第11話 協調と挑発


「それでは~、まずテーブル中央をご覧くださ~い」

 僕と沖美おきみさん含め、三人共会議室へ入室し、座席に着く。テーブル上に画面データが表示されていた。


「ちょっと待ったぁ! なんで沖美おきみさんもここにいるの?」

 彼女は僕を氷見ひやみさんの元へ連れていくという任を終えているし、つかさちゃんとは無関係の人間だ。

 ナチュラルにこの部屋まで一緒に来たため、違和感を覚えなかった。しかし、よくよく考えれば彼女がここにいる理由はないはずだった。


「そういえば、言ってなかったわね。当分の間はあなたと行動を共にしろっていう2ndセカンドからの指示よ。お客様が被害にわないように、とのことだそうよ」

「良く言えば用心棒ってこと?」

「悪く言えば監視役ってことよ」

「それはどうも」

 彼女とのやり取りの通り、何かしら僕が不用意な行動に出ないようにするための見張り役ということだろう。信用されていないのか、そもそも抜かりないよう徹底しているのかは知らないが、いずれにせよやりづらいことは確かだ。


氷見ひやみさん、Good Job!)

 ただ、それを差し引いても彼の見事な采配さいはいに密かに感謝した。好きな人とまた一緒に行動できるなんて幸せ過ぎる!


「あ、ミリエラさん、話に水を差してしまってすみません。説明をお願いできますか?」

「構わないですよ~。結論から申し上げますと~、人吉ひとよし つかさ様は誘拐ゆうかいされておりま~す」

 あまり的中してほしくなかった予想ではあるが、そうなってしまっては仕方ない。それよりも問題が起きた後にどう対処するか、それが大切だ。


「データ見るかぎり、誘拐犯が誰か分かっているみたいですね」

「はい~。服装のエンブレムから~、正体はクラン『咆哮する熊ロアー・ベアー』の一味だと思われま~す」

「『咆哮する熊ロアー・ベアー』……、彼らはどういったクランなんですか?」

「クラン自体はそこまで大規模なわけではないですね~。ただ~、『武力第一、金銭第二、安全第三』と少~し過激なスローガンをかかげているので~、あんまりお近づきにはなりたくないクランですね~」

「えっと、それ具体的にどういう内容なんですか?」

 スローガンの意味はなんとなく分かりそうではあるものの、曖昧なまま放っておくのはモヤモヤするため、率直に聞いてみた。



「要するにですね~、常に強い人を募集していて~、報酬次第でどんな依頼でも受け付ける集団ってことですよ~。それこそ~、今回のような犯罪行為であってもですね~」

「依頼? ……ということは、つかさちゃんを連れ去るよう指示した黒幕がいるってことですよね、それは一体誰が?」

「申し訳ありませんが~、それまでは分かりかねます~」

 実行犯とは別に首謀者しゅぼうしゃがいるとなると、情勢がより複雑になってしまう。これは事件解決には時間がかかりそうだ。

 それにしても誰がそんなことをするのか。正直心当たりが全くない。


「何故、つかさちゃんが誘拐されなければいけなかったんですか? 何か目的でもあるのですか?」

「それも~、鋭意えいい調査中です~。他にも連れ去られた方々がいらっしゃいまして~、少なくとも年齢・性別・職業等で共通点が見られませんでした~。

 ただ~、どなたも一人になる時間帯を事前に把握していたようでして~、計画的犯行からなんらかの目的があるのではと推測しておりま~す」


 ふむ。目的も不明ときたか。それなら『咆哮する熊ロアー・ベアー』の一味から聞き出すくらいしか方法はなさそうだ。


「奴らの拠点はどこにありますか?」

「画面切り替えますので~、少々お待ちくださ~い」

 ミリエラさんがそういって数秒後、マップデータが現れた。地図には赤いお城のマークと複数の白いお城のマークが表示されていた。


「複数拠点を所持しているみたいですが~、犯行現場からの距離を考えるに~、最寄りの拠点にひそんでいると考えてま~す」

 赤いお城が『白梟ホワイトアウル』の拠点を、白いお城が向こうの拠点を示しているようだ。最寄りの拠点はここから東に十数キロメートルくらいしか離れておらず、移動に手間はかからなさそうだ。


「なるほど。では、僕はこの拠点に向かい、つかさちゃん達の居場所を聞き出せばいいわけですね」

安久谷あくや すい様の~、その心意気こころいきは素晴らしいですが~、すぐさま行動に移すのはおすすめいたしかねま~す」

「といいますと?」

「質問に質問を返して申し訳ありませんが~、安久谷あくや すい様はどのようにして聞き出すおつもりですか~? まさかとは思いますが~、敵地に無策むさくで飛び込むおつもりですか~?」

「いやいや。そんなゴリゴリの脳筋のうきん状態で挑むわけないじゃないですか」

 確かに緊急を要する事態ではあるものの、相手の戦力が不明な以上、下手に動けばより状況が悪化してしまうだろう。正面突破は手っ取り早くてシンプルな方法ではあるが、目的を達成するための手段としては不適切と言わざるを得ない。


「それならばいいのですが~、どうなさるおつもりですか~?」

「これから策を練り上げようと思いますが、少なくとも敵対すべき相手は二つの条件を満たす必要がありますね」

 僕は手をグーにして、顔と同じくらいの高さに上げる。


「一つは当然依頼主の素性すじょうを知っていること、もう一つは生け捕り出来るくらいの戦力差であることですね」

 指を立てながら、その条件を説明する。


「一つ目の条件を考えると~、クランマスターや幹部クラスと考えるのが妥当ですね~。わざわざ下っ端に教えるメリットも無いでしょうし~。

 そして~、残念ながら今の安久谷あくや すい様では~、その人々にまず勝てないですね~」

「な……!」


 あまりに明け透けな発言で、思わず固まってしまった。ゆるふわな雰囲気をかもし出しているミリエラさんだが、もしかすると結構ハッキリ言うタイプかもしれない。

 出来るだけショックを表に出さないよう注意しつつ、尋ねる。

 

「……ちなみにその理由はなんですか?」

「純粋に~、戦闘能力の差ですね~。今の安久谷あくや すい様では~、向こうの幹部クラスだと~、一対一で良くて相討あいうちってところでしょう~」

「でも、ほら、勝負って実際にやってみないと分からないものじゃないですか? 良くて相討あいうちなら、戦術次第でくつがえることもあると思うんですよねー」

 お前は弱いという宣言をそのまま受け止めることは出来なかったので、一般論を用いていなを唱えた。


「それでは~、お試しになりますか~?」

「……はい?」

「実際に手合せいたしましょうか~? その方がすぐにご納得されると思いますよ~」


(手合せ……、つまり戦うってこと? ミリエラさんと? どうしてそうなった!?)

 まさかそのような展開になるとは予想してなかった。自分の発言が招いた結果とはいえ、少し眩暈めまいがした。

 

「敵と接触する前に、味方同士で消耗し合うのはナンセンスだと思うんですが?」

「ご安心くださ~い。そんな時間も力も使うことでもないですし~、むしろ~、これは必要事項だとお考えいただければ~と存じます~。

 まさかとは申しますが~、ここにきて女性一人相手に出来ませんなんて腑抜ふぬけたことはおっしゃりませんよね~?」

「なんだと! やってやろうじゃねぇか!」


安久谷あくや君って、レスバ弱そうよね」

 沖美おきみさんが何からしていたようだが、聞こえないフリをした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る