第三百四十六話 家族風呂

「ほら、ちゃんと体を洗ってから入るんだよ」

「「「「はーい」」」」


 家族部屋の外にあった家族風呂に入るため、先ずはミケ達の体を洗う。

 ミケ達は木で作られたアヒル隊長をそれぞれ持ってきて、桶の中でプカプカと浮かべていた。

 タラちゃんとポチにホワイトも体を洗っていて、一足早く桶にくんだ温泉を堪能していた。

 スラタロウは湯船の中に入っているが、お湯と同化してとても見難いぞ。

 そんな時に、家族風呂に通じる扉があいた。


「「「お、お待たせしました……」」」

「お、おう」


 そこには、湯浴み着に着替えたエステルとリンとフローレンスがいた。

 三人の顔は真っ赤だけど、俺も顔が赤いのかもしれない。

 三人も体を洗い始めたのだが、何故か無言でいるぞ。


「お兄ちゃん、背中洗ってあげるね」

「ララも洗うの」

「リリもやるの」

「レイアも」


 子ども達は、そんな雰囲気なんてお構いなしに俺の背中を洗っていく。

 すると、レイアが三人に向かって話しかけた。


「エステルは、パパに洗って貰う?」

「ふえ!」

「そ、そんな」

「大丈夫ですわよ」


 レイアのやつ、分かっていて聞いていたな。

 エステル達は、動揺した感じで返事をしていた。


「なら、ミケがお姉ちゃんを洗ってあげる!」

「ララも洗うの」

「リリも」


 俺の背中を洗い終えたミケ達が、エステルとリンとフローレンスの所に突撃していった。

 うん、俺はその間に泡を流して湯船に浸かろう。


「パパ、いいお湯だね」

「そうだね、気持ちいいね」


 お湯の温度も丁度よく、とっても気持ちいい。

 エステルの所に行かなかったレイアを、膝の上に乗せて湯船に使っている。


「「「とー!」」」

「し、しつれいします」

「お父様以外の男性とお風呂に入るのは初めてです」

「私は、生まれて初めての経験です」


 そこに洗い終わった三人とミケ達が湯船に入ってきた。

 見たこともない位に緊張していて、何だか新鮮だ。


「お姉ちゃん、お湯気持ちいい?」

「ええ、とってもいい気持ちですわ」


 リリとフローレンスが話をしているが、少し落ち着いてきた様だ。

 エステルは減量に成功したのか、いつものスタイルに戻っている。

 リンは髪を纏めているので、何だか新鮮な姿だ。

 フローレンスはスタイルがいいから、自己主張の激しいところが湯浴み着でも全く隠れていなかった。


「お兄ちゃん、顔が赤いよ」

「大丈夫だ、大丈夫」

「?」


 ミケが顔の赤さを指摘してきたけど、今日ばっかりはしょうがないだろう。

 ふと夜空を見上げると、空には満月がのぼっていた。

 雲一つなく、とってもいい景色だ。


「結婚したあとも、皆で温泉に来たいよね」

「予約人数を間違えない様にしないと」

「うぐ、そこは大丈夫だよ」

「今度は私がフォローしますから、大丈夫ですわ」

「そうだな。リンが頼むなら大丈夫だな」

「ちょっとサトー、それはどういう事?」

「おいこら、ちょっとやめなさい!」


 エステルが批判されたのに怒って俺に抱きついてきたけど、湯浴み着を通して柔らかい感触が伝わってくる。

 エステルは抱きつき癖があるから、俺が言っても全然離れないぞ。

 と、ここで女将さんの声が扉越しに聞こえてきた。


「お食事の用意が出来ましたので、そろそろお上がりください」

「「「「「はーい」」」」」


 ミケ達に混じってエステルも返事をする。

 今晩の夕食と聞いて、スラタロウもテンションが上がってきた。


「じゃあ、先に出るから。皆はどうするの?」

「もう少ししたら出るよ」

「ミケはもう出る!」


 ということで、ミケ達とタラちゃん達と一緒に湯船からでて、先に着替えをしておく。

 お、浴衣なんて久々だな。


「ほら、ミケもこれに着替えるんだよ」

「おー、新しい服だ!」

「お土産で売っているかもしれないな」


 そんな事を話しながらミケ達と一緒に着替えて、先に部屋に戻った。


「「「「おー!」」」」

「まだ全員揃っていないから、食べちゃ駄目だよ」

「「「「はーい」」」」


 既にテーブルの上には料理が並んでいたが、まだエステル達が来ていないのでミケ達には待ってもらう。

 スラタロウは、出されている料理を興味深く見ている。

 懐石料理だから、初めて見るのもあるだろう。

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