散歩の七十話 新しい乗客と馬車旅の再開
今日からまた別の馬車に乗り込み、二日間かけて東の辺境伯領へ向かいます。
乗客も変わり、獣人の夫婦と人間の老夫婦が一緒に乗り込みます。
「お、猫の嬢ちゃんも一緒か」
「おじちゃんもよろしくね!」
獣人の夫婦は、犬獣人とウサギ獣人。
僕達と同じく冒険者をしているそうで、一つ上のDランクだった。
「ふぉふぉふぉ、今回は冒険者が多くて安全な旅になりそうじゃのう」
「そうですわね。お爺さん」
対して人間の老夫婦は商人をリタイアしていて、今回は花見祭りの為に東の辺境伯領に行くという。
両者共に東の辺境伯領の国境で数日過ごしてから、中心地へ向かうらしい。
もしかしたら、何処かで会えるかも知れないな。
そして、シロが積極的に話しかけているという事は、今回の乗客は皆良い人の様だ。
「嬢ちゃんはゴブリンハンターか。そりゃ凄えな」
「でも、おじちゃんの方がランクが上だよ?」
「ハンターの称号を持っている者は、実際のランクよりも上に見られる。ゴブリンハンターなら、Cランク以上だな」
「そうなんだ!」
シロとアオは、犬獣人の人と冒険者談義に花を咲かせていた。
確か称号の事は聞いたけど、具体的なランクの事は知らなかったなあ。
とはいえ、元々Eランクに上がったばっかりなので、まだ高ランクの依頼は受けるつもりはないけどね。
「奥様も治癒師なんですね」
「ええ、とは言っても獣人なので魔力は少ないけどね」
「私も最近まで上手く魔力を扱えずに苦労しました。まだまだ修行中です」
スーはウサギ獣人の奥さんと、同じ治癒師同士仲良く話をしている。
しかし、奥さん凄いなあ。
何が凄いかって、スタイル抜群なんですよ。
スーと同じ魔法使いの服を着ているのに、胸の所なんかパツンパツンですよ。
「そうかい、ハンバーグが新しい料理だと噂になっていたが、お主が開発したのか」
「あれは、良い物だわ。私達年寄りでも、お肉を美味しく食べられるわ」
「簡単な料理なんですけどね。でも、好評で良かったです」
そして僕はと言うと、老夫婦と共に料理談義になっていた。
どうもハンバーグが段々と広まってきているらしく、この老夫婦も食べた様だ。
でも、まだ市中に広まってはいないはずなのに、もう食べたんだ。
もしかしたら、商会でも上位の人なのかもしれないぞ。
「あ、イノシシだ!」
「どれ、ちょっくら先輩としての威厳を見せないとな」
森の中の街道を進んで行くと、一頭のイノシシが森の中から現れた。
何だかこのイノシシ、やる気満々だぞ。
「若い個体だな。血気盛んでご苦労なこった」
「おお! 大きい剣だ!」
犬獣人の旦那さんが持っているのは、大きな大剣だ。
こっそり鑑定で調べたけど、バスタードソードというらしい。
ひょいっと馬車から飛び降りると、ちょいちょいとイノシシを挑発している。
「ブモー!」
「よっと」
突進してきたイノシシをひらりとかわすと、すれ違いざまに剣を一閃。
あっという間にイノシシの頸を切り、イノシシはなすすべなく倒れた。
「おお、おじちゃん凄い凄い!」
「ははは、これ位は朝飯前だ」
シロとアオは、旦那さんの剣技を見て大興奮。
どう見てもDランク以上の腕前はありそうだぞ。
「ふむ、無駄のない見事な剣技だ」
「凄いですね。最小の動きでイノシシを仕留めています」
「しかも、頸の血管を正確に切り裂いていますね」
「ほほう、お主らもそこまで分かるとは。中々の者だな」
僕とスーが旦那さんの剣技の感想を言っていると、老人の旦那の方が僕達の事を評価してきた。
あれ?
この人商人じゃなかったっけ?
何で剣の事に詳しいのだろう?
「おじちゃん、アオが血抜きしても良いかって聞いているよ」
「おお、頼めるか? スライムの血抜きには興味あるな」
前方ではウサギ獣人の奥さんとシロとアオが、旦那さんの方に駆け寄っている。
早速アオがイノシシの血抜きを始めている。
ガサゴソ。
「あ、オオカミだ。今度はシロが倒す! とー!」
「おい! って、速いし強いなあ」
「本当ね。少女とは思えないくらい強いわ」
どうもイノシシの血につられてオオカミがやってきたのだが、シロの強さを証明するただのターゲットになってしまった。
哀れ四頭のオオカミは、シロの蹴りによってあっという間に首の骨を折られてしまった。
「アオ、このオオカミも血抜きをお願いね」
ずりずりとオオカミの足を持って引っ張って来たシロは、アオに追加で血抜きを頼んでいた。
既にイノシシの血抜きを終えていたアオは、任せろって感じでオオカミの血抜きを始めた。
「ほほ、嬢ちゃんもかなり強いのう。こりゃ道中が楽しいわい」
「ええ、本当ですわね」
シロの強さに、老夫婦もにこやかに笑っていた。
確かにこれだけのメンツがいれば、道中は安全だし派手な戦闘も見る事が出来る。
下手な格闘を見るよりも楽しめそうだ。
しかし、シロとアオとスーもだいぶ仲良くなったというか、呼び方も親密になってきた。
何故か僕の呼び方は変わらないけどね。
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