第88話 溢した言葉を聞き逃さなかった
◆
今回のスタンピードは何かがおかしい。
そう思い始めた時にはすべてが遅かった。
何故もう少し早く今回のスタンピードが普通ではないと気づけなかったのか。
もし気付けたのならばもうすこし何らかの対策はできた筈である。
そんなタラレバを考えながら俺は目の前の魔獣を倒す。
「お師匠様っ!! お戻りくださいましっ!! もう数日間も寝ずに戦いっぱなしですわっ!! このままではスタンピードが終わるよりもご主人様の方が先に潰れてしまいますわっ!!」
そしてそんな俺に後衛に下がるように言ってくる、弟子であるシャルロット・ヴィ・ランゲージなのだが、そういう彼女はここへきて八時間ほどなのだが、その彼女の方が俺からすれば限界に近付いているように見える。
「何を言っている。 お前の方こそ限界が近づいているではないか。 そもそもここ前衛へは宮廷魔術師しか来てはならないはずだが?」
そして、なんでこの女はここまでして、それこそ死と隣り合わせである前衛、それも最前線まで来ているのか理解ができない。
確かに偶に討伐ランクが高ランクであったり、希少種だったりと学生には倒すのが難しい魔獣も出現しているとはいえ、そのほとんどが雑魚と言っても差し支えない魔獣どもであったとしてもこの物量の前では脅威でしかない。
この俺ですら苦戦しているのだからまだ学生である彼女からすれば常に全力で相手をしないと数の暴力に押し潰されてしまうであろうし、何よりも初めて死が隣り合わせという環境で戦うのは、それだけで精神力がガリガリと削られてしまうであろう。
その事は彼女の表情を見ればすぐに分かる。
「だからお前が先に後衛に戻っておけ。 俺はここでもう少しだけ魔獣たちを押さえておく」
なので俺は彼女に帰れと言う。
そして、サーシャの『レンブラントが居たらとっくに終わっているだろうに……』とぽろっと溢した言葉を聞き逃さなかった。
まるで、俺ではこのスタンピードを止められないけれどもレンブラントであったら止められたのにと言われているようで、余計にここで引くわけにはいかない。
そう思った時、遠くの方から腹の芯まで響くような複数の、地響きかと錯覚するような雄たけびが聞こえてくるではないか。
周囲の魔獣を蹴散らしつつ雄たけびの方向へ目線をやると、小型ではあるものの竜種が二匹こちらへ飛んできている姿が見えて来る。
地竜でもなくワイバーン種でもドレイク種でもなく、れっきとした竜種である。
本物の竜ともなればいくら小型と言えども運が良ければ俺一人でどうにか一匹倒すことが出来るかどうかというレベルの強さである。
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