第2話 青春だな。うん青春だ


 神童十五は才子二十歳を過ぎれば只の人とは良く言ったもんだと前世の言葉が突き刺さる。


 前世の記憶を使ったズルをしていた俺を天才は十八年で追い抜き、俺は只の人に成り下がる。


「わ、私は【絶色】のダグラスより【万色】のレンブラントの方が強いと思ってるから。実際あの試合はレンブラントの勝利だったじゃない」

「はいはい。ありがとなサーシャ」

「ま、またそうやってはぐらかすっ!」


 俺の心傷を察したのかサーシャは慰めようとしてくれるのだが、その気持ちだけ受け取りこの話は終わりとばかりにサーシャの頭を乱暴に撫で回す。


「そんな事より宮廷魔術師様はこんな所で油を売ってて良いのかね?」

「もー………いい事っ! アンタこそそんな所でいつまでも油売っていられると思わない事ねっ! 絶対アンタを宮廷魔術師にしてやるんだか」

「おー怖い怖い」


 あの当時の試合、女子の部門で輝ける一位となったサーシャ・グラン・ホーエンツォレルンもまた泣く子も黙る宮廷魔術師様である。


 その彼女を手でしっしと追い払うと「いー!」と宮廷魔術師らしからぬ仕草で部屋から出て行く。


 宮廷魔術師。


 昔の俺からすれば通過点に過ぎない職業であり、現在の俺からすれば雲の上の職業でもある。


「さてと、仕事しますかね」


 そういうと俺は煙草に火を付けゆっくりと椅子から起き上がるのであった。





 学園の講師と言えども暇では無いが、暇でもある。


 それは受け持つ学科の違いにもよるだろう。


 そして俺が受け持つ学科は数学を担当させてもらっている。


 前世ならばいざ知らずこの世界、数学なぞ週一回の授業があれば良い方である。


 しかも割り算掛け算をほんの少し応用したぐらいの中学一年レベルであるである為はっきり言って暇なのは間違いないがこれで給料は多い方なので天職とも言えよう。


 暇な時間は校舎の端にある使われてない教室で怠惰を貪るだけとなっており、その教室も今ではリフォームしまくってもはや俺専用の部屋と言えよう。


 特に灰皿が五つもある所が気にっている。


 どこで吸おうと手の届く所に灰皿がある配置に我ながら天才と言わざるをえない。


 そんな事を思いながら煙草の煙をくゆらしながら外を眺めていると見知らぬ学生がやたらと多い事に気がつく。


「もう入学式の季節か。青春だな。うん青春だ」


 初々しく輝く彼等彼女等を見てしみじみそう思う。


 青春なぞ前世こそ経験したが今世では魔術に没頭してそれどころでは無かった。


 言い換えれば魔術こそが今世の青春だったのであろう。


「おっ」


 その浮き足立つ人混みの中でも分かる、分かってしまうほど他と圧倒した美少女を見つけて思わず声を出してしまった。

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