千百三十三話 ある意味ジンさんの独壇場

 しかし、ジンさんのグタグタ劇場はここからが本番だった。


 シュッ、ざばーん!


「おお、お魚釣れたよ!」

「大きいお魚が釣れたの!」


 リズとエレノアは、最初の一投で見事に魚を釣り上げた。

 プリンも魚を釣り上げて、器用にリールを触手で巻いていました。

 すると、他の面々もわらわらと集まってきて、代わる代わる釣り竿を借りて魚釣りをしていました。


「釣れたー!」

「私も釣れたよー!」

「おさかなー!」


 ミカエルとブリットだけでなく、なんと子ども用の釣り竿を使っていたエリちゃんまでもが魚を釣っていたのだ。

 流石にエリちゃん一人で釣りは危ないのでルーシーお姉様が一緒についていたけど、それでも見事に魚を釣り上げた事実は変わりありません。

 エリちゃんたちは、ニコニコしながら釣った魚が入ったバケツをケイマン男爵家の使用人に渡していた。

 釣った魚は、さっそく下処理されて昼食に出てくるそうです。

 そんな中、未だに当たりのない人がいました。


「おとーさん、何で魚を釣らないの? 湖に糸を垂らしているだけだよ?」

「だー! 全く釣れないんだよ!」


 レイカちゃんが思わずジンさんにツッコミを入れていたのだけど、残念ながら開始から釣りをしていたはずのジンさんに未だに当たりはなかった。

 高級品釣り竿を使ってやる気満々だったのに、今は完全に焦りの色が表情に滲み出ていた。

 そんなジンさんに、レイカちゃんがあることを頼んでみた。


「レイカ、おとーさんの釣り竿でお魚釣ってみたい!」

「良いけど、釣れるか分からないぞ」

「だいじょーぶ、多分釣れるよ!」


 レイカちゃんは、自信満々にジンさんから釣り竿を受け取っていた。

 そして、第一投目で本当に当たりを引いていたのだ。


 ウィーン!


「「「凄い凄い、自動で動いているよ!」」」

「な、何故……」


 全自動の魔導具リールもキチンと動いていて、ミカエルたちがリールの動きに大はしゃぎだった。

 一方、ジンさんは娘が僅か一回目で魚を釣り上げてしまい、思わず呆然としてしまった。

 そして、レイカちゃんのトドメの一言が入りました。


「おとーさんの釣り竿、簡単にお魚が釣れるね!」


 グサッ。


 レイカちゃんは満面の笑みでジンさんに釣り竿を返していたけど、釣り竿を受け取ったジンさんの笑顔は完全に凍りついていた。

 そんなジンさんを尻目に、レイカちゃんたちはまた釣り上げた魚が入ったバケツを嬉しそうにケイマン男爵家の使用人に渡していた。

 昼食で食べる分の魚は十分に取れたので、塩焼きにしてくれるらしい。

 ちびっ子たちは、目の前で焼かれていく魚を興味深そうに見ていた。

 ちびっ子たちの側にはルーシーお姉様たちやリズたちもいるし、更にスラちゃんとプリンもいるから問題ないでしょう。

 というか、釣りに飽きちゃったみたいですね。

 ドラちゃんたちも、湖から上がってきて魚を焼くのを見ています。


「ジン、この釣り竿普通に釣れるよ?」

「そうね。何も問題なさそうに見えるわ」

「ど、どうして……」


 一方、桟橋ではレイナさんとティナおばあさまがジンさんの高級品釣り竿を借りて釣りをしていました。

 二人とも普通に魚を釣っていたので、ジンさんは思わずガクリと膝をついていました。

 そして、根性で魚を釣り上げると、一人桟橋に残って釣りを続けていました。


「「「お魚おいしーい!」」」

「グルル!」


 他の人たちは、もはやジンさんのことを気にすることもなく魚の塩焼きを美味しそうに食べていました。

 ちなみに、ドラちゃんも岸から投げ釣りをして普通に魚を釣っていました。

 なので、結果的に一匹も釣っていないのはジンさんだけでした。


「ジン、昼食の時間よ」

「くそー! 何で釣れないんだよ!」


 そして、ジンさんの心の叫び声はレイナさんが昼食だと呼びに行くまで湖に響き渡っていました。

 残念ながら、この人ジンさんの釣果はボウズになりそうですね。

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