episode45 : 再び
まさに間一髪。
俺が葵と脱出し、再びデパート内へ入った瞬間にそれは起こった。
「きゃぁぁぁぁぁっっ!!」
「に、逃げろぉーー!」
中は逃げ惑う一般の人々で騒然としている。
――アウトブレイクが発生した。
店内放送では慌てる人たちを落ち着かせるため、そして速やかな避難をするための指示が飛ぶ。
「慌てず、近くの非常口及び扉から順番に」
店員は焦りながらも、避難誘導マニュアルに従って動いていた。こういう事態を一度でも経験すると、避難訓練の大事さが分かると言うものか。
「押さないで!ゆっくり、焦らず指示に従ってください!」
しかし、そんな誘導も虚しく出口へ人が押し寄せる。
そりゃそうだ。人間、誰だって死にたくは無い。
「ま、魔物だっ!魔物が出たぞぉーー!!!」
まして目の届く範囲に、もはや目の前という距離に"死"という分かりやすい対象が現れれば、落ち着けと言うのは無理な話。
魔物が出たなど叫ばれてしまっては、収集の付けようがない。
――影渡り
いち早くゲートの発生源まで移動するために、俺は影の中に入る。建物内で照明があちこちにあるデパートで影に困ることは無い。
「賢能」
『――広域鑑定』
【――マシンアッシュLv105――】
「あいつか」
鑑定に反応した魔物は、一度交戦した事のある見知った魔物だった。
普通のダンジョン内で遭遇した、試練の眷属。
……そういえば、前にもグレーターデーモンが出てきてたな。あの時は何者かから逃げてきたのかと思ってたが、実際は試練の奴が送り込んでいたと。
眷属のグレーターデーモンと野良のグレーターデーモンの可能性も否定できないが、今回のことを考えるとその線は薄い。
「試練がわざわざゲートの外に魔物を送る理由はなんだ?」
「言ったじゃろう。今のあやつらは神の魔力の影響を受けておる。試練本来の目的とは関係ないのじゃ」
「神は人類を滅せよとでも言ってんのかね?!」
相手の真意はわからんが面倒なことこの上ない。
どうせこのアウトブレイクだってアイツらが意図的に起こしたのだろう。厄介な。
まぁ、前回もジュニアデーモンを従魔にできて結果的に役に立ってるわけだし…………
「なぁハク。眷属って従魔にできるのか」
「無理じゃよ。眷属化と従魔化はお互いに共存できぬのじゃ。上書きもできぬから早い者勝ちじゃな」
俺は前回、ゲートから出てきたジュニアデーモンを従魔にできた。……が、グレーターデーモンは従魔に出来なかった。
ってことはやっぱりジュニアの方は逃げて……違うか。
後から出てきてたし。
ジュニアは野良で、グレーターに着いてきたってのが一番納得いくな。
「お主、何をぼーっと考えておる?」
「いやー、あいつ従魔にできないかなぁと」
「無理だと言っておろう。諦めて倒してくるのじゃ!!」
はぁ、仕方ない。
戦力増強したかった。
――疾走
俺は敵の足元の影から飛び出すと、硬そうな表面を避けて関節を裂く。魔法の方が効果は高そうだが、こんな狭い場所で無闇に放つのは危険だ。
誤射で生き埋めなんて笑い話にもなりゃしない。
四足の一本を失った魔物はその重心が前に傾く。まともに動けないだろう。
「しかしまぁ硬い。刃こぼれが加速するからさっさと倒すか」
さっき影から出た時、腹部の前の方に青い宝石みたいな石が埋まっているのを確認できた。
あそこが弱点だろう。何故か鑑定に反応しなかったのは謎だ。
「その状態じゃ、回避はできないだろ。飛ぶって言ってもこの場所では回避には繋がらない」
――疾走&急所突
パキッ
見事宝石を貫いた短剣。
ヒビが伝染し半分に割れた。動力源(だと思われる)を破壊された魔物は色を失い、その場から動かなくなる。
……消滅しない?
「ただの魔物ってわけじゃないのか」
「本体はあの宝石擬じゃろう。この身体はあれが動かしていたに過ぎぬ」
「変な魔物もいるんだな」
人類はかなり長いことダンジョンと共に過ごしているが、未だ魔物についてはまだまだ知らないことばかり。
もはや俺にとっては"倒すべき相手"という括りだけには収まらない。従魔を作ってしまった以上は、魔物についてもっと知る権利と責任がある。
「……全員皆殺しとかの方が、分かりやすくていいんだけどな」
「な、何を考えておるのじゃ?!こ、怖いぞお主……」
さて、適当にしばらく待ったが動く気配なし。
本当にこの身体は亡骸だった……と。
ゲートは開いたままだが、中から出てきたのはこいつ一体だけ。監視は続けるとして……、そろそろギルドの人が到着してもいい頃なんだけど。
「赤崎さんに連絡してみよう」
道中で何かあったか、アウトブレイクの反応に気がついていないか。どちらの可能性もゼロではないけど前者の可能性が高いと推測する。
魔力測定器が壊れていたとしても、一般市民からの通報が一件もこないなんてことは状況的に考えておかしい。
「"九十九か?!"」
「はい。赤崎さん、何があったんです?」
「"何が……ということは、そっちも何かあったんだな。もしや、デパートにいるのか!!"」
「その通りです」
少し慌ただしく息の上がった声。
背後でザワザワと騒がしい音。
「そっちは何が?」
「"同時に複数のアウトブレイクだ!!前代未聞の発生でギルド内部も大騒ぎしてる。俺も今ゲート前で市民の避難誘導中なんだが、こっちは対応でギリギリな状態だ"」
「ってことは、このゲートは入ってもいい……と」
「"ははは、ギルドが到着してないってことはそういう事だな。むしろ、こっちからお願いしたい"」
赤崎さんがそう言うならば遠慮なく入らせてもらう。ギルドの方もだいぶギリギリみたいだし。
面倒な報連相は赤崎さんに押し付けてしまうけど、それも含めて了承ってことで。
「早めに片付け次第、そっちに向かいますね」
「"おう、余裕だな。心強いぜ。遥輝さんにはこっちから伝えておく"」
「助かります!」
こちらから頼む前に引き受けてくれる。さすがは赤崎さん。手馴れていらっしゃる。
通話を切り、念の為デパート入口を確認。
来てないな。
……よし、さっさとクリアして出てこよう。
「なんじゃ、もう行くのか?」
「こんな場所に放置はできないだろ。それに、ギルドの人と合流してややこしいことになる前にクリアした方がいい」
「お主は本当に面倒事が嫌いじゃな」
出会って数日のハクに呆れられるとは。
俺、そんなに面倒なオーラ出てる?
「しかし気をつけよ。このゲート何か嫌な予感がする」
「分かってる。前回同様強い魔力だ」
「そういうことでは無い。何かこう……、この先に」
「はいはい。警告はありがたいけどダンジョンにはもう何度も潜ってるんだ。魔物の奇襲くらいは防げる」
俺だって一級になったんだ。
レベル差や実力差以外にも警戒するべきことは 理解している。前回も待ち伏せがあったし。
「……ま、用心しておくに越したことはないか。――賢能」
『セーブポイントを作成します』
イベントに入る前にこまめなセーブ。
これ、RPGの鉄則。
「…………何をしておるのじゃ?」
「ん、こっちの話。準備できたし、さっさと入ろう」
俺はクリアした後のことを考えながら、意気揚々とゲート内部へ足を踏み入れた。
踏み入れ、いつもの不思議な感覚に襲われ…………
――ピッ
何かが作動する音。
全身への激痛と共に、俺の視界は真っ暗になった。
正直な話、最近の俺は強くなって奢っていた部分があったのは認める。ダンジョンに入る前の準備にできることは少ないが、もう少しハクの警告に耳を貸すべきだった。
この余裕が、命取りになると。
そしてまさか、
――このセーブがその命を繋ぎ止めることになるとは、俺には予想出来なかった。
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