第22話 挨拶ですわ
「お久しぶりですわ。ベリア伯爵。」
「おお。セリア殿。ここではベリオーテ公爵夫人とお呼びしなければいけませんな。」
「セリアで結構ですわ。鯖のお蔭で色々と捗りましたので。」
ブッ飛び公爵令嬢と言われたセリアはそのフットワークの軽さから、結構な数の貴族と面識があるのだ。
「いえいえ。私の方こそ礼を言わねばなりません。この度の件は本当に感謝しておりますぞ。して、今回はどのような悪戯をしたのですかな?」
「フフっ。お見通しですのね。旦那様のご両親にちょっと……ですわ。」
「前ベリオーテ公爵夫妻は悪い評判しか聞こえてきませんでしたからな。成敗してやるのも良いでしょうな。」
「成敗だなんてそんな……。と言っても、既に旦那様がご両親をベリオーテ公爵家の籍から外してしまうという形を取っておりますわ。」
「流石。魔道具事業も上手くいった今、ベリオーテ公爵家も安泰というワケですか。」
「そうですわね。それにしても旦那様のご両親は……公爵家と言う大きな家を良くここまで傾かせたものだと感心しておりましたの。」
「確かに。あぁ、だからこそ籍を抜くという形に誘導したと。それが今回の悪戯という事ですな?」
ベリア伯爵は察しも良く、セリアにとっては会話が楽しい相手だった。
「お気付きになられましたようで。もう少しお話していたいのですが、他にも挨拶に行かなければなりませんので……」
「そうですな。セリア殿は悪戯に忙しいですから仕方ありますまい。」
「そんな意地悪を言わないで下さいな。それでは。」
「えぇ。次はどんな事をするのか楽しみにしておりますぞ。」
ベリア伯爵は鯖事件以来、すっかりセリアのファンになっていた。自分がもう少し若ければ……と思わずにはいられない程度には彼女を好んでいる。
その後セリアは更なる人脈を広げる為、フェルミト王国の貴族と次々と面識を得る。
現在ここに居る者は一部を除けばどの貴族もこれといった特徴はないのだが、聖女アリエンナに群がっていた有象無象に比べれば最低限はマナーを理解した貴族達である。
面識があれば何かしらの使い道はあるだろうと手当たり次第に挨拶を交わしていく。
「これで、今居る皆様とは顔合わせが済みましたわ。」
あとは自分の友人達とパーティを楽しむだけのセリア。
そんな彼女が戻ろうとしたところ、その友人達の居るであろう場所が騒がしい。
「気になりますわ。」
急いでその場へ向かうと、聖女アリエンナが輝いていた。
王女と同様の雷を体に纏って……。
そして、それを止めようとするキャロルとギャモーの姿もある。
「どういう状況ですの?」
セリアが尋ねると、これまでの経緯を教えて貰った。
アリエンナとその母が強すぎるので、世界征服出来そうだね。と揶揄ったら突然アリエンナが王女の真似をしたそうだ。
体に雷を纏いながら。
雰囲気や声も結構似ていたそうだ。
「私がいない間、そんな楽しそうな事になっていたなんて……」
「こっちは気が気じゃなかったぜ。」
「でも本当に似てたよね。モノマネ芸人でもやっていけるんじゃない?」
「そんなに褒められると嬉しいですね。今後は……モノマネ聖女アリエンナと呼んで下さい。」
アリエンナは何かをやり切ったという雰囲気を醸し出し、得意気に言うのだった。
「いくら何でも長すぎますわ。普通にアリエンナ様ではいけませんの?」
すると、シュンと残念そうな表情になってしまうアリエンナ。
(可愛い。チューを……チューをして差し上げたいですわ!)
思わずアリエンナを抱きしめてしまうセリア。
「セリア様?」
「アリエンナ様。お友達は時に、こうやって抱き合う事もありますのよ?」
「友達って良いものですね。」
そう言いながらも恥ずかしそうにする聖女。
(あぁ……。このまま家に連れ帰ってしまいたいですわ。ギャモーさんも面白い方ですし、二人とも連れて行けたら良いのですが……)
セリアは要人誘拐で国際問題に発展しそうな事を考えていた。
「本日はパーティに参加頂き、誠にありがとうございました。改めまして、イリジウム王国には感謝申し上げます。特にベリア伯爵とベリオーテ公爵夫人による多大なご恩は私達の記憶に残る事でしょう。途中で体調を崩され、退席なさった方もおいでですが……」
王女の声が聞こえて来た。締めの挨拶をしているところを見れば、どうやらパーティも終わりのようだ。
「体調って……王女様が雷魔法を放ったからだよな。」
「だね。結構強めにぶっ放してたよ。」
実際、雷魔法をくらった貴族たちからは煙があがっていた。
そんな彼らは、良く無事だったものだと全員が感心している。
「そのお蔭で私達は助かりましたけどね。」
「面白れぇ王女様だったな。」
王女による聖女救出劇は全員の記憶に強く残る事となる。
「そうですね。お友達にもなれましたし、私は満足ですわ。」
「私も!」
「私もです。」
「では、私達も解散と致しましょうか。」
王女と友人になった4人は、今後もどこかで会う機会を設けようと約束しその場を去った。
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