第三百二話 薬草取り選手権リベンジ

「な、なんじゃこりゃ!」

「おー、人が一杯」


 今日は皆が薬草を取りに行く日。

 いつもの通りに入園希望者の朝の訓練が終わったので、俺とレイアは王城へ仕事に行こうとした。

 そうしたら、うちの屋敷の前が人で一杯!

 学園服を着ているから、恐らく学園生だと思うのだけど。

 これには、流石にうちの子ども達もビックリ。

 屋敷の中から、キョロキョロと人だかりを見ていた。

 まあ、うちの馬はのんびりしていて動かないから、悪い人はいなそうだ。


「あわわわ。す、すみません、サトーさん」


 と、ここで慌てふためくチナさんがやってきた。

 どうも、チナさんも想定外の事らしい。

 

「今日は王都のギルドに現地集合なのですが、行き先が分からなかったりギルドに怖いイメージを持っている学園生がいて。それで、朝一緒に行こうかと声をかけたら、まさかこんなにも集まっていたので」

「あ、そうなんですね。それなら問題ないですよ」

「納得」


 百人以上いるけど、全員チナさん待ちか。

 チナさんは俺に謝っているけど、それだけチナさんを慕っている事だから何も問題ない。

 チナさんはマールさんとローゼさんと共に、慌てて学園生を連れてギルドに向かった。

 ついでということで、王都で薬草を取るメンバーもチナさん達と一緒について行った。


「それじゃ、私達も行ってくるね」

「夕方までには帰ってきます」


 エステルもリンも、薬草取りに出かけて行く。

 エステルが、ショコラと共に初心者向けのバルガス公爵領へ。

 リンが、スラタロウと共に実家のあるバスク子爵領へ。

 それぞれに、子ども達もついて行った。

 流石にフェアとオリヴィエは、初心者向けのバルガス公爵領について行った。

 さて、俺も仕事に行こう。


「サトー、さっきスラタロウがきてエリザベス達を連れて行ったぞ」

「え?」


 王城についたら、陛下が仕事場にきた。

 今日の薬草取りに、王妃様は参加しないはずだよな。


「しかも、帝国のソフィー皇女とオーウェン皇子とベラ皇女に、公国のジュリエット公女にリディア公女もいたぞ」

「なんで最近会った、他国の人まで一緒何だろう?」

「全くわからん。護衛も連れて、バルガス公爵領に行くと行っていたぞ」

「どう考えても、薬草取りですね。お昼にちょっと聞いてきます」


 陛下も知らないのかよ。

 聞いていると、既に話がついていたような感じだな。

 という事で、普通に仕事をこなしつつ、お昼になったらレイアと共にバルガス公爵領にワープした。


「ちょっと話があってね。薬草取りもしているわよ」

「良い機会だと思って、話をしようと事前に調整していたの」

「陛下にもサトーにも、話の内容はもう少しナイショね」


 バルガス様のお屋敷に行くと、王妃様達が丁度いた。

 王妃様達がナイショと言っているのだから、絶対に教えてくれないだろう。

 無理に聞くことでは無いし、もう少しすれば教えてくれると言うので気にしないでおこう。


「薬草取りって、楽しいですね」

「たまには、こういうのもいいですね」


 ソフィー皇女とジュリエット公女は、お互い知り合いだった。

 歳も近いし、交易を通じて知り合ったという。

 初めての薬草取りを、楽しんでくれているようだ。

 王妃様達の事は、取り敢えず聞くのをやめておこう。

 小さい子同士も、仲良く話をしていた。


「フェア、オリヴィエ。初めての薬草取りはどうだ?」

「楽しい!」

「一杯取れている!」

「そっか。午後も気をつけて頑張ってね」

「「うん!」」


 フェアとオリヴィエも、初めての薬草取りを楽しんでいる。

 他の人達とも、少しずつではあるが話が出来ている。

 サリー様が、二人と色んな人の間に入ってくれているのも大きいな。

 後でお礼をしないと。


「エステル。俺達は王城に戻るから、後は宜しく」

「任せてよ。フェアとオリヴィエも、面倒を見ておくよ」


 エステルに言い残して、レイアと共に王城に戻ってきた。

 

「陛下。王妃様達に確認しましたが、薬草取りとは別に話があるみたいです。どうも事前に個別連絡していたみたいです」

「そうか、どんな内容か聞けたか?」

「いや、ナイショだと言われました。俺には王妃様に尋ねる勇気はありません。もう少ししたら教えてくれるそうです」

「サトーで駄目なら、儂ならもっと無理だな。エリザベス達が教える時を待つとしよう」


 陛下も、手を広げて首を振っていた。

 王妃様からあれこれ情報を聞き出すのは無理だろう。

 陛下もあっさりと納得して、自分の執務室に戻っていった。

 大した事ではないと思いつつ、午後も仕事をこなしていく。

 最近は各部局のやる気が凄いのか、上がってくる書類が多いな。

 とてもいい事だけど、もう少し人手が欲しい。

 というか、最近内政か女装して他国に行くことが多いから、たまにはのんびり薬草取りとかしたいな。


「パパ、ブツブツうるさい」


 はい、ごめんなさい。

 五歳児に怒られるアラサーです。


「ギルドより報告です。王都周辺の森、バルガス公爵領、バスク子爵領共に、魔物の種類に遭遇率は襲撃前と変わらないとの事です」


 夕方前になって、ギルドからの報告が入った。

 森が安定した状態になって一安心。

 どうも薬草も想定した量でおさまったので、各部局で慌てる事もないという。

 少し前は、薬草を取りすぎて各部局に迷惑かけたからな。

 

「おや、このスライムはどうした?」

「バルガス公爵領で薬草取っていたら、何故かくっついてきたんだよ」


 うちに帰ると、応接室で数匹のスライムがぴょんぴょん跳ねていた。

 どうも、エステルが行ったバルガス公爵領の森で仲間になった様だ。

 従魔登録はしてあるみたいで、登録時の紋章がついている。

 黄色に緑に茶色もいたが、白っぽいのと黒っぽいのもいた。

 エステルの話では、白っぽいのと黒っぽいのはレアスライムらしい。


「名前は決まったの?」

「黄色がレモンで、緑がメロン。茶色がチョコ。白がマシュマロ、黑がゴマだよ」

「何で、全部食べ物の名前なんだよ……」


 うちにいるスライムは、スラタロウ以外全部食べ物の名前になってしまった。

 分かりやすくて良いと、納得しよう。

 早速ホワイトとタコヤキが、先輩従魔として色々と教えている。

 毎度の事ながら、過激なことは教えないでね。


「エステル、ソフィー皇女やジュリエット公女は帰ったの?」

「帰ったよ。薬草取りと別に書簡もっていたから、帰りにお父さんの所に寄っていたけど」

「事前に調整していたと聞いていたし、来るときにあわせていたんだな」


 こんな時にもお仕事とは。

 お疲れ様です。

 フェアとオリヴィエも、沢山薬草が取れてご機嫌だった。

 楽しそうに、ララ達と話をしている。

 

「サトー、もう少し大きなかごはある?」

「お、だいぶ大きくなったな。タラちゃん達用の、予備のバスケットを渡しておこう」

「大きいよね! 元気にピィピィ鳴いているよ!」


 ドリーとミケが、火山灰からの救助活動で保護した五羽のサンダーホークの雛が入ったかごを持ってきた。

 だいぶ大きくなって、最初に渡した薬草取り用のかごでは小さくなったな。

 予備のバスケットを渡すと、ドリーとミケで雛を移し始めた。

 そこに皆集まってきた。

 ホワイトは、雛に何かを教えていた。

 普通であれば捕食対象のネズミが、サンダーホークに色々と教えているのも面白いな。

 そして、雛は新しく入ったスライムをちょっと突いて、ポヨポヨさせて遊んでいた。

 特にスライムも、突かれることを気にしていなかった。


「皆さん、ご飯の準備ができましたよ。今日はお鍋です」

「「「やった!」」」

「「お鍋?」」


 ここでマリリさんが応接室に入ってきて、夕飯ができたと告げてきた。

 子ども達は大好きなお鍋にテンションが上がっている。

 対して初めてお鍋を食べるフェアとオリヴィエははてな顔だったが、お鍋を食べる内に段々と笑顔になっていった。

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