鬼だった時の双子の姉をさがしています。甘く華やかな藤の香りを身にまとう、白銀色の髪の男性も気になります。
第四十一話 伊織さんが好きだ。姉さまだけど。トラとひまわりとヒスイ君。黒地に白い小花柄ワンピース姿の桃葉ちゃんに前世のことを謝り、抱きしめる。
桃葉ちゃんの家。トラとひまわりとヒスイ君と、桃葉ちゃんと空斗君とリッカ。薫子さまと桜さんと初音さん。和菓子屋さんで、金平糖を。
第四十一話 伊織さんが好きだ。姉さまだけど。トラとひまわりとヒスイ君。黒地に白い小花柄ワンピース姿の桃葉ちゃんに前世のことを謝り、抱きしめる。
夢が終わり、目を閉じたままで、姉さまの生まれ変わり――
伊織さんと初めて出会った時、違うと叫ぶあたしがいた。
あれは、心の奥で――魂では気づいていて。
だけど、大好きな姉さまが男になっているとは認めたくなくて。
あの髪色は、
そんなことは知りたくなくて、姉さまじゃないって思いたかったんだ。
魂が反応していたとしても、心の中にいた前世のあたしは、別の相手だと思いたかったんだ。
姉だとは認めたくなかったけれど、出会ってしまえば、彼のことが気になって、よく見つめてしまってた。
そうしたら目が合って、ドキドキして。
何度も目が合い、会釈を交わしていたら、胸がじわりと温かくなるというか、冬、お風呂に入った時のような気持ちになった。
初めて彼の香りを近くで
だけど、彼のことが気になって……。
何度か、彼と会っている間に、その香りに慣れたのか、嫌だと思わなくなって……。
――ああ、今、気づいた。
彼が好きだ。姉さまだけど、好きなんだ。
伊織という名前で生まれた彼とは、ちゃんと話したことはない。
だけど。
あたしは彼に惹かれてた。それは彼が姉さまだったからなのだけど、それでも好きだ。
温かい、涙が流れるのを肌で感じた。
「
「泣いてるニャ」
と、声がする。
桃葉ちゃんと、リッカの声?
あたしは目を開け、まばたきしたあと、腕を動かし、涙をふく。
「あれ? ここどこ?」
天井が違う。匂いも違う。嫌な匂いではないけれど。
ドキドキしながら身体を起こすと、ハムスターのあやかし――ひまわりが、桃色の首輪をつけた茶トラ猫に乗っているのが見えて、おどろいた。
このトラ猫は、トラだよね? うん、トラだ。
トラのとなりには、
「キュキュキュッ!」
「ひまわりもおはよう。えっと、トラもおはよう」
「ニャー」
「みんな、
ヒスイ君に言われて、あたしは「心配?」と首をかしげる。
なにが心配だったのだろう?
トラがのそりとあたしに近づく。すると、ひまわりがあたしの身体に移動した。
ひまわりはうれしそうな声で、「キュキュキュッ!」と鳴きながら、あたしの頭に移動したのだけど……。
あたしはあれ? って、首をかしげた。
「浴衣? こんなの、着てたっけ?」
「寝巻き用の浴衣、借りてきた」
桃葉ちゃんの声がしたので、そちらを向く。
そこには、黒地に白い小花柄のワンピース姿の桃葉ちゃんがいた。いつもと同じ、珊瑚のピアスと、金色のハートモチーフのネックレス。
「和服屋さんで?」
たずねると、桃葉ちゃんがうなずいた。
「うん。電話で、琴乃ちゃんが倒れたから、本人が浴衣を返しに行くのが遅くなるって話したら、本人じゃなくてもいいって言ってくれたの。それと、寝間着用の浴衣があるって教えてくれて。無料で貸してくれるって言うから、
「……倒れた? あっ! あたしっ、花火大会に行ったんだよねっ! それでっ、赤髪の男の人がきて、嫌だなと思ってたら、伊織さんがきたんだっけ? なんか、なぐり合ってたよねっ! それでっ、伊織さんがあたしのことを
「……思い出したの?」
おどろきの表情を浮かべる桃葉ちゃんに、あたしは「うん、前世の夢を見たんだ。それで、思い出したの」と答える。
すると、桃葉ちゃんが「そう」とつぶやき、うつむいた。
あたしは緊張しながら手を伸ばし、桃葉ちゃんのふわふわな桃色髪を触った。
パッと、彼女が顔を上げたので、あたしは一度手を離し、またやわらかな髪の毛に触る。
ポロポロと涙を流す桃葉ちゃんに、「ごめんね」と謝ったあと、話を続けた。
「あのね、昔、って、前世なんだけど。あたしは自分はダメだと思ってて、自分に自信がなくて、弱い鬼だからなにもできないって思い込んでて、完璧に見えた双子の姉に執着してて、依存もしてたんだ。姉がそばにいた時も、里から出て行ってしまったあとも。ずっと、悲劇のヒロインで、親になっても、おばあちゃんになっても変わらなくて。ごめんね。さびしかったよね」
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん!!」
桃葉ちゃんが泣きながら抱きついてきたので、彼女が泣きやむまで、やさしく抱きしめながら、頭をなでてあげた。
彼女は泣きやんだあと、あたしから少し離れて、うつむいた。
「母さまは悪くないの。わたしが母さまをしあわせにしてあげたくて、立派な息子になろうとがんばったけど、わたしには無理だった。大人になっても甘えん坊で泣き虫で、母さまを笑顔にすることができなくて……。生まれ変わっても、変わらない」
「いいんだよ。柚晴は柚晴で、大人になろうとがんばってたの、知ってるし。桃葉ちゃんは桃葉ちゃんで……がんばってると思うし。がんばってても、がんばらなくても、桃葉ちゃんは桃葉ちゃんだから、桃葉ちゃんは桃葉ちゃんでいいんだと思う。きっと、成長しているって思うんだ。自分はダメだなって思う時はあるけど、生まれたことも、生きていることも、出会ったことも、すごいことだと思うというか……。えっと、未熟なあたしだけど、大好きだよ。また、出会ってくれてありがとう」
素直な気持ちを伝えると、桃葉ちゃんがまた泣いた。
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