6、焼きあがりは?

「あれ? その器、ちっちゃくない?」


 火の傍に土器を並べていると、アリサが不思議そうに尋ねて来た。


「で、出来るかの実験だからね。このサイズで固まらなかったら、大きい器なんて出来ないよ」


「なるほど、それもそうか」


 さて、火の傍に土器も置いた。

 後は乾燥と卵芋の蒸し焼きが完成するのを待つだけだ。

 待っているにやる事は……いや、今日はここまでだな。

 日がだいぶ傾いているから、もうすぐに辺りが真っ暗になってしまう。

 そうなると、作業が中途半端になってしまって良くない。

 それに……。


「……あー疲れた……」


 腰を下ろすと、一気に疲労感が襲ってきた。

 2人になったからといっても、流石にちょっと詰め込み過ぎたかな。

 雨期までにやらない事は色々とあるけど、だからといって体を壊したら意味がない。

 体が資本、特にサバイバルではそうだ。

 明日はもう少しゆとりを持てるように配分を考えないといけないな。


「き、今日の作業はもう終わろうか」


「うん、わかったわ」


 アリサは僕の向い側に座った。

 真正面っていうのは目のやり場に困るな……かと言って、僕の傍に来るのも困る……。

 あーこんな事で悩む自分が情けない。


「ねぇねぇ、何かお話しない?」


「お、お話?」


「そう。今日はもうやる事、無いんだしさ。色々話そうよ」


 マジで? 向かいっている状態で異性と話す。

 ……やばい! 変に意識しちゃって、なんか緊張して来た!

 落ちつけ、落ちつくんだ僕。

 今までアリサとは、自然に話せていたじゃないか。

 こんな事で同様してどうするんだよ。

 冷静に……冷静に……よし。


「な、何を話すぅ?」


 …………。

 うわああああああ! 全然冷静になってない!

 声が完全に裏返っちゃってるよ!

 恥ずかしい、穴があったら入りたい。


「そうね……あ、リョーの世界の話を、聞かせてもらってもいいかな?」


 僕のテンパっている事に気が付いているのかいないのか、アリサは普通に話を続けてくれた。

 もし、前者なら気を遣わせちゃって申し訳ないな。


「ぼ、僕の世界の話を?」


「うん。異世界人の世界の話は、噂でしか聞いた事が無いの。だから、何が本当で何が嘘なのか、気になっていたんだ~。だから、その辺りを聞きの」


 なるほど。

 んー僕の世界の事を気軽に話してもいいのかな。

 あの女神様には、特にそういったNG的な事は言われていない……よな。


「……駄目、かな?」


 そんな落ち込んだ声を出さないでくれよ。

 まぁ異世界人って存在は、この世界だとごく普通なっているみたいだし、異世界の事を噂で聞いたとなると僕より先に来た人が何かしら話しているのは間違いないだろう。

 なら話しても問題は無いか。


「えっと、僕で答えられる範囲で良ければ……」


「ほんとに!? ええと、じゃあまず――」


 アリサの質問は漫画や小説のテンプレだった。

 馬がいないのに動く馬車とか、魔法を使わず空飛ぶ乗り物、氷魔法を使っていないのに冷える箱などなど。

 どういう原理なのかについては僕も詳しく知らないし、説明できたとしてもアリサにはちんぷんかんぷん状態になるのは間違いない。

 とりあえず、こういう名前でこういう感じな物なんだよと地面に絵を描きつつ簡単に話す事にした。

 アリサは目を輝かせながら僕の話を聞き、ハーピーだからなのか飛行機に関してはめちゃくちゃ不思議がっていた。

 僕からしたら魔法が使えるこの世界がめちゃくちゃ不思議なんだけどね。

 まぁそれはお互い様か。




 話しているうちに、辺りはすっかりうす暗くなってしまった。

 卵芋の上の火もだいぶ弱くなってきたし、これ以上暗くならないうちに取り出した方がいいか。


「そろそろ、卵芋いいんじゃない?」


「そ、そうだね」


 残った火を退かし、熱くなった土は鱗で掘り返す。

 すると、ほのかに焦げた匂いがしてきた。

 うーん……この焦げた匂いは葉っぱなのか、卵芋なのか……どっちだろう。

 卵芋の方なら最悪だぞ。


「……あったあった」


 卵芋を包んだ葉っぱが顔を出した。

 僕はそれ鱗の上に乗せて取り出し、大き目の石の上へと置いた。

 葉っぱが少し黒くなっている気もするけど、辺りがうす暗いから何とも言えない。


「じゃ、じゃあ開けてみるね……あっつ!」


 ゆっくりと葉っぱを開けていくと、中からジャガイモの蒸した匂いが出てきた。

 どうやら焦げた匂いは葉っぱからだったみたいだ。


「お~、すごい! 蒸し焼きに、なってるわ!」


 卵芋を手に取ったアリサの反応からして、うまくいった様だな。

 んー……にしても、これはお腹が空く匂いだ。

 味もジャガイモと同じなんだろうか。


「あっつあっつ!」


 僕も熱々の卵芋を手に取ってかぶりついた。


「はむ……もぐもぐ……うん! うまい!」


 ホクホクの食感、味は普段食べているジャガイモよりちょっと甘めかな。

 リーンの実、ハマラシュウ、ゴブリンノコシカケと食べて来たけど食べ慣れた味のおかげかこれが一番うまいぞ。


「くうううううう! これは塩とバターがほしくなる!」


 ジャガイモに合う調味料が今すぐにでも欲しい。


「バター? が何なのか、わからないけど、塩ならわかるから同感だわ~。この島に、岩塩があればいいんだけど……」


 岩塩か。

 日本にはないから、岩塩ってどんな感じになっているのか僕には全く分からないや。


「ど、土器がうまくいけば、塩を作れると思うんだけど……」


「ムグッ! えっ!? リョーの世界って、土器から塩を作れるの!?」


 おっと、言葉足らずだった。

 僕の世界の話を聞いたアリサだと、なんでもかんでも信じかねないから気を付けないといけないな。


「ど、土器からじゃなくて海水を煮て作るんだよ」


「なんだ、そういう事か」


 すごくガッカリしている。

 なんか申し訳ない事をしちゃった気分。


 さて、その重要な土器の乾燥具合はどうだろう。

 比率A、ひび割れして一部がボロボロと崩れる。

 うーん……この時点で失敗が目に見えているけど、とりあえず焼いてみるか。


 比率B、ひび割れは無し。

 乾燥して器も硬くなっているから、やっぱりこれが一番うまくいくかも。


 比率C、最初よりだいぶましだけどまだまだ柔らかい。

 くにっと形が変えられる状態だけど、もうこれ以上硬くならない感じだしこれで行こう。


 焼くのはシェルター内のかまどにするか。

 それなら雨が降っても火が消える事が無いものな。

 ……まぁ雨漏りしなければの話だけど。

 僕はシェルターに入り、土器をかまどの中へ入れた。


「そんなかまどの火で、土器は固まるの?」


「ち、小さいから大丈夫だと思う。大きい物だと、この火じゃ無理だから専用のかまどを作るけどね」


 とはいえ、しっかり焼ける様に器の器にも木を入れ込んで……周りを囲んで……と、出来た。

 どのくらいで固まるかわからないけど、明日の朝には十分固まっているだろう。

 どうなっているか、明日の朝が楽しみだな。


 そんな思いを胸に今日1日が終わった。

 あとは疲れた体を休めて、ゆっくりと夢の中へと――。



 ――入れなかった。


「……んん……」


「――っ!」


「……す~す~」


「………………うう……寝れない」


 ベッドの間に仕切りをしたとはいえ、所詮は葉っぱ1枚。

 向う側で寝ているアリサの寝息や寝返りの音がもろに聞こえる。

 緊張やら動揺やら興奮やらで僕の感情はぐっちゃぐちゃ状態。

 こんなんじゃあ、寝られるわけがない!


 結局、この夜もまともに寝ることは出来なかった。

 安眠できる日はいつ来るんだろうか……。

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