第7話 お前の身体は俺のモンだ

「! ニペス・イキリネン……!」


 俺たちの前に現れたのは、エステル騎士団長と同じく四天王と呼ばれる騎士団長の一人――。


 『第0721部隊・スタリオン』を率いる英傑ニペス・イキリネン。


 彼も剣術の達人と名高く、最近ではエステル騎士団長よりも強いなどと専らの噂。


 なんだかエステル騎士団長同様なんとも名前はアレな感じなのだが、これでも強い人なのだ。一応。


 しかし同様に――その性格は、非常に横柄で傲慢なことでも有名だ。


 彼は聖騎士団の元老院に席を持つ大貴族の息子。


 そんな立場であるのをいいことに、聖騎士団の中でも好き勝手やっているためかなり評判が悪い。


「クックック、〝聖騎士団武闘会〟に向けての特訓か? 精が出るな」


「……あなたには関係ないでしょう。なんの用ですか」


「随分と冷たいじゃあないか? 未来の旦那様に向かって」


「――っ!?」


 ニペスが……エステル騎士団長の……!?


 そんなのは聞いたことがない。


 俺は驚いて彼女の顔を見やると、


「……何度も言っている通り、私はあなたの妃になどなるつもりはありません。誤解を生む言い方は謹んでください」


「イヤだね。お前のその極上の身体……絶対俺様のモノにするって決めてんだからよ」


 ねっとりとした目でエステル騎士団長のおっぱいを見つめるニペス。


 もはや視線を隠す気もないらしい。


 ホントどの世界にもいるよな、こういうヤンキーみたいな奴。


 まあ……正直、同じ男として気持ちはよくわかる。


 だってそこにおっぱいがあったら、絶対見ちゃうもん。男は。


 なんならそこまでエステル騎士団長のおっぱいを堂々と見られるのは、ちょっと羨ましいとすら思うよ……。


 だが、俺はコイツみたいに下品にはなれない。


 共感よりも先に嫌悪感が来る。


 そんな彼の視線にエステル騎士団長は寒気を覚えたのか、バッと自らのおっぱいを隠す。


「っ! いやらしい目で私を見ないで!」


 剣の切っ先をニペスへと向けるエステル騎士団長。


 しかしニペスは余裕のある笑みを崩さず、


「やめとけ。どうせお前じゃ俺には勝てねぇんだからよ」


「っ……!」


「知ってるんだぜ? 年々実力が落ちてきてるのは。そりゃそんな重いモンぶら下げてたら、剣が降りづらくってしょうがねぇよなぁ?」


 ニペスはエステル騎士団長の剣を全く恐れることなく、彼女へ歩み寄ってくる。


「それとな、口の利き方には気をつけるこった。お前は俺の女になる前に、俺の部下になる予定なんだからよぉ」


「……? そ、それはどういう……?」


「前々から、女だけの部隊なんて効率が悪いって意見は出てたよなぁ? だから俺様が直々に元老院に話をつけてきてよ、今度の〝聖騎士団武闘会〟の結果次第じゃ、第081部隊は俺様の第0721部隊の傘下に入ることに決まったんだよ」


「――っ!? な、なんですって!?」


 驚きを隠せないエステル騎士団長。


 『第0721部隊・スタリオン』は精強で知られる部隊だが、そこに所属する騎士たちはニペス同様に破廉恥な荒くれ者が多いと聞く。


 もしそんな部隊に第081部隊の女騎士たちが編入されれば、どんな目に合うか……。

 

「勿論〝聖騎士団武闘会〟には俺様も出るが……結果はわかり切ってるなぁ。ま、お前の態度によっちゃ、編入の話はなかったことにもできると思うけど……?」


「……っ」


 ニペスの言っていることはつまり、部下を巻き添えにしたくなきゃ俺のモノになれ――そういうことだ。


 あまりにも不条理な言い草に、エステル騎士団長はギリッと剣を握る。


 ついでにポヨンっとおっぱいが揺れる。


 ――素晴らしい。


 これこそ神が創造せしめた至高の芸術。


 このおっぱいを、こんなクソ野郎の好き勝手にさせてはならない。


 そんなエステル騎士団長のおっぱいを見て――俺は心を決めた。


「待ってください」


「あん? なんだお前?」


「今の言い方……〝聖騎士団武闘会〟の結果次第・・・・ってことは、まだ編入が確定したワケじゃないってことですよね?」


「……あぁ? だったらなん――」


「勝ちますよ、エステル騎士団長は」


「え……?」


 エステル騎士団長は驚いた顔で俺を見る。


 俺は真っ直ぐにニペスを見つめ、


「エステル騎士団長は、あなたに勝ちます。彼女も、第081部隊の皆も、あなたの思い通りにはなりません」


「な……な……なんだとぉ、このガキァッ!」


 ニペスは完全にプッツンして、拳を振り上げる。


 しかし、


「ニペス騎士団長!」


 エステル騎士団長の一声によって、ピタッと動きを止めた。


「……私情で他部隊の団員に手を上げるのは、固く禁じられています。もし彼に拳を加えるのでしたら、私もそれ相応の処置を取らせて頂きますが……よろしいですか?」


「む……ぐ……っ」


 ニペスは傲慢であるが、騎士団のルール自体はよくわかっている。


 それになにより、さっきまでとは打って変わって力強い眼力を宿したエステル騎士団長に少し臆した様子でもあった。


「ク、クソッタレが! 勝つのは俺様に決まってんだよ! 精々赤っ恥かかせたら、気の済むまで犯してやるから覚悟しとくんだなぁ!」


 そう言い捨てて帰っていくニペス。


 うわー、すげー。


 ああいう捨て台詞言う奴って本当にいるんだー。


 初めて見たわー。


 俺はそんなことを思っていたが、


「……ありがとうございます、レンくん」


 エステル騎士団長が背を向けたまま、俺に言った。


「え――?」


「あなたのお陰で勇気が出ました。もう負ける気がしません。一緒に……ニペスを倒しましょう」


「! はい!」


 一緒に、か――。


 エステル騎士団長が剣を振るい、俺が彼女のおっぱいを支える。


 まさに二人三脚、一蓮托生。


 彼女は、俺を相棒として認めてくれたんだな。


 俺は――彼女の〔おっぱいを支える係〕になれたことを誇りに思うよ。


 おっぱい星人明利に尽きるとはこのことだ。


 とても爽やかな気持ちでエステル騎士団長の言葉を受け止める俺。


 すると、


「邪魔が入ってしまいましたね。剣術の練習はまた明日にしましょう。今日は身体を休めてください」


 そう言い残し、エステル騎士団長はスタスタと去って行ってしまった。




 *****************




 ――急ぎ足でレンの下から去ったエステル。


 彼女は――――とてもレンには見せられないほど、顔を真っ赤に染めていた。


「はうぅ……レンくん、カッコよかったよぉ……!」


 彼は一切の疑いなく、私が勝つと言い切ってくれた。


 あんなの心から信頼してくれていなければ、絶対に出てこない。


 それに騎士として立場も格も違うニペスに、私のために公然と立ち向かってくれた……。


 嬉しい……とっても嬉しい……!


 ――この時、エステルのレンに対する好感度メーターは完全に振り切る。



「どうしよう……私、レンくんのこと本気で好きになっちゃった……!」


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