第二百八十七話 二人の様子

 念の為に帝国にも知らせておこうということになり、ビアンカ殿下とレイアと共に帝国に向かった。

 もう何回も城を訪問しているので、すんなりと控室に通された。


「久々ですな」

「突然の訪問になり、申し訳ありません」

「いや、軽く内容は聞いているので大丈夫だ。ソフィーは地方を視察しているので、あいにく不在でな」

「そうなのですか。ソフィー皇女も頑張られておられますね」

「少しでも国を良くしようと、皇族も一丸となって頑張っておるよ」


 事前に陛下が皇帝に連絡してくれたのか、すんなりと話に入れた。

 ソフィー皇女が不在なのは残念だけど、民の為にと頑張っているなら仕方ない。

 ビアンカ殿下は、さっそく書簡を皇帝に渡した。


「最近になって、公国が急に鎖国政策を取ってきた。公国の外務大臣が何かをしているのは間違いないが、やはり裏で人神教国が暗躍していたか」

「とはいえ、自給率の低い公国では、禁輸となると飢えるのは民じゃ」

「うちの諜報員の話では、どうも人神教国に従えば食物を輸入すると言っているぞ。勿論、亜人などは排他するのが条件だが」

「相変わらず狂っておるのう。公国は漁業が盛んで、マーメイド族や海龍も多い。既に海龍王妃は、反逆者の討伐に賛同しておるぞ」

「最近は人神教国も焦っているのか、帝国内でも手口が荒くなってる。公国の件が片付くとなると、何をしてくるかわからないぞ」


 皇帝と話をしているが、確かに人神教国の手口が荒くなっているのは事実だ。

 なにかのきっかけで、人神教国内部が爆発しないことを祈るばかりだ。

 きっと望みは薄いけど。


「王国も、警戒を強めた方が良いですかね?」

「公国の対応が終わったなら、特に警戒は必要じゃ」

「ゴキブリ以上にしつこい」

「レイアの指摘が的を得ているな。奴らは本当にしつこいぞ」


 王城に帰ってきて、業務をこなしつつ帝国との話し合いの内容を振り返っていた。

 まだ少し先の話とはいえ、人神教国との全面対決は避けられないな。

 せっかく王国の経済がいい方向に向かっているのに、余計な事はしてほしくない。

 何か手立てを考えないと。


「今日も悪い人を捕まえたよ」

「もしかしたら公国のどさくさに紛れて、この国でも何かをしようとしているのかも」

「帝国の混乱の時はワース金融だったし、本当に勘弁してくれだよ」


 帰宅後に食堂でミケ達に話を聞いたけど、今日も巡回中に人神教国の関係者を拘束したという。

 しかも、明らかに荒々しい感じだという。

 王都の警備も手薄にできないので、公国突入時の人員配置も見直しだ。


「ジュリエット様やリディア様の様子はどうだった?」

「お二人共、体調に異常は見られません。リディア様も動けるようになり、少しですが子ども達と遊んでいました」

「そこまでくれば大丈夫だね」

「ジュリエット様は、入園希望者と共に剣と魔法の訓練をされていました。剣と魔法共にかなりの腕前です」

「それは凄い。きっと公女として、何か手ほどきを受けているんだな」


 フローレンスに二人の様子を聞いて見るが、動けているのは良いことだと思いたい。

 特に、リディア様の回復は喜ばしい事だ。

 子ども達とも仲良くなっているし、従魔も怖がっていない様だ。

 と、ここでジュリエット様が食堂に入ってきた。

 直ぐに、フローレンスが紅茶を用意した。


「ここの皆さんは、侍従も含めて凄い方ばかりですね。私の侍従も、マリリさんに色々と教えて貰っています」

「フローレンスとマリリさんは、うちの侍従の中でも特に優れていますから。相談できることがあれば、何でも聞いて下さい」

「有難う御座います。リディアも元気になって、ほっと一安心です。久々に笑顔のリディアを見た気がします」

「大変な旅をされたのです。お二人共、ゆっくりと体を休めるのが良いかと思います」


 少しリラックスしているのか、ジュリエット様の表情も明るい。

 そんなジュリエットの表情が、ふと暗くなった。


「だけど、こうしている間も民は苦しんでいます。何だか申し訳なくて」

「今日帝国の皇帝とも話をしましたが、公国は鎖国を敷いていると」

「はい、そのために手持ちの食料の不足が懸念されます。今はまだ備蓄分がありますが、そう長くは持たないと」

「となると、こちらもできるだけ早めに準備をして、公国に向かう必要がありますね」

「皆さんには、大変なご迷惑をおかけし申し訳ありませんが」


 しょうがないよな。

 公国を助けるために、危険な旅をして王国まで来たんだから。

 紅茶のカップを見つめながら、うつむいてしまった。


「大丈夫だよ。うちの聖女様がぱぱっと解決してくれるよ」

「そうだよ! お兄ちゃんが、お姉ちゃんの国の悪い人を倒してくれるよ!」

「ふふ、そうですね。聖女様のお力を借りる為に、ここまでやってきたんですから」


 ここでノーテンキなエステルとミケの何とかなる発言で、ジュリエット様の気持ちも少し楽になった様だ。

 そういえば、リディア様はどこにいったのか?

 と思ったら、ララとリリと一緒にリディア様が食堂にやってきた。


「お兄ちゃん、リディアちゃん凄いよ」

「お兄ちゃんと同じ位の聖魔法が使えるよ」

「お、それは凄いな。基礎をしっかりと練習したら、きっと凄い魔法使いになるな」

「えへへ」


 不敬かと思ったけど、リディア様の頭を撫でてあげたら喜んでくれた。

 俺レベルの聖魔法使いなら、相当の実力になる。

 これも公女としての血が為せるものなのかもしれない。

 そういえば、王妃様もめちゃくちゃ強いし、血の影響はあるかもな。


「リディア、頑張って魔法の訓練をするの。そしてお姉様を守るんだ」

「リディア……。じゃあ、私もリディアに負けないように頑張らないとね」


 再びジュリエット様に笑顔が戻った。

 やはり姉妹の仲が良いので、お互いに通じる物があるのだろう。

 楽しそうに二人で抱き合っていた。

 さて、市街地の巡回もあるけど、そろそろ突入の事も検討しないと。

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