散歩の七十三話 いきなり波乱の予感

「うわあ、人がいっぱいだね!」

「流石は領都と言うべきなのか、南の辺境伯領と同じくらい広いのかもしれないな」

「本当に沢山の人種の人がいますね。シロちゃんが普通に見えます」


 東の辺境伯領に入って三日目。

 僕達は領都に辿り着いた。

 南の辺境伯領と同じく、辺境伯領内の街道は整備されていて魔物の出現も殆どなかった。

 順調に馬車は進んでいき、領都に無事に到着した。


「うーん、特にいざこざとかは起きていないね」

「そうだね。街も平和そうだ」


 シロとシロの頭に乗っているアオが周囲を見渡すけど、獣人が多い分賑やかだけどトラブルは起きていない。

 取り敢えず、先ずは冒険家ギルドに向かおう。


「わあ、人がいっぱいだね!」

「ちょうど夕方だから、依頼を終えて帰ってきた人が多いのだろうね」


 道中人に聞いて教えてもらいながら、冒険家ギルドに無事に到着。

 ギルド内は多くの人で溢れかえっていた。

 やはりここでも人間よりその他の種族が多く、特に獣人は数が多かった。

 そんな中、僕達も受付に並ぶ。

 受付のお姉さんも種族がバラバラで、ちょっとおもしろい。

 僕達が並んでいたのは、エルフのお姉さんの所だった。


「はい、おまたせしました」

「到着の手続きをお願いします。あと、南の辺境伯領のギルドマスターから東の辺境伯領のギルドマスターへ手紙を預かっています」

「確かにギルドマスター宛ですが、生憎ギルドマスターは近くの子爵領まで出張しています。明日には戻ってくると思いますので、明日の夕方に再度お出しした方が良いかと思います」

「分かりました。ご丁寧に有難う御座います」


 あらら、ちょっとタイミングが悪かった。

 偉い人だから、出張も多いのかもしれない。

 南の辺境伯領のギルドマスターも、書類処理とか大変だと言っていたなあ。


「はい、到着の手続きは以上です。他に何かございますか?」

「宿を探しているのですが、お勧めの所はありますか?」

「この時期は花見を見に来る人で宿が一杯ですので、冒険者専用の宿が良いかと思います。サクラ亭という所は多種族を受け入れていますので、おすすめかと」

「わざわざ有難う御座います。サクラ亭にしようと思います」

「ギルドからすぐ側なので、直ぐに見つかると思います」

「有難う御座います」


 ちょっと良い宿があるみたいだ。

 一般の宿はやはり花見客で一杯か。

 僕達はそんな事を思いながら、窓口から依頼の掲示板へ足を運んだ。


「何々? 花見会場の警備に定期的な会場の清掃もあるな」

「この時期ならではの依頼ですね」

「救護スタッフってのもあるよ。三人以上治癒魔法を使えて、従魔でも可って書いてあるよ」

「ちょうどEランク以上の募集だし、報酬も中々だね」

「仕事をしながら花見もできそうですし、丁度良いですね」


 中々良い依頼があって、なおかつ普通の冒険者では受けられない仕事だ。

 僕とスーは勿論大丈夫だし、シロもアオと一緒なら全く問題ない。

 窓口のお姉さんに確認したら依頼受付は今でも大丈夫らしいので、早速受付をした。

 明日の朝、念の為にギルドに来てほしいと言っていた。


 喧騒が絶えないギルドを後にして、目的地のサクラ亭に向かう。


「直ぐに見つかったね」

「本当に近くでしたね」

「というか、まさか隣だとは……」


 ギルドを出て数歩。

 あっという間に、目的地のサクラ亭に到着。

 賑やかな冒険者ギルドの隣だし、確かに一般客には敷居が高そうだ。

 

「はい、らっしゃい」


 出迎えてくれたのは、リアルクマ獣人のおっちゃんだった。

 奥からは同じクマ獣人の奥さんが顔をひょこっと出している。


「今お部屋空いていますか?」

「うーん、あるんだが直ぐにいけるのは一部屋だけだな。二段ベッドが二つあるから、三人は大丈夫だ」

 

 おーっと、ここで問題発生。

 まさかの部屋が一つだけだ。

 ちらりとスーの方を見たら苦笑していた。


「花見の季節ですし、仕方ないですよ。幸いにしてベッドはありますから」

「そうだな。あと一ヶ月でもすれは部屋は空くんだけど。冒険者も出稼ぎの奴が多いんだ」


 クマ獣人のおっちゃんが言っていたが、宿から溢れて街中で野宿になるよりずっと良いと判断した。


「では、その部屋でお願いします。宿泊プランはありますか?」

「夕食付きか付かないかだな。朝飯は、各自でとってもらうぞ」

「有難う御座います。では、夕食付きで一ヶ月お願いします。前金で払います」

「おお、前金なんて兄ちゃん太っ腹だな。少しおまけしておこう」

「すみません、有難う御座います」

「なに、後払いにして金が無いって騒ぐバカもいるからな。それにくらべちゃあ、兄ちゃん達は上客だ。ほれ、三階の一番奥の部屋だ」


 クマ獣人のおっちゃんから鍵を預かり、僕達は三階に移動する。

 この宿も全ての部屋が埋まっているなんて、すごい数の冒険者が集まっているんだ。


「取り敢えず普通の部屋だね」

「そうですね。このレベルなら全く問題ないですね」

「シロはこっちの一番上!」


 値段帯並の部屋で、シンプルな机が置いてあって二段ベッドが二つある。

 シロとアオは、早速入って右側のベッドの一番上に登っている。


「ほら、直ぐご飯だから下に降りるよ」

「はーい」


 一通りベッドでゴロゴロしたシロとアオは、二段ベッドの上からぴょんと飛び降りてきた。

 皆で一階の食堂に向かうと、そこには沢山の冒険者の姿があった。


「お、新入りか?」

「はい、今日からここにお世話になります」

「猫耳の嬢ちゃんとスライムもいるのか」

「中々面白いメンバーだな」


 既に一杯やっているのか、陽気な気分になっている人が多い。

 とはいえ、シロとアオも不審に思っていなく、僕から見ても悪い人はいなさそうだ。

 今回も当たりの宿っぽいぞ。

 僕達も席に座って料理を待つ。

 その間に、他の冒険者達と話をする事になった。

 

「あんちゃん達は何処から来た?」

「南の辺境伯領から馬車を乗り継いできました」

「そうか、この時期だと出稼ぎかい?」

「出稼ぎも一つの目的ですが、とある人にも会わないといけないので」

「ふーん、そうか」


 酔っているのもあるのか、僕が言葉を濁した人には特に言及してこなかった。

 まさかこの辺境伯領のギルドマスターと辺境伯様と会うなんて、知ったらびっくりするだろうな。

 話は、僕達がいた南の辺境伯領の事になった。


「そういや、南の辺境伯領と言えば、少し前にゴブリン騒ぎがあったけど、何か知っているか?」

「何でも若い冒険者グループが中心となって撃退したとか」

「猫耳少女とスライムが、ゴブリンジェネラル倒したとか何とか……」


 あ、話をしていた人達の視線がシロとアオに注がれる。

 必然的に、食堂にいた全員がこちらに集まってきた。

 すると、シロはゴソゴソとマジックバックを漁ってギルドカードを取り出した。


「シロとアオで、ゴブリンジェネラルを倒したよ!」

「うお、確かにゴブリンハンターの証がカードに付いているぞ」

「すげー、初めて見たぞ」


 シロとアオがドヤ顔でカードを見せると、もう冒険者が一斉に興奮してきて大変な事に。

 そのうちの一人が、更にこっちを見て言葉を続けた。


「もしや、その時にレッドスコーピオンの幹部を捕縛に貢献した魔法使いって……」

「私は補助をしただけですよ。シュンさんの魔法がトドメでしたから」

「いやいや、レッドスコーピオンの幹部とやり合っただけでもすげーよ」

「あんちゃんは何となく凄いって分かったけど、嬢ちゃんもすげーな」

「あわわわ!」


 スーが自分は全然って手を振りながら答えていたけど、それでも冒険者に囲まれてアワアワしている。

 うーん、こんな事になるとは完全に予想外だったぞ。

 知らない間に、僕達は有名人になっていた様だ。


「そういえば、にいちゃん達はどんな依頼をするつもりだ?」

「花見会場の救護を手伝う予定です。僕とスーは治癒師でもありますし、アオも回復魔法が使えますので」

「「「がっはははは!」」


 僕がこの後の予定を話すと、急に食堂にいた冒険者が笑い始めた。

 僕もスーもシロもアオも、笑い始めた冒険者を見てポカーンとしている。


「ははは、笑って悪いな」

「しかし、ざまあーだな」

「本当にざまーだ、ワッハッハ!」

「えっと、誰に対してですか?」

「そうか、にいちゃん達は知らないのか。勿論、教会に対してだよ」


 教会と獣人との間で揉めているけど、人間の冒険者も何だか騒いでいる。

 教会と獣人だけでなく、教会と冒険者の間でも何かあったのだろうか?


「実はな、今までこの領にいた治癒師のパーティが教会と揉めて別の領に行っちまったんだよ。治療は教会の範疇だなんとか叫んでな」

「で、治癒師の抜けた穴をギルドとしても探していたんだわ。そうしたら、教会が依頼料の十倍を出したら引き受けてやると上から目線で言ってきやがったんだよ」

「俺もその場面にちょうどいたが、ギルドマスターがガチギレしていたな」

「最近は教会での治療費も高くなって、俺らだけでなく街の人も教会の利用を控えているぞ」

「その為か、ポーションも不足気味でな。頭が色々と痛いんだ」


 冒険者が口々に恨み言を言い始めている。

 これは思ったよりも教会の事はまずい事になっていそうだ。


「ほれほれ、無駄口はいいが料理もできたからさっさと食べろよ」

「「「おう」」」


 ここで話を中断させるかの如く、店主が大量の料理を持ってきた。

 後ろには店主の娘だと思われるクマ獣人の二人の女性が続いてきた。

 何人かの冒険者が目をハートマークにして娘さんの事を見ているけど、肝心の娘さんはシロの前に料理を置いて笑顔でシロとアオの頭を撫でていた。


「お肉美味しいよ!」

「そうかい、いっぱい食べな」

「うん!」


 娘さんはニコニコしているシロに再び話しかけている。

 今日は平和に終わりそうだけど、明日から波乱の予感がしてならないな。

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