第三百三話 またしても不穏な予兆
「うーん、朝か」
少し忙しい日が続いていたけど、今日はお休みの日。
ゆっくり寝ようと思ったけど、少し暑くて起きてしまった。
「「「ぐー、ぐー」」」
俺の寝ているベットの上には、子ども達が寝ている。
ミケやララとリリとレイアは、いつも一緒に寝ている。
今日は更に、フェアとオリヴィエも一緒だ。
なので、結構大きいベットでもぎゅうぎゅう詰めだ。
フェアとオリヴィエは、寝る時に色々な人の所に行っている。
何故か、俺の所に行くのが一番多いけど。
リンやフローレンスの所に行くのも多いが、最近はエステルの所に行かなくなっている。
「何で、私の所に来ないのよ!」
って言うけど、エステルが寝るときに子ども達の事を構いすぎるからだぞ。
前にも同じ事をして他の子どもからも逃げられているのに、何故学習しないのか。
「おはようございます」
メイドから声をかけられたが、実はうちのお屋敷で研修しているマーメイド族のメイドさん。
ルシアの母親に侍従不足を相談したら、先ずはということで三人送ってくれた。
収穫祭の後に、シルク様の所で働く予定だ。
「おはようございます、サトーさん」
「おはよー!」
「おはよう、リン。今日はコタローと一緒だったか」
俺に続いて、リンとコタローが起きてきた。
最近コタローは、リンと寝ることが多い。
ちなみにマチルダはフローレンスと寝ることが多いのだが、フローレンスは朝早く起きるのでマチルダはまだ寝ている。
「おはようございます」
「おはよー」
段々と皆も起きてきた。
さて、今日は一日ゆっくりとしていよう。
「そう思っていたのに、何でこんなことになっているのかな……」
お昼ごはんを食べようとしたら、何故かギルドから直ぐに来てくれと連絡があった。
今日はミケ達が冒険者活動に行っている。
とは言っても、いつもの誰もやらない低報酬の依頼をこなしに行っているだけだし、トラブルなんて起きようもないと思うけど。
急いで昼食をかきこんで、エステルやリンと共にギルドに向かった。
「つまり、こちらは問題ないと」
「はい。むしろミケ様達は被害者です」
ギルドの個室に通されると、プリプリしているミケとそれをなだめているシルク様の姿があった。
二人共ソファーに座っており、反対側にはしょぼんとした二人の少年に一人の少女が座っていた。
俺達も、ソファーに座って話を聞くことに。
ちなみにうちの他のメンバーは、午後に予定されていた依頼をやりに行ったという。
待っている人がいるから、こればかりは仕方がない。
「すみません。うちのメンバーの一人がミケちゃんに絡みまして、止めに入ったシルクちゃんを突き飛ばしてしまいました」
反対側に座っていた少女が、ペコリと謝りながら話し始めた。
このメンバーは元々田舎に住んでいて、最近王都にやってきた若者。
歳は、エステルやリンよりも一つ下になる。
ここにいない男が、田舎生活は嫌だと都会で一旗あげるつもりだったという。
うーん、冒険者を志すのによくあるパターンだな。
この三人は、単に都会生活がどんなものかを体験したかったらしい。
なので、冒険者にこだわらず王都で仕事ができればそれでいいと思っていた。
しかし、王都にきて初日に観光ついでに貴族街を見てしまったのが良くなかった。
すっかりその男は興奮し、夢に向かって火がついてしまったという。
「しかし、新人冒険者の仕事はご存知の通り大変なものばかり。あいつは、直ぐに一攫千金ができると思っていた様です」
「何とかGランクは卒業しFランクになったのですが、今度はいきなり一つ上の依頼を受けだしたんです」
「元々私達は実力が無い事が分かっていたのです。しかし彼は意固地になっていました」
そして、案の定依頼は失敗。
それでも彼は、無理な依頼を勝手に受けてしまった。
またもや依頼は失敗。
連続での失敗にこの子達は彼を止めようとしたのだが、それでも彼は無理な依頼を受けようとしていた。
「それで揉めているところに、ミケちゃん達が依頼をこなしてギルドの受付に帰ってきたんです」
「小さい子どもの集団で、ランクの低い上に依頼の報酬も安いもの。あいつは、ミケちゃん達が自分達よりもランクの低い奴らだと、自分の事を棚に上げて笑ったんです」
「そうしたら、逆に周りの冒険者達から笑われて。ミケちゃん達は、もうすぐBランクを目指せる二つ名付きの冒険者だって。人を見た目で判断するなと言われてました」
ミケ達は王都の冒険者ギルドの常連で、他の冒険者にも顔がきくからな。
荒くれ者にも間違えられそうな顔の男にも普通に話をするし、ある意味彼らの心の癒やしである。
そして、その男がミケに近づいたそうだ。
「あいつはミケちゃんに向かってギルドカードを出せと、そう言ったのです。慌てて俺達は、あいつを止めに行きました」
「その時から、ミケちゃんはあいつのことを怪しんでいて。他の子も不審に思っていました」
「ミケちゃんは、彼の事を不審に思いながらも冒険者カードを見せてくれました。でも、彼は信じられずにそのカードは偽装だと言ってしまったのです」
うわー、それは言っちゃ駄目でしょう。
ミケばかりか、ギルドもバカにしている事になるな。
エステルとリンも、アチャーって苦笑いをしているよ。
「そうしたら、ミケちゃんが彼に向かって悪い人の匂いがすると言ったのです。そうしたら彼が激怒しまして」
「彼が怒ったのもあって、ギルドの職員や周りの冒険者が動き始めました」
「そこに私達とシルクちゃんがなだめに入ったのですが、彼は小さい子にバカにされたと思ったのか、シルクちゃんを突き飛ばしたんです。それで、ギルドに拘束されました」
成程、そういう訳か。
彼らはシルク様を突き飛ばしたので、周りの人が動いたと思ったのだろう。
実際にシルク様は、まだ八歳の少女だからな。
だけど、ギルドの職員と冒険者は別の理由で動いたのだろう。
「ミケ、シルク様。もしや、絡んできたやつって」
「悪い人の匂いがしたよ!」
「その、恐らく犯罪者かと」
「「「え?」」」
彼らはとってもビックリしている。
いくら色々とあったとはいえ、まさか仲間が犯罪者と言われたのだから。
「我々も、実は動き出したのはミケ様の悪い人という一言でした。他の冒険者も同じです。そのために、彼は聴取を受けています」
ギルドの職員からも、はっきりと言われてしまった。
しかも彼は聴取中だという。
彼らは、ますます困惑した表情になった。
「お、サトーも来ていたのか。まあミケが絡んでいるから、当然と言えば当然だな」
「あれ? どうしたんですか、軍務卿」
「「「軍務卿!」」」
「サトーと同じく、休日出勤だよ」
と、ここに軍務卿がやってきた。
私服だということは、軍務卿も休みだった様だ。
そして、いきなり現れたこの国の閣僚である軍務卿の登場に彼らは更にビックリしている。
うーん、俺達も冒険者としてのサトーとエステルとリンとでしか自己紹介していない。
正体を明かしたら気絶するかもしれないが、ここは明かさないわけにもいかないな。
軍務卿が座った所で、話を再開した。
「ギルドの方。俺達は冒険者として説明していますよね」
「はい、そうなります」
「ですよね。ということで、少し話をします」
俺は、彼らの方を向き直って改めて自己紹介をした。
「俺達やミケ達の事は冒険者として紹介しましたが、改めて紹介をします」
「「「はい」」」
「俺達やミケは冒険者として薬草ハンターとしての二つ名がありますが、実は別の顔も持っています」
「「「え?」」」
「ミケですが、実は聖女様と行動を共にしている勇者ミケで、リンドウ姓と子爵を賜っています」
「「「は?」」」
「そしてシルク様は、先日の魔物のあふれで大活躍した戦女神でもあり、ランドルフ姓と子爵を賜っています」
「「「え!」」」
うん、三人の思考回路が止まって単語しか出てこないぞ。
ちなみにシルク様の二つ名は、あの魔物のあふれ後に守備兵から言われ始めた。
シルク様は恥ずかしがっていたけど、段々と定着していった。
「ついでにいうと、このサトーはあの有名な聖女部隊の元締めでライズ伯爵。エステルはこの国の王女で、リンは名誉男爵だ」
「「「……」」」
「ミケやシルクとかは、俺らの長年のカンの様に、直感や魔力の流れで善悪がわかる。だから、そいつは間違いなくクロだ」
「ちなみに、冒険者として活動する時は爵位は気にしていない。それに冒険者同士のいざこざも良くある。流石にシルク様を突き飛ばすのは良くないけど、恐らく彼はシルク様を突き飛ばすのが霞むほどの何かをしていそうだ」
目の前の彼らは、俺らの存在に固まってしまったが、何故仲間が拘束されたというのは納得してくれた。
そして、部屋に騎士が入ってきて、軍務卿に何かを伝えた。
軍務卿はまじかといった表情になったので、相当やばい事が分かったのだろう。
「サトー、この案件はサトーも絡む。エステルもリンもだな」
「もしかして人神教国絡みですか?」
「ああ、そうだ」
うおーい、せっかくの休日なのになんて事だ。
エステルもリンも、げんなりとした表情に変わってしまった。
「やつを身体検査をしたら、魔獣化の薬を持っていた」
「え! 魔獣化の薬?」
「しかも、最新のを結構な数だ」
「はあ、それは確かに俺達も絡みますね」
思わず、俺もまじかといった表情になった。
俺の様子を見て、目の前の三人はかなり不安になっている。
「えーっと、説明します。彼は国防に関わるレベルでの犯罪が疑われます。その為に、彼は軍に移送されてこれから尋問を受ける事になります」
「ミケ達が判断したのだから、君らはこの件に関わっていないだろう。しかし、手荷物検査に聴取は受けてもらう。宿泊先も既に捜索している」
「「「分かりました」」」
はっきり伝えた事で、三人は落ち着きを取り戻した。
それと同時に、もう彼とは会えないのも理解した様だ。
そのままこのメンバーで、彼らの宿泊先に向かっていった。
「あれ? お兄ちゃんどうしたの?」
「本当だ!」
「冒険者ギルドであった件だよ。皆は?」
「二軒隣のお店のお掃除だよ。ピッカピカにしているよ! もしかして捜索?」
「そうだよ。ミケとシルク様も一緒だよ」
「じゃあ、手の空いた人をお手伝いに連れてくるよ」
「依頼中だけど、悪いね」
彼らの宿泊先に着くと、たまたまその近所で皆が冒険者活動をしていた。
近づいてきたララとリリに話しかけたら、何人か来るという。
結果的に人神教国絡みなのでレイアがきたのと、ドラコにシラユキとルシアがやってきた。
「むう、人神教国嫌い」
「僕もよく分かるよ」
「あ、これもそうですね」
「また見つけましたよ」
休日しか冒険者活動ができないレイアにとって、せっかくの楽しみを潰されたので激おこだ。
そして、彼らの宿泊先でドラゴが怪しいと睨んだとある部屋から、大量の魔獣化の薬が見つかった。
どうやら、この部屋に宿泊先した人物が人神教国の関係者で間違いないだろう。
「直ぐに、この部屋に宿泊している人物を探し出すように」
「は!」
軍務卿も直ぐに動き始めた。
そして、王都内の宿泊施設全てに緊急査察が入ることになった。
「サトー、この三人を保護してくれないか? 人神教国に顔を見られている可能性がある」
「分かりました。部屋に空きはまだあります。念の為に、ここからワープしていきます」
「悪いな、頼む」
人神教国は平気で証拠隠滅をしてくるからな。
この三人の命が危ないので、うちで保護することに。
荷物検査も終わったので、退出の手続きしてからうちに向かった。
「また人神教国ですか」
「本当にゴキブリよりしつこいですね」
いきなり貴族のお屋敷にワープして、三人はかなりビックリしている。
フローレンスとマリリさんに経緯を話したが、マリリさんの指摘が的を得ている。
空き部屋の関係で三人は地下の部屋になったが、宿泊施設よりも広く個室になったので喜んでいた。
フローレンスとマリリさんに後を任せて、捜索中の宿泊施設に戻った。
「サトー、悪いが緊急会議だ。思ったよりも状況が良くない」
「ぶっちゃけヤバい」
レイアが何か言っているが、大変な事態になっているのはよく分かる。
既にエステルとリンも、ミケ達と街中の巡回をしているという。
ちゃんとお店はピカピカにしたらしい。
一旦うちに帰って、着替えてから王城に向かった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます