第二百六十六話 逸材の様子

「サトーの所にいった逸材ってのは、どんな感じか?」

「ハハハ。天才っているもんですね」

「ドリー凄い」

「サトーとレイアが絶賛するとは。どれだけのものなんだ?」


 ドリーを引き取ってから一週間。

 今日も黙々と仕事をしていると、宰相がドリーの事を聞いてきた。

 うん、あの子は凄い。


「宰相、スラタロウ以外で全属性の魔法が使えるなんて始めてみました」

「まさに賢者」

「そんなに物凄いのか……」


 宰相もビックリしているけど、魔法適正を調べた時は本当にビックリした。

 魔力詰まりを治した結果、膨大な魔力を制御しないといけない。

 なので、今はあえて制御の腕輪をつけている。

 なのに、既に初級魔法は全属性覚えてしまった。

 同じ全属性持ちのスラタロウが、時間を見つけて熱心に魔法を教えている効果もある。


「あの子はずっと褒められていなかった様です。ですので、褒められると嬉しいと感じているようですね。流石にマリリさんやフローレンスが色々やり過ぎない様に、ドリーをコントロールしています」

「そっか。褒められる喜びを与えられていなかったのか。人神教国は罪な事をしたもんだ」

「全くです。あんなにいい子を違法奴隷にしていたのですから」


 人神教国は、ドリーの事をただの実験体にしか見ていなかった様だ。

 全く愛して貰ってなかったので人肌が恋しいのか、たまにリンやエステルと一緒に寝ている時もある。

 当面は、ドリーの心のケアもしていく予定だ。

 少しずつ表情も明るくなってもらいたい。


「ただいま帰りました」

「ただいま」

「おかえり、サトー」


 仕事が終わってうちに帰ると、玄関ホールにトテトテとドリーがやってきた。

 何故かドリーはメイド服を着ている。

 メイド服に、金の毛並みのきつね耳とふさふさの尻尾のコンビがヤバイくらい似合っている。


「無理に仕事しなくてもいいんだぞ。まだ養生しないといけないのだから」

「うん、だからお掃除とか出来ることだけやっている」

「そっか、ありがとうな」

「うん」


 ドリーの頭を撫でてやると、少しくすぐったそうな表情をした。

 ドリーをうちに迎え入れたときに身体の様子を診てみたら、内臓疾患を抱えていた事が分かった。

 ドリーの小ささと痩せていた体は、この内臓疾患が影響していた様だ。

 すぐに治療して全快したけど、まだ体力もないので食事を増やしながら少しずつ動いている。


「おかえり、お兄ちゃん!」

「「おかえり!」」


 俺とレイアに気がついてこちらに来たミケとララとリリも、何故かメイド服を着ている。

 ドリーがメイド服を着だしてから、何故かうちの中では局所的にメイドさんが流行っている。

 たまにエステルやリンも、メイド服を着ているし。

 お手伝いもちゃんとやっているので、特に何も言わないでいる。


「それでは私も頑張って、本家メイドさんの立場が危うくならないようにしないと」

「いや、どう考えてもマリリさんには勝てないですよ」


 マシュー君達五人をいっぺんにお風呂に入れてきたマリリさんがやってきた。

 うん、マリリさんやフローレンスを超えるのは無理だから安心して。

 こんな小さな台風を一度に五人とか、俺にはとても無理です。

 

「ドリーの様子はどうでした?」

「いやあ、天才ですね。一回教えれば直ぐにできます。まあ、体力が戻っていないから休み休みですね」

「体力の方は、ゆっくりと戻すしかないですね。そちらの方が心配なので」

「サトー様は本当に優しいですね。普通は天才の所で嬉しがる所ですよ」

「俺としては、まず元気になって貰いたいですよ」


 どんなに天才であっても、体が元気でなくてはならない。

 才能を無駄殺しにはしたくないな。


 その点はスラタロウも同じ思いらしく、調理担当と一緒に栄養を考えたメニューになっている。

 ドリーは肉が好きで、好き嫌いも多いみたいだけど、そこはうちの料理長が工夫をしている。

 今日の料理の中には、ピーマンの肉詰めが入っている。


「「「美味しい!」」」

「ピーマンが美味しいなんて」


 ドリーは、ピーマンの肉詰めを食べてビックリしている。

 ふふふ、スラタロウの料理の腕は半端じゃないぞ。

 あの野菜嫌いのエステルですら、野菜を食べるようになったのだから。

 子ども達も、ピーマンの肉詰めは大好物なのだ。

 ちょっとずつでいいから、体調を整えて欲しい。

 そう思いながらの食卓だった。

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