5、色々と挑戦
森を歩いていると、定期的にコンコンと石を叩く音が聞こえる。
森の中は静かだから音がよく響くな。
「えーと、この辺りだったはずなんだけど…………あった、あった」
独特の青い木、粘樹を発見。
僕が粘樹の所まで来た理由、それは土器の実験の為だ。
「どうなるかわからないけど、ぜひとも成功させたいな」
アリサの爪で傷ついた粘樹は、まだトロトロと樹液を出し続けている。
これなら鱗で傷付けなくていいな。
樹液が必要だからといって、安易に傷をつけすぎるのは木に良くないもの。
僕は垂れている樹液を鱗ですくい取ってから、その場の地面に落として土と混ぜ始めた。
「……」
懐かしいな、土をコネコネとこね回す感じ。
子供の頃の泥遊びを思い出す。
「…………あれ? 思ったより粘土にならないな」
多少粘り気のある土をいじっている感じだ。
これは粘土とは言えない、樹液が足りなかったかな?
もう少し樹液を足して……コネコネと……。
「…………よしよし、粘土みたいな感触になって来た」
やっぱり、樹液が足りなかったのか。
……ん、待てよ。
そうなると、土と樹液の比率も需要になって来るぞ。
その比率次第で土器になるかどうか、割れやすいのか割れにくいのか、その辺りにも響いてくるかもしれない。
とはいえ、はかりなんてこの無人島には無いから今は目分量でやるしかない……必要そうなら、簡単な天秤を作る事も考えないと。
樹液が1に対して土が2の比率A。
多少粘り気のある土で、粘土とは言えない。
正直、これは失敗しか見えないけど形が作れるから一応候補に入れよう。
樹液が1に対して土が1の比率B。
ちょっと土ぽさが残っているけど粘土状態にはなっている。
これは土器として使えそうだ。
樹液が2に対して土が1の比率C。
堅めスライムって感じかな……この何とも言えない手触りの感触が癖になりそうだ。
これもギリギリ形が保てるから候補に入れておくか。
後は、この3種類から小さ目の茶碗を作って乾かしてから焼いてみる。
それで土器に適しているかを確認。
うまくできたらその比率で作っていく。
果たして、この3種類のから土器が作れるのだろうか。
なにも無い無人島で実験開始。
不安もあるけど、ワクワク感もある。
そんな複雑な感情のまま僕は拠点へと戻った。
※
「あっ! おかえり!」
拠点に戻ると、僕の姿を見たアリサが駆け足で傍に寄って来た。
なんだなんだ? 一体どうしたんだ。
「ねぇねぇ! これ、見てよ!」
そう言ってアリサが抱えていた物を僕に見せて来た。
白くて楕円形の物が10個ほど……これって……。
「……卵?」
アリサの持っているのは鶏の卵だ。
何処からこんな卵を取って来て……いや、待てよ。
卵……ハーピー……鳥……ハッ!
「お、おめでとうございます!」
この言葉があっているかどうかわからないけど、これしか今は思いつかない。
まさか、僕が粘樹に行っているたった数十分くらいの間で産卵していたとは。
お腹も大きくないし、全然気が付かなかった。
そういう所に気が回らない僕って駄目だなー本当。
「へ? おめでとうございます? ………………あっ! 違う、違う! これはうちが産んだ、卵じゃないよ! というか、卵じゃないし!」
「え? 違うの?」
どう見ても鶏の卵にしか……あれ? 全部の卵の尖端から植物の根みたいなのが出ている。
まるで植物が卵の殻を突いて、中身を吸い取っている様だ。
「これは、卵芋よ」
「卵芋……?」
ああー、荒らされて食べられなかった奴か。
まさに見た目通りの名前だな。
「薪割りがひと段落ついたから、火が見える範囲で、落ちた枝を集めていたの。そうしたら、荒らされていない卵芋を見つけたのよ」
この周辺にも生えていたんだ。
まさに灯台下暗しだな。
「これも、おいしいから食べましょ。根から実を取って……」
アリサは卵芋の尖端から出ている、根を引き千切っていく。
そうなると、本当に見た目はただの鶏の卵。
本物の鶏の卵の中に混ぜたら、見分けがつかんな。
「硬い所で、叩いて殻を割って……」
石にコンコンと叩くと、卵芋にヒビが入った。
皮じゃなくて殻って……それは芋と呼べるのか、すごく疑問だ。
「ひび割れたところから、剥けば……ほら、これが中身だよ」
一瞬ゆで卵が出て来るんじゃないかと思ったけど、殻の中から出て来たのは薄い黄色でジャガイモの皮を剥いた姿にそっくりだった。
手に取ってみると、ゆで卵の様につるつるしていない。
まさに卵の形をしたジャガイモだ。
「で、枝に刺して焼けば、食べられるよ」
また焼きか。
物は違うとしても、流石に焼き系はちょっと飽きたな。
とはいっても、今の状態で火を通す方法はそれしか……あっ。
「そ、それを蒸し焼きにしてみない?」
サバイバルの調理方法でよく出てくるのに、何で忘れてたかな。
「蒸し焼き? え、そんな事が、出来るの?」
「て、出来ると思うよ。えと、その為にはアリサ……さんに採って来てほしい物があるんだけどいいかな?」
「いいわよ。なにを、とってくれば?」
「ど、毒が無くて火にあぶっても燃えない大き目の葉っぱがほしいんだ」
「毒が無くて、火に強い……か。わかったわ、ちょっと探してくる」
さて、アリサが葉っぱを採りに行っている間に僕は調理場作りだ。
まずはいつもの様に穴を掘る。
なんか穴を掘ってばかりな気がするけど、基本はこうだから仕方ない。
そして穴の底に石を敷いて、その上で火を燃やす。
「あー……でも、今からだと石が熱くなるのに時間が掛かるか」
しまった。
このままだと、完成が真夜中になっちゃう。
流石にそれはまずい……何か方法がないかな……。
僕は辺りを見わたして、外のかまどに目が止まった。
「そうだ! かまどに使った石があった!」
底の石は火を消さないと取れないけど、周りの石なら取れる。
拠点作りからずっと燃やし続けているんだ。
周りの石でも熱々になっているだろうから問題ないだろう。
火傷をしない様に、木の棒で挟んで穴の底へと置き、その上に土をかぶせる。
で、その土の上に葉っぱを敷くんだけど……。
「ただいま~。これで、いいかな?」
お、いいタイミングでアリサが戻って来た。
「あ、ありがとう。丁度、葉っぱが必要だったんだ」
手渡されたのは、手のひらの倍くらい大きく青々とした緑の葉っぱ。
これなら、火にかけても大丈夫そうだな。
「じ、じゃあこの葉っぱに卵芋を包んでくれる?」
「包めば、いいのね」
包んでもらっている間に、僕は葉っぱを土の上に敷いて準備だ。
「はい、包んだわよ」
「あ、ありがとう」
受け取った卵芋を敷いた葉っぱの上に乗せる。
そして、卵芋の上に葉っぱを乗せて土をかぶせる。
「後は、この土の上で火を焚けば蒸し焼きが出来るよ」
「お~……これで、出来るんだ。こんなやり方、初めて見たよ」
僕もやったのは初めてです。
だから、うまくいけばいいけどね……そうだ! ついでに作った土器を、この火の傍に置いて乾燥させておこう。
かまどの石を使ったように色々と要領よくやらないとね。
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