第59話 幸せな生活をしたいだけ、

 いやもうヴィクトリアの最後の言葉でもう既に俺はこの手紙を読む気が失せたのだが、読まないといけないのあろうか? さすがに相手は国王陛下ともなれば読まないというわけにはいかないだろうし、ヴィクトリアの言う通り『イエスかハイ』でしか選べないのであろう。


 だからこそ、読みたくないのである。


 なんだろうか? 間違えて燃やしましたって言うのはだめだろうか? さすがにそれを遣ったら反逆罪または不敬罪として打ち首獄門であろうか?


 はぁぁぁぁ…………っ。 いやだなぁ…………っ。


 俺はこの数学の教師とかいう、前世の知識が有るが故にくそ楽なうえにくそお給料も良い天国のような仕事をしながら愛しの奴隷様と子供なんか作っちゃったりして幸せな生活をしたいだけである。


 これはある意味で前世の知識を利用したチートスローライフ生活というやつではなかろうか? この世界の最強にはなれなかったけど、これはこれで良いものだ、と思い始めた矢先にこれである。


 なんだろうか。 大殺界に入ったのだろうか? まだそんな歳ではないのだけれども、この世界にはこの世界での大殺界があるのだろうか?


「読まないとダメ?」

「ダメですわっ!! 良いから早く読みなさいなっ!!」


 何だろう? ヴィクトリア王女様が早く読めと押してくれば押してくるほどこの手紙を読みたくなくなるんだけど?


「う、受け取り拒否しますっ!!」

「良いから早く読みなさいよっ!! 国王陛下からの手紙ってだけでかなり名誉ある事なんですのよっ!! もうお師匠様に合わせてたら明日になってしまいますわっ!! 放課後から下校時間までという短い時間しかお師匠様から指導していただける時間は無いですのにっ!! もうどうせ開けて読んむんだから私が開けて読んであげますわっ!!」


 そして俺がヴィクトリア王女様から受け取った手紙を突き返そうとしたその時、横からレヴィアが手を伸ばして俺の持つ手紙をふんだくり、俺が声をかけるよりも早く手紙の封をしているシーリングスタンプを剥がして中身を取り出すではないか。


 シーリングスタンプを剝がされては、たとえ封を開けたのが俺じゃなくとも『手紙を読んでいません』という言い訳ができないではないか。


 ここはもう腹を決めて読むしかないと、俺はレヴィアから手紙を奪うと恐る恐るといった感じで読み進める。


 するとその手紙には、要約すると『娘であるヴィクトリアの師匠となって魔術を教えてくれ』と書かれているではないか。


 え? 普通に断りたいんだけど。


 レヴィアに加えてヴィクトリア王女様までとなるとさすがに俺の体力が持たない。

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