散歩の二百二話 武道大会のエントリーでまさかの事態が

 武道大会に提供する食事も決まったので、僕達は辺境伯様の屋敷から少し離れた武道大会の会場に向かいます。

 というのも、大会の三週間前からエントリー受付が始まるそうです。


「武道大会には、毎年多くの参加者が来るんだよ。優勝すると、沢山の賞金が貰えるんだ」

「参加者のレベルが一定になる様に、ある程度強い人は参加出来ない様にしています」

「お陰で、毎年白熱した試合展開になっています。因みに、武器は使用可能ですが殺し合いはご法度です」


 僕達と一緒に付いてきたフィーナさんと護衛の説明を聞く限り、殺伐とした大会ではないようです。

 それなら、僕達もどれだけ強くなったかという腕試しにちょうど良いですね。

 因みに、フィーナさんは辺境伯家として大会運営のお手伝いをするそうです。

 何人かの辺境伯領の兵は大会に参加するそうですが、流石に護衛のお姉さんは参加しないとの事です。

 そして、武道大会の会場が見えてきました。


「おお、結構広いね!」

「客席もあるよ」

「舞台が石畳だ」


 何と会場は、街の広場を利用していました。

 仮設の観客席も作られてるし、座って応援するスペースもある。

 今は、仮設の観客席を作る作業が行われています。

 そのために、多くの作業員が所狭しと働いていました。

 そして、広場の一角に、武道大会の受付がありました。

 早速僕達は受付を行おうとしたのですが、衝撃の事実が判明します。


「申し訳ありませんが、皆様大会にエントリー出来ません」

「「「えー! 何で!」」」

「とはいっても、規則なので……」


 役人っぽい人が、僕達全員武道大会にエントリーできないと説明してきたのだ。

 納得できないシロ達が受付の男性に詰め寄りますが、それでも駄目な様です。


「まず、大会は安全のために十二歳以上からのエントリーとなっております」

「「「そんなー!」」」


 うーん、これは仕方ないだろう。

 子どもが武道大会に参加して死んだり大怪我したら、それこそ大変な事だ。


「そして、皆様は称号持ちの冒険者になります。一つならエントリー可能ですが、二つ以上はエントリー不可となります」

「そんなー! シロはダブルで駄目じゃん」


 冒険者もランクによってエントリーできない様だし、称号が二つあると駄目なのか。

 シロは二つの項目で駄目なので、ショックで崩れ落ちています。

 うーん、規則だから仕方ないけど、かなり残念だよ。

 すると、アオが受付のテーブルに飛び乗って、参加規定を見ていた。

 そして、器用に触手でペンを持ってスラスラとエントリー用紙に何かを書き始めた。


「えーっと、何々? 参加者はアオで、セコンドにシロとフランとホルンと」

「という事は、アオが武道大会に参加する事になりますね」

「「「えっ?」」」


 アオが書いた内容だと、武道大会に参加するのはアオになるぞ。

 でも、そもそもスライムが参加するのは良いのかなと思ったら、参加要項を見たら問題ない事が発覚します。


「従魔一匹までならテイマーの参加もオッケー。ただし、従魔はテイマーの制御下にある事」

「はい、そうです。テイマーも参加可能で、その場合は従魔が参加対象になるので冒険者ランクや年齢は問題ありません」

「しかし、これはちょっとした不備ですね」

「確かにテイマーの参加基準も一律にした方が良いですね。しかし今年はもうこの内容で募集をかけてしまったので、来年以降検討とします」


 確かにテイマー本人に関する要項が書かれていないし、不備と言えば不備だろう。

 アオは、上手く参加要項の隙間をついた様だ。


「要項を確認して自ら参加申込をするスライムは見たことがありません。制御どころか完全に自立していますね。では、これで受付完了です。参加人数が多い場合は予備選を行いますので、当日アナウンスします」

「「「はーい」」」


 何とか受付も完了し、僕達は帰路につきます。


「スーお姉様、アオちゃんって強いんですか?」

「アオはとっても強いですよ。アオも実質的に冒険者の称号持ちですから」

「そうなんですね。それは凄いです!」


 フィーナさんは、スーからアオの強さを聞いてビックリしていました。

 確かにアオは余程の事がなければ、普通の人には負けることはないだろう。


「アオ、頑張ってね」

「フラン、いっぱい応援するよ」

「ホルンも応援するね」


 そして、シロ達はアオの事を応援する事に気持ちを切り替えていました。

 アオもふるふると震えて、声援に応えていました。

 今回の武道大会、ある意味面白くなりそうです。

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