【母性本能を刺激しすぎると】

その後着々と話は進み、数分が過ぎた頃。

所長室のドアがコンコンと鳴る。

綾ねえがドアを開けると莉紗ちゃんが現れた。


「終わったのだ。」

「素直に答えたみたいね。」

「一応...確信はないから綾音が確認するといいのだ。」

「そうね、ちょうどこちらの話は終わったし。」


莉紗ちゃんが綾ねえの横をトコトコ歩き俺の横に座る。


「早く行くのだ。」


莉紗ちゃんが俺の顔を見ながらドアを指差す。


「は、はい...所長!色々ありがとうございました!」


俺は所長に頭を深く下げ綾ねえと部屋を出る。


「......また会おう、少年。」

「母性本能ですか所長。」

「かもな、少年とはやたらと縁があってな...。」

「らしくないのだ。」

「ふぅ......そうね。」


......。

そして俺達はあの少女の元へ戻った。


「あらお帰りなさい。」

「ただいま...。」

「とりあえず奥で休ませてるけど。」

「そう。」


先程綾ねえが拷問...してた場所は喪抜けの空であった。

その奥の部屋に少女は横たわっていた。


「起きなさい...。」

「......。」

「寝たふりなんていいどきょ...。」

「ごめんなしゃい!!!起きてますごめんなさい!?」


少女は飛び起きて綾ねえの足にすがり何度も謝る。


「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい!?」

「全て話した?」

「話しましだぁ!!?」

「そう...ならもう何もしないから。」


少女の手が綾ねえの足を伝い地面に触れる。

そのまま泣き続けていた。


「春くんに感謝するのね。」

「うっ...うぅ。」

「......なぜ俺を殺そうとしたの。」

「...任務、だったから......。」


任務ねえ......。

でもどうして俺なんだろう。


「それは知らされてないみたいよ...でもこの年であそこまで任務を遂行できるのは流石に宝月の一族ね、ただ監視員を相手にできるレベルには程遠い......まるでこの子を捨て石に、里の場所をわざと私達に知らせてるように見えた。」


捨て石...見捨てられたって事か?

忍の一族......社会の常識と大きく外れている。


「......私が捨て石。」


少女はそう呟くと下を向いて黙り込んでしまう。

悲しんでいるのだろうか、それとも思う所があるのだろうか......。


少し可哀想に見えてきた...。


「はぁ...春くんは優しいなあ。」

「......。」


そうだ。


「この子、この後どうなるの?」

「特能者を狙った殺人未遂は重罪......少なくとも10年はこの白川刑務所から出られないでしょうね。」

「......そんなに。」


10年...長すぎる。

貴重な10代の時間をこんな場所で......。

友達と遊んだり、恋愛をしたり。


当たり前の日常...この子はもうその当たり前が許されない。

俺や風香のように......。


風香?


「綾ねえ、お願いがあるんだ。」


俺はそう言うと綾ねえがため息と共に距離を置く。


「えっと、稟花ちゃんだよね...話があるんだ。」

「......。」


無言のまま顔をこちらへ向ける。

どうやら素直に話を聞いてくれるようだ。

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