第40話 恋に恥じらう乙女
◆
俺の愛しい怠惰の日々はどこに行ったのであろうか?
怠惰さんが家出してから早三ヶ月が経った。
いつでも帰ってきても大丈夫な様に俺の部屋と化した教室はあの日と変わらず灰皿や新聞、小説や雑誌等は能率的かつ効率的な配置のままである。
しかしながら、五つある灰皿のうちこの三ヶ月で余り使わなくなった灰皿には埃が被り始め、逆に埃だらけだった俺の魔杖には埃も無くメンテナンスが行き届きピカピカである。
そしてここ最近もう一つ、あの日から変わった事が出来たのだが、それがまた怠惰さんとはかなりかけ離れたモノで俺は頭を悩ます新たな種でもあった。
「で、なんでお前が今日もここに居るんだよ? あれから? 宮廷魔術師様は俺と違って暇ですアピールなのか? 喧嘩売ってるのならば買うが?」
「え? 別に良いじゃ無い。減るもんじゃ無いし、アンタいつも暇でしょ? どうせ。だからそんな曇った日常に色を添えるべくこの私が自ら一輪の花としてこの部屋にいてあげてるのだからむしろ感謝して欲しいところねっ!」
そんな新たな悩みの種である、ここ最近毎日の様に俺の教室へと訪れ始めたサーシャに、怒りを抑えつつも不機嫌である感情を言葉で表して投げつけるのだが、当の本人であるサーシャはどこ吹く風である。
胸を張りながらそんな事を言われると流石にウザイと思っても仕方の無い事だろう。
「それに私、宮廷魔術師は辞めようかなって思ってるんだよね…………」
そしてサーシャは続けてそんな事を言うと、超絶イケメンかつ人となりも良く、更に性格も良い上に頭脳明晰である俺に惚れていた自分に気付いた為に俺からの優しい言葉で慰めて欲しいのか、はたまた宮廷魔術師になれなかった俺へ挑発しているのかチラチラと上目遣いで俺の方を窺って来る。
ま、普通に考えて後者であろうが俺だって偶にはそんな夢を見たって良いでは無いか。
でなければ俺の精神が持たないしやってられない。
「それまたどうして?」
「だって、そもそも私が宮廷魔術師を目指した理由は、その……あの……あのね………」
「何だよ? もじもじして気持ち悪いな。言うだけ言ってみろ。なんなら男性である俺に言いにくいとかいう理由であるのならばリーシャに言ってもいい。 案外口に出したら楽になるもんだぞ」
そして俺が、サーシャが宮廷魔術師を辞めたいという理由を聞いてみると、顔を赤らめて、まるで恋に恥じらう乙女の様にもじもじとし始めるでは無いか?
恐らく女性特有の悩みか何かであるのだろう。
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