第三百十二話 ギース伯爵領とスラタロウ無双

 ギース伯爵領にも、ビアンカからの情報は伝えられた。

 だが、もう少し厄介な物がギース伯爵領に現れていた。


「まさか、ガーゴイルが数百体も現れるとは。王都に現れた時は、数十体だったぞ」


 軍の幹部でもあるアイザック伯爵は、息子がギース伯爵家に婿入りする事と前回のゴレス侯爵の反乱対応にあたった事もあり、再びギース伯爵領での指揮をとることになった。

 援軍として、あの元ゴレス侯爵家の娘と配下だった家の娘がライズ伯爵家から派遣された。

 この者共は、やはり実家が犯した罪の意識を強くもっていて、誰かの役に立ちたいと必死に訓練を重ねていた。

 ここに来たときも、少し悲壮な思いでもあった。


「大丈夫、そこまで気を張る必要はない。強固な防壁もあるし、あのガーゴイルをどうにかすれば大丈夫だろう」


 アイザック伯爵と一緒に、アイザック伯爵の息子ダニエルと、婚約者のギース伯爵家令嬢のヘレーネがいる。

 厳密にはギース伯爵家の当主はヘレーネの弟であるノアなのだが、ノアはまだ乳飲み子。

 なので、当分はダニエルとヘレーネで内政を行うことになる。

 勿論、ノアは屋敷で厳重な警護の下にいる。

 そんな二人に心配ないと、声をかけてやる。


「アイザック伯爵様、スラタロウが王都から助っ人を呼んでくると言っていますが、如何しますか?」

「是非呼んでくれ。我々でも対応可能だが、被害が大きくなる懸念がある」


 旧ゴレス侯爵家のアメリアが、アイザック伯爵に助っ人を連れていいかの許可を求めた。

 魔物と魔獣は、全て合わせても二千はいない。

 しかし、あのガーゴイルはかなり厄介だ。

 直ぐにアイザック伯爵は、助っ人を呼ぶ事を許可した。

 そして、王都まで長距離ワープをするのが、どこにでも居そうな青いスライム。

 しかし、既に数々の戦功を上げていて、軍では歴戦の魔法使いとの認識でいる。

 超絶な料理人の側面もあるが、今日は置いておこう。

 そのスライムが率いるスライム軍団。

 希少なホーリースライムとダークスライムが混ざっているあたり、とんでもない戦力なのかもしれない。

 更にアメリア達の腕の中には、ニードルラットが抱かれている。

 このネズミもかなりの魔法使いらしい。


「「「ねーね、助っ人にきたよ!」」」

「えっ? マシューが助っ人?」

「そうだよ!」


 そして、スラタロウが王都から助っ人を連れてきたのだが、今年四歳になるアメリア達の弟だった。

 はっきり言って助っ人になるなんて思っていないのだが、どうもあのスライムは自信ありげだ。

 アメリア達の弟はスライムと何かを話したと思ったら、急に膨大な魔力を溜め始めた。

 

「スラタロウ、あの空に浮かんでいる変なのをやっつければいいの?」


 アメリア達の弟は、魔力を溜めながらスライムに確認を取っていた。

 スライムがふるふると頷くと、アメリア達の弟は空に浮かぶガーゴイルの大軍めがけて一斉に魔法を放った。


「「「えーい、てんぺすと!」」」

「は? テンペストだと?」


 アイザック伯爵は我が耳を疑ったが、小さな男の子から放たれたのは威力は劣るが間違いなく風魔法の最上位に位置するテンペスト。

 それが、ガーゴイルめがけて三つも放たれた。

 不意打ちを食らった形のガーゴイルは、なすすべなく風魔法で切り刻まれていく。

 そして、数百体いたガーゴイルはあっという間に数体を残して塵となった。

 残ったガーゴイルも、アメリア達の魔法で全て落とされた。


「「「じゃあ、ねーね頑張って!」」」

「今回は緊急だけど、普段はテンペスト使っちゃ駄目だからね」

「「「はーい!」」」


 そう言って小さな男の子達は、スライムに連れられて再び王都に戻っていった。

 そして、戻ってきたスライムは白いホーリースライムと黒いダークスライムと何かを話して、魔獣と魔物の元に向かっていった。

 そしてスライムとホーリースライムが、魔獣の群れに聖魔法を放った。

 あっという間に魔獣から人になるのと、魔獣のままの物に分かれた。

 続けざまに、スライムとダークスライムが別の魔法を唱えた。

 すると、全ての魔獣と魔物に加えて、人に戻った者も眠りこけてしまった。

 まさか、この数を全て眠らせたとは。

 いや、いくら特殊スライムとの合同魔法とはいえ、ほぼ溜めなしで複数魔法を使うとは。

 何とも恐ろしいスライムなのだろう。


「兵よ、人に戻った者を保護せよ。魔獣と魔物はそのままで良い」


 アイザック伯爵は我に返って、直ぐに兵に指示をだした。

 兵も直ぐに動き出して、人に戻った者を救助した。

 全員で二百人程が人に戻り、程なく全ての人が救助された。

 誤って兵が魔物の頭を蹴飛ばしたが、魔物は全く起きる気配がない。


「アイザック伯爵様、スラタロウが後は魔法の飽和攻撃を行って、漏らした分を兵で討てば良いそうです」

「あ、ああ、分かった。先ずは魔法攻撃を許可しよう」


 アメリアより、眠って動かない魔物と魔獣への攻撃許可を求められたので許可をすると、アメリア達とスライム軍団とニードルラットに加えて、息子のダニエルと婚約者のヘレーネも魔法の詠唱準備をし始めた。

 アイザック伯爵は、あわせて魔法兵にも魔法の準備をさせた。


「よし、一斉に放て!」


 アイザック伯爵は、魔法を溜めていた全員に対して攻撃を指示した。

 眠っている無防備な魔獣と魔物に対して、容赦なく魔法が浴びせられる。

 物凄い爆撃音が止むと、魔物と魔獣の成れの果てが転がっていた。

 しかし、まだ攻撃は終わっていなかった。


「アイザック伯爵様、最後にスラタロウが魔法を放って綺麗にするそうです」


 綺麗に?

 アイザック伯爵は一瞬何を言っているかわからなかったが、直ぐに状況を理解した。


 スドゴーン!


「な、何なんだあの魔法は?」


 アイザック伯爵は目が点になった。

 スラタロウが放ったのは炎系の爆発系魔法なのだが、全く威力が違いすぎる。

 魔物と魔獣は綺麗に消え去り、とても大きなクレーターが誕生していた。

 唖然とするアイザック伯爵と兵を横目に、あのスライムがクレーターの側まで移動すると、今度は大きな穴を綺麗に平らにしてしまった。

 そして、何食わぬ様子でこちらに戻ってきた。


「アイザック伯爵様、後処理も終わりました。あと、私達が魔法を放っている間に、スラタロウがエリアヒールで救助した人々の治療も行っています」


 確かに一斉に魔法を放っている最中に、スライムが一瞬いなくなっていたのをアイザック伯爵は見ていた。

 あの瞬間に、二百人の治療をしていたとは。

 仲間のスライムとふるふると震えているが、アイザック伯爵はとんでもない物を見てしまったといった感じだった。

 

 後始末もやる必要がなくなったので、兵に警戒を命じつつ各所に信じられない結果の報告を送った。

 すると、全ての所よりスラタロウならそのくらいはすると返信があった。

 ギース伯爵領の人神教国への対応は、小さな男の子達とスライムのとんでもない魔法によって達成されたのであった。

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