第111話 どうしようもなく、好きみたいだ
この魔術を初めて覚えたのは俺がまだ六歳の頃だったっけ?
この魔術では威力を制御しきれずに爆発させてしまい庭に大穴を開けて母親に説教をされたっけ?
この魔術に至っては余りにも威力が高すぎる為なかなか行使できる機会に恵まれずにやきもきしていたっけ?
そしてどの魔術も全力で行使してしまうとあまりにも危険すぎる為に、今こうして全力で魔術を行使できる環境で、思う存分に魔術を行使できるというのは、幸せだと言えよう。
あぁ、これほど幸せだと思えた事がこの世界に来てあっただろうか?
俺の力を、俺の全力を、本気の魔術を行使できる事がこれほどまでに嬉しい事とは思いもよらなかった。
「ご主人様? 泣いているのですか?」
「…………泣いている? 俺が?」
そして気が付いたらリーシャが俺の側まで来ていたようなのだが、側に来るや俺が泣いていると言うではないか。
確かに、感情が高ぶっていた事は認めるのだが、流石に泣いている訳が無いだろう。
そう思ったのだが、意識してみると確かに俺は泣いているようである。
それが何の涙なのか、どうして泣いているのか、一瞬理解できなかったのだが、それも一瞬の事で次の瞬間には俺はその涙の理由がなんとなく分かってしまう。
俺はこの世界にきて青春も捨て趣味も持たず、ただただ最強の魔術師を目指し頑張って来たと思っていたのだが、どうやらそれは間違いであったようである。
むしろこんな自由に思う存分に魔術を行使できる環境に身を置かなければ分からないとは、俺も大概鈍感であると言わざるを得ない。
これでは弟子の二人やリーシャにサーシャから鈍感だの唐変木だの何だのと言われても仕方がないなと納得してしまう。
「リーシャ……」
「はい、ご主人様」
「おれ、魔術が好きだ。 それこそ高等部最後の試合で負けたとか、本物の天才には勝てないとか、自分は結局凡人だとか、そんな事など関係なく、俺は魔術が好きだ。 どうしようもなく、好きみたいだ」
「……やっと気づきましたか。 そしてその事に気付かせてくれたが私ではなくオリヴィアと言うのは少しだけ癪ではあるのですが、私はまたご主人様が魔術を行使して縦横無尽に駆け回る姿を見れると思うと、もうそれだけで感無量でございます……っ。 それでこそ私の愛しいご主人様です……っ」
そしてリーシャはその事に既に気付いていたらしく、気付いていなかったのは自分であるという間抜け具合である。
結局青春も趣味も何もかも捨てたと思っていたあの、魔術に注いだ日々が俺にとって青春であり、魔術が俺の趣味であったという事である。
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