12話 異能力の謎

 どんな生命も、残酷な一面を持っている。特に、人間は生命の中でも醜悪だとされてきた。

 それは神々の間でも言われてきたこと。私は、そんな確固たる証拠もない話を信じたりしなかった。むしろ、神の方が醜悪に満ちているとさえ思った。

 目の前にいる彼らの言葉を聞いた時……不覚にも、人間の醜悪の存在を信じてしまった。


「……その父親って、どういう人なの?」

「この辺りでは優秀な科学者よ。アルフィアって街と隣国の間では、そこそこ名が通ってて────」

「科学!? 今、科学って言ったよね!?」


 急にソルが身を乗り出すようにして食いついてきた。

 ここまですっごい冷めてたのに、温度差がすごすぎるんですけどー!?


「あら。アナタ、科学に興味があるの?」

「昔から気になってるよ、知っておいて損はないでしょ!? この機会にこの世界の科学をじっくりと────」

「あー、ソル!! 今は別の話をしてるんだよ、そこら辺にしとけー!!」


 サクに詰め寄るソルの肩を掴み、元の位置に引き戻そうとするシオン。

 あー、また始まった。ソルは普段冷めているけど、興味のある話題やものを見つけると人が変わったように食いつく。

 そのたびシオンが止めているから、あいつも意外と苦労人なのかもしれない……バカだけど。


「……サク。続きを話してくれないか」

「そうね。ティルくんとアンナちゃんの父親……シュレイドは、異能力開発を専門とする科学者なの。昔から研究をし続けているみたい」

「異能力って……さっき、ヴァーサーが使ってたあれ?」

「ええ。シュレイドは、ヴァーサーの力『人体加速アクセラレートモード』、アタシの力を『空間破壊ディストラクター』と呼んでいたわ」


 見た限り、異能力というのは私たちの言う「魔法」と大して変わりないようだ。

 人間の世界では魔法の呼び方も違うこともあるのか。勉強になった。


「異能力なんて呼ばれてるけど、実際は魔物であるアタシたちの力そのものよ。本来はアタシたちしか使えない力なんだけど、一体化しているティルくんとアンナちゃんなら同じように扱うことができる」

「つまり、シュレイドは異能力の開発に、自分の子供とあんたたちを使ったってこと?」

「そうなるわね」


 予想よりもとんでもない奴だった。聞いているだけで怒りが湧いてくる。

 あまりにも非人道的すぎる。本当に子供を愛しているなら、実験体になんてしないはずだ。

 そんな人間が存在しているだなんて思いたくなかったけど、受け止めざるを得ないだろう。


「本来、人間にとって魔物の力は異物となんら変わりないの。だからこの兄妹は相当危険な状態にある。身体に常時負荷がかかってるし、内蔵なんてズタズタでしょうよ」

「っ!? 嘘……」

「それなのに生きてるってこと? んん、興味深いな……」

「おい、興味向けるとこそっちじゃねーだろ」


 ソルは未だに異能力関連に興味津々らしいけど、そんなことはどうでもよかった。


「どの道、このままだと二人は死ぬ。オレたちを二人から切り離したりしたところで、生きていられるかはわからねぇ」

「っ! そんな……」

「だから、これはアナタたちにとっての気休めみたいなものなのよ。アタシたちを切り離せば、二人ごと殺すことにはならないってだけ」


 ……気休め。悪く言ってしまえば、私のエゴになるのだろう。

 私たちは神だ。だけど、彼らを本当の意味で救うほどの力は、きっとない。


(……私たち、全然神様らしくないじゃん)


 むしろ、人間の方が近いとさえ思えた。

 けれど……だからこそ、私たちはこの世界に来ても、真っ向から拒絶されずに済んだのだろう。


「……それでもいいよ。やれるところまでやる」


 やるしかないのだ。私たちには、それだけの力しかないのだから。


「ん~、オッケー。面白くなってきたし、アタシ協力しちゃうわ」

「っ、サク姉! オレは反対だぞ!? 今更希望を見せたところで、結局は────」

「あーもう、アンタは悲観的すぎんのよヴァーサー! 数年間とはいえお世話になったんだし、お礼も兼ねて何かしましょうよ! どうせ死ぬんだし!」

「テメェも微妙にネガティブじゃねーかっ!!」


 喧嘩している姉弟に指さしてツッコミをかますシオン。なんだかんだ馴染んでない……?

 何はともあれ、これでやるべきことは固まった。

 私たちはティルとアンナちゃんからヴァーサーとサクを切り離し、姉弟を倒す。そのために、ティルたちの父親──シュレイドに会いに行く。

 どうしてティルたちを実験台にしたのかはわからない。その辺りも判明させたいところだ。


「さて。行き場に困っていたみたいだし、今日はここで休んでいいわよ。街には戻れないから」

「えー、マジかよ……」

「文句言うな、シオン。下手に戻って面倒事に巻き込まれるよりはマシだろう」

「これも既に面倒事な気はするけどね」

「サク姉、本気かよ……」

「安心なさい。もうアタシはアナタたちに手出しするつもりはないから。ゆっくりおやすみ」


 どうやら、この隠れ家で寝泊まりさせてもらえるらしい。

 こんな荒れ果てた家に寝泊まりするのは嫌だ……けれど、贅沢は言っていられない。お金がないんだから。

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