第20話・乱入者

 イベント最終日、祭りが開かれ賑やかな雰囲気の中、大地の賛歌をメモっていた人によって歌詞を見ながら歌う人達がいる。


 村人の中にマールや俺から大地の賛歌を聞いた人は、演奏できるかもと言って演奏する。俺が歌っていなくてもBGМは大地の賛歌だ。


「アッシュ、元気にしているか?」


「薔薇姫さん、メイさん」


「こんにちは」


 聖なる杯の事もあり、使い方を教えに来たらしい。王都の件は済んだらしい。


「やはり王都には強い者がおるのう。片腕は斬られてしまった」


「大丈夫ですか?」


「うむ、すぐにくっつけた」


 そんな会話をしながら従魔達は楽しそうにしている。


 使い方を教えてもらいながら、時間が来るまで暇つぶし。いや、戦闘があるから、その準備だな。酒は作れてないから野菜ジュースは用意した。


「せっかくだから料理場手伝うか」


 料理人達が解放された冒険者ギルドで好きに料理している。俺はみんなに配るようにバフ料理を作る事にした。いずれ緑の手や大地の賛歌の情報が流れるのならタイミング的にここだろう。


「すいません、この材料を使った料理できますか?」


「えっ?これって初期野菜? 品質高い! へえ凄い」


「使ってもいいんですか?」


「イベント用ですから、とりあえずどうぞどうぞ」


 そして使った料理人プレイヤーは自分の料理に満腹値以外の効果が付いていて驚かれる。みんなに回るように話し合った。


「おうアッシュッ。なんかするなら始めに言ってくれ」


「ヒビキさん」


「俺は呼び捨てで良いよ、そっちの方が年上だろうし。バカが騒ぎ出したから叩きだしておいたぜ」


「いいんですか?」


「俺ら彼奴らのサイトじゃ害悪ギルド扱いなんだよ。もう手遅れさ。けどジークやルーンみたいに話の分かる奴は鵜呑みにしないから、助かってるんだけどな」


「……俺もさすがに嫌になる」


「だろ?料理関係や農業関係の情報を話す気があるなら、いいとこ紹介するよ。ちゃんとしっかりしてるところがあるからさ」


「分かったよ。イベントが終わったら連絡するね」


「おう、野菜ジュース飲ませてもらうよ。アッシュが用意したの、ほんのり甘くて飲めるんだ」


「よかった。分類は野菜だけど果物っぽいんだこれ」


 そんな話をしながら、全プレイヤーはいつ戦闘が起きても良いようにバフを撒いておく。


 ◇◆◇◆◇


 日が落ち、夜の時間帯。夜の盟主が舞台を指揮する。


「それでは聖なる祈りを捧げよ。豊穣に詩を、願いを捧げるんじゃ」


 若い村人やプレイヤーが祈りを捧げる。ふわふわ光るなにがが浮き上がる。蛍かな? 掴まえようとする人もいる中、歌を一通り捧げた後、薔薇姫は俺を舞台の中心に呼ぶ。


「神子よ、神子よ。女神に聖杯に供物を捧げよ。祈り、願い、繁栄の願いを」


「はい」


 聖なる杯を取り出し、ジュースを注ぐ。この地で取れたジュースだ。


(………量が多い)


 見た目と違い、どれほど注いでも底が無い? いや少し手ごたえがあるから問題ないな。


「あ奴め、かなりの量を求めているな。果物も入れてしまえ」


 ぽいぽいと果物や野菜を入れる薔薇姫。今度はがつがつと言う音が聞こえる。


 その瞬間だった。


「ゴウッ!!」


 離れて見て居たナイトが駆け出し、タロウが俺に向かって水晶弾を放つ。


 すぐに動けたのは彼らだけ、動けるのに動かない薔薇姫を見ながら、俺は信じて聖なる杯を守る。


 パリン。


 水晶弾が飛来した皿を破壊したが、俺に当たる皿以外は、地面を砕きながら地に落ちた。


「誰だッ!?」


 ジークの言葉に、暗闇から鬼が現れる。こん棒を持ち、一人一人ゴブリンのようだが、明らかに上位と言う感じだ。


 そしたらBGМがロック調に変わり出した。


「やれやれ、うるさいのが参ったか」


「ヘイよッ!」


 爆発と共に冒険者ギルドの屋根の上、鬼としての角を持ち、ロックボイスを決めながら現れる一人の鬼娘。


 ギザギザの歯でにんまり笑い、巨大な金棒を片腕で操り、浮遊する太鼓は一つずつ電気を放ちながら背中に位置する。


「薔薇姫さん、あの人は」


「春の祭壇に封印されていたが、目覚めたか、酒呑童子」


「おうともさッ!酒を切らしたテメエらが悪いんだぜ? 200年ほどの盟約破棄だ!文句はあるまい?」


「盟約の内容は知らないが、春の女神と共にお前が飲むものを要求してたか」


「その通り!酒じゃなくジュースの時はホント我慢するの大変だったぜ。その後の報酬無しはきつかった」


 ぶんぶんと振るうと風を切り、手下と思われる赤鬼ははやし立てる。


「せっかくこの土地が俺様の物になりかけているのに、またあの女神の力が戻ってもかなわないんでな。祭りの品物、全部俺様に献上しろ」


「断る」


「ほう……妖怪、特に鬼族である俺様とケンカするのか吸血鬼?」


「残念ながら、現王族との盟約更新でのう。この辺りの領主として好きにしていいと交渉した。この村は我の領土と言うわけだ」


「カアーッ!つまりあんたとマジバトルOKってことっすね!それはいいことを聞いたぜ」


「馬鹿め、我はお主の攻撃から村と村人を守らなければいけない。お前と戦うのは」


「冒険者か……あれっ、アイテムボックスに聖なる杯を入れられねえッ!」


「それはまずい、こちらが相手をしよう」


 トップ組が前に出て、何人か戦闘態勢。


「良いねえ、それが壊れればこっちの勝ち、俺様を倒せればそっちの勝ち。イッツ・ザ・シンプルってね」


「戦闘狂め、だから神族から敵と判断されるんだ」


「それが俺様達鬼族の流儀っしょ」


「妖怪全体がそう思われるから、お前らは嫌われ者だぞ」


「嫌われ者結構!好きに生き好きに死ぬってね」


 こうして戦闘の火ぶたが切って落とされる。


「とりあえず戦闘頼むよみんな!」


「任せてくれ。この剣に賭けてイベントは勝つぞ」


「だっはっは。楽しい楽しい準備運動だ……すぐに壊れるなよ?」


 こうして戦闘が始まった。

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