第18話 聖女の恐怖体験

「ねぇ。もうやめない?」


「ちょっと気味が悪いですね。」


「でも気にならねぇか?」


「読めそうな所までページを飛ばしますわね。」



『〇月〇日 死ね

 ダニエルがお花をプレゼントしていた。またあの女だ。


 〇月〇日 死ね

 ダニエルがお花をプレゼントしていた。死ね。


 〇月〇日 死ね

 あの女が急に居なくなった。


 〇月〇日 晴れ

 今日のダニエルは私にお花をプレゼントしてくれた。最初からこうすれば良かった。


 〇月〇日 曇り

 ダニエルがお花をプレゼントしてくれた。嬉しい。あの女の事は言うな。死ね。


 〇月〇日 雨

 貰ってばかりは悪いので、白いゼラニウムの花をプレゼントした。ダニエルは喜んでくれた。


 〇月〇日 曇り

 ダニエルが死んだ。嬉しくて悲しい。


 〇月〇日 快晴

 私も死んだ。


 〇月〇日 嵐

 皆死ね。


 〇月〇日 死ね

 お前も死ね。           』



「つまり、純愛からの失恋日記だった……という事ですのね。」


「どう考えても違うだろ。」


「その結論はおかしいよ。」


「……同意しかねます。」


(何故か責められてしまいましたわ。)


「何で白いゼラニウムの花をプレゼントしたの?」


「白いゼラニウムの花言葉は、『あなたの愛を信じない』ですわ。この時代でも同じ意味だったのだとすれば、ダニエルさんの愛が信じられなくなってしまったのでしょうね。」


「それには同意。」


「そうだな。」


「全く信じるに値しませんね。」


 皆、ダニエルに嫌悪感を示す。


『うぼあ゛ぁぁぁ』


「「「ひぃぃ!」」」


 突如として本の中から半透明の美しい女性が現れた。


『私は聖なる幽霊。』


「幽霊ですの?」


 セリアはそれ程動じていないようだ。


「聖なる?」


『幽霊。』


「あなたと私は?」


『お友達。』


 聖なる幽霊は意外とノリが良いようだ。


「聖なる幽霊ってなんだ?」


「幽霊って普通、無念があって現世に残るんですよね? 聖ではない気がしますけど。」


『私が聖女だからです。』


「聖女? だから聖なる幽霊って事?」


『そうです。』


「聖女が殺人はダメだろ。」


『殺人? そんな事していませんが。』


「日記に書いてあったよ。」


『あぁ。それは聖なる暗黒魔法を使っただけですよ。』



「聖なる暗黒魔法とはどういう事ですの? 暗黒魔法って悪魔が使う魔法ですわよね?」


『聖なる暗黒魔法とは、聖なる気持ちで暗黒魔法を使う事です。』


「それって普通の暗黒魔法とどう違うんですか?」


『暗黒魔法を使うと悪者っぽいですが、聖なる暗黒魔法を使うと聖女っぽいです。あと魔法の見た目がホーリーな感じになります。』


「中身は結局暗黒魔法じゃん。」


「というか、ダニエルさんはその魔法で死んだのですよね? 普通に殺人じゃないですか。」


『うるさいですね。聖なる暗黒魔法で聖なる呪いを掛けますよ?』


 聖なる幽霊がイラッとした顔をしている。


「ごめんなさい。」


『分かれば良いんです。』


「でも、日記に書かれていた女の人とダニエルさんを憎んでたんだよね?」


『そうですね。』


「それは負の感情じゃない?」


『聖女が抱く感情なので、聖なる憎しみです。』


「ふむ、全然分からん。」


「女の人はどうしたの?」


『聖なる呪いを掛けたら行方不明になりました。』


「呪いの内容は?」


『旅をしないと気が済まなくなる呪いです。』


「つまりその人は旅に出たんですか?」


『そういう事です。』



 その後、剣と本を誰が貰うか話し合った結果……


 本は古代語の解析に役立ちそうだという事でセリアが、炎が出る剣は冒険者ギャモーが、もう一振りの剣は聖女アリエンナが貰うという話で決着がついた。


 ちなみにキャロルは、この中に欲しい物が無いそうだ。


「では、明日の準備もある事ですし解散と致しましょう。」


「そうだな。」


「そうですね。」


「さんせーい。」


 4人は明日また、と言って別れた。


「楽しい人達だったね。」


「ええ。お友達になれて良かったですわ。」


「パーティが終わってもまた会いたいね。」


「はい。ですが……イリジウム王国からドゥーはかなり遠いので、頻繁にお会いするのは難しいですわ。」


「そっか……。」


「とは言え、向こうは聖女です。聖女同士お会いする機会もきっとありますわ。」


「そうだね!」


 2人は翌日のパーティに備え、衣装の試着をする。


「このコルセットきついよぉ。」


「慣れてもらわないと困りますわ。」


「うぅ……。苦しい。」


 キャロルはコルセットが慣れないようで、苦しそうにしている。


「これではパーティを楽しめませんわね。」


「聖女だからコルセットなしの修道服で良いんじゃない?」


 キャロルが自分の荷物から修道服を取り出す。


 何故コルセット無しでドレスを着用しないのかと言えば、持ってきたドレスはコルセットが無いと綺麗に着こなせないのだ。


「閃きましたわ!」


 セリアは何を思ったのか、突然修道服にハサミを入れ始めた。


「えぇ!? 切っちゃうの?」


「任せて下さいな。」


 彼女は軽やかにハサミを使いこなし、ほんの1~2分程でワンピースの下部分をミニスカートのように変えてしまう。


 そこから更に、持ってきたドレスの色味が似ている物からフリルを移植し、修道服を可愛く改造してしまった。


「完成ですわ。」


 早速試着したキャロルは、鏡を見ながら感心したように呟く。


「最初は驚いたけど、着てみると奇抜なのに可愛いね。」


「自信作ですわ。」


「これはアリエンナ風に言うと、エキセントリック可愛いって奴じゃない?」


 2人とも満足気であった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る