なかなか緊迫した物語で、鉄道が好きでこの世界に何十年もいる人間でさえも、いや、そうだからこそ、楽しめる側面もある。
もちろん、そうでない人でも、十二分に楽しめます。
さて、鬼ごっこという言葉を見て、私は、種村直樹氏(レイルウエイライター、元毎日新聞記者。故人)を思い出した。
鉄道という公共の移動手段としての乗り物を、いい意味で遊び、楽しみに使うことを提唱し、それを若い人たちに浸透させていった。
昔からのいわゆる「鉄道趣味人」には、種村氏を嫌う向きもあり、現に私もその傾向にある一人でした。何分にも、小学生で地元の大学の鉄道研究会に「スカウト(!)」されたほどの者であれば、それも無理はなかった。
とはいえ、そんな私であっても、10代半ばから後半にかけて、国鉄末期と丁度重なっていた時期だが、鉄道ジャーナル等での種村氏の著作物には、血沸き肉躍る思いで読んでいた。本作を読んで、その頃の記憶が、よみがえった。
ただ同時に、自分とは相いれなさを感じ始め、大学受験と重なった国鉄分割民営化と相まって、種村氏の著作物からは距離を置き始めた。
そんな頃の記憶が、よみがえった。
今思えば、それも一つの「親離れ」のようなものだったのかもしれない。
鉄道を使った楽しみを著作を通して与えてくれた種村直樹氏を思い出すとともに、種村さんがこの作品を読まれたら、どんな感想を述べられるだろうかと、そんなことさえ思った次第。
追記:しかし、こういう「鬼ごっこ」は、関西圏というパイの中だからこそできることで、これが他の地方、例えば首都圏あたりでは難しいだろうし、また、地方路線ではここまで緊迫した話には、なかなかならないだろうなという気もする。そういう意味では、関西圏だからこそ成り立つ物語かもしれません。