第三百五十四話 人質救助作戦

 レイアの後ろから、真っ青な表情の村長がやってきた。

 手紙を持つ手もガタガタと震えている。

 俺は、村長から手紙を受け取って中身を読み始めた。


「女の子を預かった。返して欲しければ、三十人分の食料を持ってこい。なお、受け渡しは女性を指名する」


 如何にもといった内容だが、明らかな脅迫だ。

 震えている村長が、いきなり土下座し始めた。


「どうか、孫をお救い下さい。怪我人の治療にと薬草を取りにいった所を攫われた様です」


 そうか。攫われたのが自身の孫だから、村長はあんなにも震えていたのか。

 ここで巡回から戻ってきたドラコ達が、怒りの表情でこちらにやってきた。

 丁度シルク様もいるから、聞いてみよう。


「ドラコにシルク様。ベリルとフウは、匂いから人を追うことはできますか?」

「できるって。だから、何か匂いがありそうな物を出してだって」

「フウも同じ事を言っています。こんな非道な事は許せません」


 おお、できるのか。

 それでは作戦開始だな。


「村長、お孫さんの服とかありますか? できれば洗っていない物を。匂いで探します」

「直ぐに持ってきます」


 村長は老人ながら、走り出していった。

 そして、直ぐにワンピースを持ってきた。

 

「年齢と名前は分かりますか? 後、特長もあれば教えて貰えばと」

「孫の名はユーリです。紫のセミロングで、年は今年九歳になります」

「僕と同じ歳じゃないか」

「ますます許せませんね」


 おお、いつの間にかクロエにドリーやアメリア達もきていた。

 同じ年齢の子が攫われたとあって、怒り心頭の様だぞ。

 その間に、ベリルとフウは匂いを覚えたようだ。


「よし、ベリルとフウにホワイトとスラタロウにタラちゃんも同行してくれ。場合によっては、人質をここまでワープで連れてきてくれ」

「フランソワも行くのじゃ。拠点襲撃には、妾も参加するぞ」


 おお、ビアンカ殿下も青筋たてる程に怒っている。

 そっか、ビアンカ殿下とも同じ年齢になるのか。

 ベリルとフウは、タラちゃん達を乗せると、あっという間に走り去っていった。


「あの、孫は大丈夫でしょうか?」

「心配はいらん。この国で一番の強者達が動くのだ。直ぐに解決するだろう」

「はあ」


 村長は、公爵が言った事が信じられないのだろう。

 少し気の抜けた返事をしていた。

 と、ベリル達が現地に向かって僅か十分。

 ホワイトとスラタロウが、人質にされていたと思わしき人を何人もワープで連れてきた。

 その中には、村長の孫も含まれていた。


「これは、襲撃の際に攫われた可能性のある村人です。おお、孫も無事です」

「直ぐに治療をします。ビアンカ殿下にドラコ達、後はお願いします。勿論、生かして連れてきて下さい」

「分かっておる。生かさず殺さずじゃ」


 ビアンカ殿下、程々に頼みますよ。

 怒れる学園入園組は、ホワイトとスラタロウと共に誘拐犯のアジトにワープで向かって行った。

 その間に、人質にされていた人の治療を行う。

 どうやら、酷い目にもあわされてなかった様だ。

 

「う、うーん。あ、おじいちゃん!」

「おお、ユーリよ。良かった、本当に良かった」

「うわーん、怖かったよ」


 ユーリちゃんは、目を覚ますと直ぐに村長に抱きついた。

 そして、村長と共にわんわんと泣いている。

 他にも助け出された人の家族がやってきて、再会を喜んでいた。

 すると、突然大きな音が遠くからした。


 ズドーン、ズドーン。


 遠くの山の麓で大きな土煙が上がっていた。

 おーお、派手にやっているな。

 あ、稲光がしたから、恐らくビアンカ殿下が雷魔法を使ったのだろう。

 激しい戦闘の様子に、村長と孫はびっくりしていた。


「だ、大丈夫でしょうか?」

「あんなにも激しい戦闘ですよ」

「そうですね、やりすぎなければ良いのですが。ああ、向かった者に怪我はないですよ」

「「はあ」」


 相手は村を襲撃したのもあって村長と孫は信じられないでいるが、こちらは何も心配はしていない。


「戻ったのじゃ」

「結構いっぱいいたよ」

「取り逃しも周りにいるかもしれませんので、これから巡回に参ります」

「ほらね」

「凄い……」


 ビアンカ殿下とドラコ達が、捕縛した襲撃犯と共に戻ってきた。

 その数、合わせて三十人以上。

 更にドラコ達の鼻には、他の襲撃犯の匂いもとらえたという。

 すぐさま、スラタロウやホワイトと共に襲撃犯を探しに戻った。

 あまりの出来事に、村長の孫はびっくりしていた。


「軍務卿。人数が多いので、襲撃犯は全て王都へ送るでいいですか?」

「勿論だ。人神教の残党の上に、重犯罪者だ。厳しい取り調べが必要だな。王都には儂も向かおう。陛下にも報告しないとならぬ」

「儂も向かおう。ノースランド公爵領だけの問題ではないぞ」


 軍務卿からもオッケーを貰ったので、襲撃犯を纏めて王城の収容所に連れて行く。

 既に連絡が来ていたのか、襲撃犯の収容はスムーズに行われた。

 その足で、軍務卿と公爵と共に陛下の執務室に向かった。

 宰相もいたので経緯を話すと、二人とも難しい顔をしていた。


「そうか。サトーと公爵が向かったタイミングが良かったな」

「一日遅ければ、もっと被害が増えたでしょう」

「ともあれ、残党もいるとなると警備を増やさないとならない。幸いにして、あそこは国の直轄扱いだ。軍の選定が終わるまではサトー達に頼むが、直ぐに駐屯地にノースランド公爵への街道の整備にも取り掛かろう」

「私も陛下の方針に賛成です。本来は公共工事でやりたいのですが、事は至急ですので」

「公爵側では公共工事での作業は認めよう。といっても、サトーが本気を出せばあっという間に出来上がる気がするがのう」


 という事で、本来は公共工事でやる予定だった街道の整備を急ぎ行うことに。

 防壁作成に駐屯地作成も必要だけど、そこは村人の手も借りないとならない。

 その辺りのバランスは、ビアンカ殿下とも相談しよう。

 と、ここで王妃様達が部屋に入ってきた。


「サトー、賊は捕まえましたか?」

「人質犯も含めて、三十人程お城の収容所に収容しました」

「人質とは、何かあったの?」

「はい。ビアンカ殿下と同じ年齢の女の子を人質にとって、物品を要求してきました。勿論、解決済みです」

「そう、ふふふ。これは、じっくりとお話しないとね」


 あ、人質の話を聞いたら王妃様達の怒りに火がついた様だ。

 とてもいい笑顔のまま、部屋を出ていった。


「サトーは暫くは現地滞在だな。ビアンカもつける」

「軍の駐留部隊の選定に入ります」

「公爵領側の準備もしないと」


 軍務卿は王城に残り、公爵も戻るというので護衛と共に公爵領へ送ってから、港町に戻った。

 戻ったが、ビアンカ殿下達はまだ襲撃犯を探しているぽいな。

 先に村長に話をしておこう。


「村長、陛下と話をしてきました。港町の防衛として、防壁の作成に取り掛かります。また、軍も駐留するらしいので、駐屯地の作成も行います」

「おお、それは有り難い」

「勿論、ある程度の防衛力がつくまで我々が警護にあたります。それからノースランド公爵領への街道も整備します。ゆくゆくは王都への街道も整備します。この辺は、先遣隊から聞いているかと思います」

「はい、伺っております」

「各作業に村の方も参加して欲しいです。公共事業なので、賃金もお支払いします」

「それは大変に有り難い。我々も是非とも協力します」


 村長との話はこの辺りでいいか。

 まずは、村の防衛力をどうにかしないと。

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