも危険か。――召喚。ルナ、ハク、葵の護衛を頼む」
「了解なのじゃ!――化けの術・透過」
透明になったハクとルナに葵を任せ、俺は司寺麻を探す。
このタイミングは、嫌な予感しかしない。
「賢能、最後にセーブしたのは?」
『指定はありませんでしたので、毎日の起床時と睡眠時、自宅を出る際と帰宅時に
「んじゃ最後は出かける前か。念の為、ここでセーブしておいてくれ」
『了解しました』
最近は平和だったから、意識してのセーブは久しぶりだ。
「鑑定には引っかかるか?!」
『――広域鑑定。…………反応ありません』
校舎内で反応がないとなれば、ひとまず安心か。
もしくは、司寺麻は無関係で鑑定には反応しないだけか。
「神の魔力に侵されたやつは反応してた。……あれは元が魔物だからか?」
『解答不能です』
「ちっ、神ってのはどこまでも厄介だな!!」
外に出た俺は、急ぎ校庭に向かう。
それらしい魔力反応も気配も無い。広い校庭を探すには骨が折れる。上から見た方が早い。
――飛翔加速
俺はこっそりと学校の屋上へと飛ぶ。
最近の学校は屋上立ち入り禁止だから、屋上で人に会うことは無いだろう。
「……いなさそう、だな。見える範囲でだが」
時刻は午後三時過ぎ。
暗くなって部活動が出来なくなるまでには、まだ2時間以上もある。人目の多いこの時間には何もしないか。
……そもそも、あいつがここに来る理由はなんだ?
ここにいるのは九割以上が非覚醒者。
他の依代を見つけるには非効率的だ。そうでないならば、尚更学校に侵入するとかいうリスクを負う意味が分からない。
奴が本当に神ならば、狙いは俺の――
「そう。狙いはお前だ。
「――っ?!」
背後からの気配。濃い魔力。
慌てて前方へ飛び出し体勢を下げる。
「ぐっ」
なんとか直撃は回避したが、俺の肩を光の矢が掠める。
「これを避けるのか。まだ完全には馴染んで居ないらしい」
手のひらを動かし、ブツブツと呟くのは一人の男。見知った声に、……先程見たばかりの顔。
「司寺麻……、いや、てめぇは神か」
「あぁそうだ。俺は貴様らの呼ぶ神。クソ主の8柱目の神だ!!」
両手を広げ、空に向かい叫ぶ。自身が神であるにも関わらず、神を自ら嘲笑うかの如くその瞳は黒く歪んでいる。
「探して殺せと命令されたから罠を張りに来てみれば、まさか本人と出くわすとは。予定では三日後にするつもりだったが、今日の俺はツイてるな!」
出待ちしてた訳ではないのか。
……罠?この場所に?
「――てめぇっ」
「いいじゃないかその表情!そうだ。何故俺がここに罠を張ろうとしたか、理解できない頭じゃないだろ!」
ニヤリと笑うその表情に、しばらく感じていなかった黒い怒りが腹の底からフツフツと湧き上がる。
こんなクズが神だと言うのか。
「お前の存在が分かってしまえば、調べるのは容易かった。後はお前をここで殺し、ついでに"緑"を回収すれば全て終わりだなぁ!!ひっ、ははは!」
「――殺す」
その言葉に、俺の怒りは爆発した。
――飛翔加速
黒耀紅剣が闇色に染まる。
俺の剣が神の首を狙う。
「ふんっ」
「なにっ?!」
重量は下手な大剣より重く、飛翔加速に俺の筋力と魔力が上乗せされた一撃を片手で受け止める。
「この身体は今、俺の魔力が充分に流れている。ただの人間と同じだと思われては癪だ、――神威」
……身体が動かない。
剣を掴まれた腕が、ぴくりとも動かせない。
なんだ?何をされて……
「たかだか神を一体倒せたからと調子に乗るなよ人間如きが。神を前に、武器を抜くその態度は賞賛に値するが、所詮はその程度。俺を楽しませるには、――まだ遠い」
その瞬間、神の姿が視界から消える。
「うっ、……ごはっ」
奴の腕が俺の胸を貫く。
「お前のような逸材をここで殺すことになるとは、惜しいことをした」
そう呟かれ、腕が引き抜かれる。
その場に倒れた俺は、血を吐いた事に遅れて気が付く。
HPは……1で止まっている。
俺のどす黒い怒りは止まらないのに、身体は言うことを聞かない。痛みより、目の前のこいつを殺すことだけが頭の中を駆け巡る。
――コロス。こいつだけは、今ここで。
「しょう…………か……」
「最後までその瞳。しかも、まだ戦おうとするか。やはりお前は惜しい存在だった。褒美に、俺の前で――果てな」
「こ、ろ……」
神の手先から放たれた極小の光が、残りのHPを奪う。
身体が冷え切り、俺の意識は暗闇へと落ちていく。
最後に視たのは、冷たいコンクリートの地面と、穴の空いた俺の胸から飛び出す、
『新たな称号を獲得。
――"憤怒の精神"
――"神への反逆"』
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