第41話 怪しい関係? ですわ
「もうやめてあげたら? 流石に可哀想じゃない?」
「俺もそう思う。」
「お姉様は心の強い方よ。決してこのくらいで挫けたりはしませんわ。」
セリアの言う通り、恐怖で震える体を抑え立ち上がる彼女。
魔道具の効果で頭に痛みを覚えているのだろう、それでも来た道を戻ろうとするカリア。
そこへ……
もう帰るの?
くすくす。
執事さん死んじゃったね。
あなたも死んじゃうの?
カリアの背後から声を掛ける幽霊達。
「本物のお化けの登場ですわね。流石に本物だけあってタイミングが分かるようですわ。」
「怖ぁ……。」
「怖すぎだろ。」
幽霊を無視し走りだす彼女。
どこへ行くの?
どうせ出られない。
「あんな事されたらぶっ倒れる自信あるよ。」
弱気な台詞を自信あり気に言う聖女。
「それでは、ここでもう一つ面白い事をしましょう。」
セリアはまたも魔道具を操作する。
カリアの前方に、過去のカリア、マサーレオ、案内人を映し出したのだ。
当然それには彼女もすぐに気が付く。
「困惑してるみたいだね。」
これから何が起こるとも知らず、呑気に鏡の前で色々なポーズを試している自分を第三者視点で見つめるカリア。
先程までのやり取りをそのまま投影しているのだ。
これが過去の自分達であると気が付いたカリアは……
「凄いね。自分が逃げる事より止める事を優先してるよ。」
「お姉様はワガママで強情で威張りん坊ですが、根は優しいのですわ。」
「それ……褒めてないだろ。」
画面越しに映る彼女は、過去の自分達がこれ以上進まないよう、何度も掴もうとしてはすり抜け掴めない事を悔しがっている。
カリアが必死に止めようと足掻くのも虚しく、過去として映し出された3人は惨劇の舞台へと向かって行く。
彼女は過去の自分達を追いかけ、何度も声を掛け、何度も体を掴もうと必死だった。
結局は無駄な足掻きとして、扉の前に辿り着いてしまったが。
……こちらで御座います。
あんた、先に入りなさいよ。
しかし……。
ダメ! 行かせてはダメよ!
良いから。
では……
そう言って過去のマサーレオが先に扉を開け、部屋の中へと進んで行くのを必死に止めようとする現在のカリア。
待って!
カリアの伸ばした手は、無情にも執事の体をすり抜けた。
何で! どうして!?
どうやっても止める事の出来ない彼女は、悲鳴をあげるような声で必死に執事を掴もうと足掻く。
ど、どう? 変な奴とか居ない?
バタンッ!!
と大きな音を立て、再び扉が閉ざされた。
ひぃっっ!
「とうとう諦めてしまいましたわね。」
「これだけやってもダメならそうなるでしょ。」
どうやっても助けられない過去の自分達を見ながら、カリアは棒立ちになっていた。
何だこれは! お嬢様! 大丈夫ですか!? お嬢様!?
ドンドン! と扉を叩く執事。
な、やめろ! ぎひぃぃぃぃ!!!
や、やめ……
グシャっという音を最後に、マサーレオの声が聞こえなくなった。
マサーレオ……?
……冗談よね? マサーレオ?
嘘よ……。
現在のカリアはその場に呆然と立ち尽くし、泣いている過去の自分を見続ける事しか出来なかった。
「室内を真っ暗にして扉を開けてあげなさい。後は皆さんにお任せ致します。」
セリアが画面から見える部屋の使用人に指示を出す。
扉が開き、それを見たカリアは現実逃避を始めた。
もしかしたら、マサーレオが驚かそうと一芝居うった……のかもしれないわ。
そうよ。こんな……こんな事あるワケが……
そして扉の奥を覗く彼女を使用人が引っ張り込み、扉を閉めてしまった。
「可哀想だよ……。もうやめよう?」
「そうですわね……あっ。」
“ストレス与えちゃうぞっ!”の効果が予想以上だったようで、カリアはその場に蹲った後気を失ってしまったようだ。
セリアは今回の経緯をマサーレオに説明し、内緒にしておくよう言い含めると、彼は太陽のような笑顔で同意した。
今回の映像記録を見せると大喜びで、カリアの怖がるシーンになると「ブラボー!」と叫んで指笛を吹くのだ。笑顔で。
とんでもない執事である。
しかし、カリアがマサーレオを心配して必死に止めようとするシーンになると、執事は涙を流し「お嬢様……。」と呟いていた。
セリアはこの主従コンビが怪しい関係になりはしないかと心配になったが、そうなったらそうなったで好都合よね、と開き直る。
カリアとマサーレオの主従コンビは再会を喜び合い、一通り俺様プレイを楽しんだ後は悪魔から助けてくれてありがとうと、しきりに礼を言って去って行った。
マサーレオに関しては演技だが。
「それにしても怖すぎだよ……あのお化け屋敷。」
「そうですわね。私達は仕掛けた側なのでそれ程でもありませんが、知らずに足を踏み入れればお漏らししちゃいそうですわ。」
さり気なく下品な発言をする公爵夫人。
「セリアが漏らしても俺が拭くさ。」
少し危険な発言をするケイス。これがこの国の公爵である。
そして恥ずかしいのか、顔を赤くし俯くセリア。
「その発言はどうかと思うけど、確かに同感。お姉さんは良く漏らさなかったよね。」
ケイスの変態発言に無視を決め込むキャロル。
「あれでいて、私のお姉様は意外と強い人なのですわ。」
「なんだかんだで執事さんを助けようとしてたしね。っていうかさ……本当に怪しい関係に発展しそうだったよね。」
「そうなったら仕方ありません。諦めましょう。」
「止めようよ!」
「恋路の邪魔は出来ませんもの。」
「う……うーん……でも。」
「こういう事はなるようにしかならないものですわ。」
実はセリア。姉にある命令を出していた。
お姉様は照れ隠しの際に厳しい言葉遣いが多いので、もう少し素直に伝えて下さい、と……
「あの……無視しないで?」
ケイスは寂しさを隠せなかった。
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