六百十二話 早速仕事を始めます

 そして、昼食を食べたら宰相と共に宰相の執務室に向かいます。


「アレク君、憂鬱そうな顔をしておるのう」

「理由を知っているのに聞かないで下さいよ……」

「ははは、そうだな」


 宰相、僕が不機嫌な理由を知っているでしょうが。

 昼食時に陛下も来て、全ての経緯を知っているって言うし。


 カチャ。


「宰相、お帰りなさいませ。アレク殿下、お待ちしておりました」


 宰相の執務室には何回か行った事があるから、出迎えてくれた職員とも既に顔見知りです。

 小さな机と椅子が用意されていて、事務用品も揃っていました。


「まあ、毎日仕事をしろという訳では無い。週に二日程来て、徐々に仕事を覚えていけば良い」


 ほっ、良かった。

 毎日仕事をしたら、他の事が出来なくなるもんね。


「仕事も、前に見てもらった書類整理が中心だ。難しい事は、これからだ」


 やった事がある仕事なので、早速席について開始します。

 と、ここで宰相が一言。


「儂はこれから会議だから、後はよろしくな」

「えっ?」


 パタン。


 言うだけ言って、宰相は執務室から秘書を連れて出ていきました。

 流石に色々な事をぶん投げ過ぎとは思ったけど、考えても仕方ないので僕は仕事を始めました。


 カリカリカリ。


「すみません、これって出し直しですよね?」

「ええ、そうです。必要事項が書かれていませんね」


 僕は職員と確認をしながら、書類を振り分けます。

 宰相の所までくる書類なので殆どミスはないんだけど、たまに間違った書類が混ざっているんだよね。

 休憩を挟みながら二時間程書類整理をして、皆でお茶タイムです。


「アレク殿下、お疲れではありませんか?」

「いえ、いつもの宰相からの無茶振りに比べれば、なんて事ありません」

「アレク殿下も中々言いますね」


 皆でお茶を飲んでお菓子をもぐもぐしていますが、未だに宰相が執務室に帰ってきません。

 どこに行っちゃったのかな?


「宰相なら、本日は会議の後に軍の視察に行きそのまま帰宅されます」

「えっ?」

「大丈夫です。よくある事ですので。明日朝纏めて書類は処理されますので」


 宰相はいい年なのに、未だに現場第一主義らしい。

 そういえば、事件があった時も良くついてきたもんね。

 こればっかりは仕方ないと思いつつ、僕は返却する書類を手にしました。


「今日は内務と商務ですね、持っていきます」

「お気をつけて行ってらっしゃいませ」


 前に宰相の仕事のお手伝いをした時も、一人で書類を各部署に持っていきました。

 僕は他の職員に見送られながら、内務と商務の部署に向かいます。

 とはいえ、念の為に護衛はつけた方が良いというので、ランカーさんがついてくれました。

 先ずは内務ですね。


「こんにちは」

「おや、アレク君ではないか。そういえば、今日から宰相の手伝いをするって聞いていたなあ」


 内務の部署に行くと、たまたまいた内務卿が僕の事を出迎えてくれました。

 しかし、閣僚も僕が仕事を始めたのを知っているのか。


「じゃあ、内務卿に書類を渡します。計算間違いがあって、やり直しになります」

「ふむ、どれどれ? はあ、これは酷い、一から書類を作り直しだな」


 あ、内務卿がため息をつきながら、書類を作った職員と上司をジロリと睨みました。

 職員と上司は顔が青くなっちゃったけど、こればっかりは仕方ないね。

 次は、キチンとした書類を作らないとね。

 この場は内務卿に任せて、次は商務ですね。


「こんにち……あっ、商務卿こんにちは」

「アレク君、どうしたのか? ああ、今日からだったね」


 商務卿も、職員と雑談をしながら僕を出迎えてくれました。

 僕がここに来た理由も直ぐに分かってくれたので、商務卿は直ぐに書類を受け取ってくれました。


「添付書類が抜けていました」

「どれどれ? あー、確かに抜けがあるね。アレク君、わざわざ済まないね」


 商務卿も、直ぐに書類の不備を見つけました。

 作り直しレベルじゃないので、直ぐに出し直し出来そうですね。

 この書類もこれで終わりで帰ろうとしたら、商務卿が僕に声をかけてきました。


「アレク君、安息日にレイカの顔を見に行く予定だから」

「じゃ、ジンさんとレイナさんに伝えておきますね」


 商務卿はニコリとしているけど、孫のレイカちゃんにしつこくして嫌われなければ良いなあ。

 そんな事を思いながら、僕は宰相の執務室に戻りました。

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