第28幕 エピローグ
病室には笑い声が溢れていた。サラがレイラを冷やかしているがレイラはまんざらでもなさそうに声を上げて笑っていた。そんなレイラをデイビッド王子が嬉しそうに見つめていた。先日病室を訪れた時に比べるとデイビッド王子の顔には血色が戻り、病衣の胸元から覗く銃槍の包帯こそ痛々しいいが、順調に回復しているようだ。
「で、デイビッド、父王様はなんと?」
デイビッド王子の脇のベッドに座り、固く王子の手を握りながらレイラが聞いた。デイビッド王子はレイラの髪に手を伸ばし、愛おしそうに撫でながら答えた。
「父王は、ザックたちデアデビルズのメンバーにはこの地に留まり、王家の
「まあそう!」
レイラが少しオーバーに喜びを表現すると俺に向き直って続けた。
「でどうなのザック?これからも私たちのそばにいてくれないかしら?」
俺の言葉がレイラをがっかりさせる事がわかっていたので、俺は努めて穏やかな表情を作り答えた。
「ありがとうレイラ。ただ契約は契約、レイラの身の危険が去った今、契約は満了。俺たちは貰うものだけもらってオサラバさ。」
「では新たな契約を結べ…」「レイラ!」
更に俺を勧誘しようとするレイラをデイビッド王子が
「ザック、私は父王の代理として礼を言う…ありがとう。」
そう言うとデイビッド王はベッドに半身を起こし頭を下げた。俺は右手を左胸に当ててその礼を受け取った。
「
「ああ、次の仕事が待っている。星間中のクライアントが俺を待っているんでね。」
レイラが目頭を抑えていた、別れを察したのだろう。デイビッド王子が続けた。
「また何かの折に、この星に寄ってもらえないか。その時には今より豊かで、人々が誇りを持って暮らしている星にしていてみせる。」
デイビッド王子が右手を差し出した。俺はその右手を握り返した。
「ああ、約束は出来ないが、近くを通った時には寄らせてもらう…王子も無理はしないでくれ、そしてレイラを大切に…」
ほんの数秒お互いの目を見合った、俺達には言葉を交わすよりそれで十分だった。
「じゃあ。」
そう言うと俺はデイビッド王子とレイラに背を向けて歩き出した。サラとアキラが続いた。俺は病室の扉を開けると振り返らずに外に出でた。
「条件次第ではこの国にしばらく居るのもありなんじゃ…」
アキラが小声で聞いてきた。感傷に浸り答えない俺の代わりにサラが答えてくれた。
「相変わらずのバカねアキラは。ザックがひとところに落ち着いたと星間に伝わったらどうなるの?」
「そりゃ星間中の賞金稼ぎが大挙してこの惑星に…あっ!」
「そういう事。ザックはそれが分かっていたから即答で断ったの。」
「それだけじゃない。」
俺も話に加わった。
「人の命は短い、その間にどれだけ命を
「はいはい、分かっていますよ。でもそれじゃいくつ命があっても足りないや。」
アキラがオーバーに両手を広げて〝やれやれ〟というゼスチャーをした。
「あらアキラ、ザックも私もあなたにどうしてもいて欲しいなんて言ってないわよ。チーム『デアデビルズ』を抜けたいならいつでもどうぞ。」
「サラ~意地悪言わないでよ~。ねえザック何とか言って~!」
二人のやり取りを眺めながら俺は強く思った。〝俺たちのチームは最高だ〟と。
デュランダル号に戻った俺たちは出立の準備をそれぞれ整え、コックピットに集結した。既にサラとアキラはコックピットのそれぞれの席に座って発進のシークエンスに入っていた。俺の入室を認めるとアキラが報告した。
「ザック、留守中にビデオメッセージが入ってましたよ。」
「誰からだ?」
「ムーヤンからです。」
「再生して。」
アキラがコンソールを操作するとメインモニターにムーヤンがいつもの愛想笑いを浮かべていた。
『いや~ザック。これを見ているという事は無事なんですね?ええそうでしょうそうでしょう。今回の仕事も見事をやり遂げられると信じてましたよ。そんなザックに朗報です。あなた方にしか出来ない仕事です…いえ難しくはありません。〝ブリザードイーグル〟の捕獲です…』
「えっ?」
アキラが反応した。しかしビデオメッセージの中のムーヤンは当然だが一方的に話し続けた。
『…いえ違法ではありませんよ。なんでも今回のクライアントはこの無人惑星ごと買い取ったらしくて、要はブリザードイーグルもクライアントの所有物という事になります、はい…』
「生き物の命をなんだと思ってるのかしら?」
今度はサラが突っ込みを入れた。
『この仕事、請けていただけるのでしたら返信願います。おっと大事な事をお伝えし忘れました。今回の契約はあくまで完全な成功報酬。捕獲に失敗した場合、かかった経費などは自己負担となります。そして成功報酬ですが、1,000万ギルド。破格の補修だと思いますよ!ザック!!最後に今回の惑星ミューの仕事、成功したなら私の口利き料、100万ギルドの支払いもお忘れなく。では。』
最後にとびっきりの愛想笑いを浮かべてムーヤンからのビデオメッセージは終わった。
「ザック、今回の仕事は請けるの止めましょう。」
ビデオメッセージが終わるや否やアキラが嘆願してきた。
「ブリザードイーグルについて何か知っているのか?」
「体長15m程の巨大な怪鳥。氷河があるような極寒冷地に生息していて自重の重さで飛ぶのはうまくないんだけど、その巨大な羽で羽ばたき、氷の粒を含んだ竜巻を発生させるという噂。目もいいし、勘も鋭く近づくことすら困難だと言われている。もちろん過去に捕獲したという記録は無いよ。」
サラも感想を口にした。
「私はそもそも野生の生き物を捕獲するという自体、乗り気にはなれないわ。」
俺は頭の中で一瞬考え、決断すると二人に宣言した。
「この仕事、請けよう。過去に誰も捕獲してないなら、俺達が捕獲して歴史に名を残そうじゃないか。そして、サラ。現地でブリザードイーグルの生息状況なども調査して、絶滅するような貴重な生物であればその時はこの仕事から手を引こう。どうせ完全成功報酬だ。捕獲を止めるのも俺たちの勝手だろう。」
俺の提案に二人は頷いた。
「よし、アキラ発進しよう。準備は?」
「いつでも行けます。」
「デュランダル号発進!」
振動と共にデュランダル号の機体が宙に浮きあがった。と見るまに上昇を始めた。モニターで遠ざかる惑星ミューの大地を見ながら俺はデイビッド王子とレイラの健闘を心から祈った。
<終わり>
Daredevils☆ ( デアデビルズ☆ ) 内藤 まさのり @masanori-1001
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